2025注目戦士

未来も照らす三重の“一番星”。投打二刀流でチームの重い扉を開くか

未来も照らす三重の“一番星”。投打二刀流で...

2025.04.09

【2025注目の逸材】 つじもと・しょうご 辻本翔虎 [三重/6年] しょうの 庄野シリウス ※プレー動画➡こちら 【ポジション】投手、三塁手 【主な打順】二番 【投打】右投左打 【身長体重】157㎝46㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、佐藤輝明(阪神) ※2025年4月8日現在    試合中の指揮官と選手との間では、多くがアイコンタクトやゼスチャーで意思疎通がなされていた。コーチ陣は前向きな声掛けに終始。打席でも守るフィードでも、選手たちは冷静かつアグレッシブ。どういう状況でも、結果を恐れたり、大人の顔色をうかがうような所作は見られなかった。 活況を呈するチーム 「子どもたちがワ~ッ!という楽しさよりも、試合に勝つ喜びとか、強いチームの仲間たちと良い勝負ができたりとか、そういう醍醐味や充実感を味わってほしい。今日のこの大会は3つ負けましたけど、勝ち負けより得るものは大きかったと思います」(林貴俊監督=下写真)  三重県の庄野シリウス。5・6年生チームの試合を筆者が初めて取材したのは、昨年11月の多賀新人強化大会だった。  この大会は5年生主体の新チームの腕試しの場で、日本一3回の多賀少年野球クラブ(滋賀)が主催。近畿、東海、北陸、中国などから毎年、全国舞台を目指すチームがやってくる。  シリウスはトーナメントの初戦で敗れ、敗者復活戦でも連敗。それでも大所帯に弛緩したムードはなく、プレーする選手もベンチも最後まで集中が保たれていた。学童野球チームがこの15年で4割減という、負の流れに逆行している理由の一端がうかがえた。  そして際立っていたのが、投打二刀流の辻本翔虎だった。 「試合中はドキドキしていました」と言う割に、落ち着き払った言動やプレーが印象的で、スケール感も訴えてくる。2試合を消化した時点で、左打席から3本のサク越えアーチを放ってみせた。  プレー動画には3本のうち1本しか収められていないが、いずれもライト方向へ。当たった直後に70mの特設フェンス越えは明白、という豪快な打撃だった。 「打席ではセンター方向に打つことを意識してるけど、ホームランはライト方向が多いです。打った瞬間は気持ちいいというか、うれしい感じです」  1学年の上の代でもレギュラーを張ってきた2024年、辻本は20本近くの本塁打をマークした。バットヘッドを投手方向に深く傾けつつ、大きく足を上げる一本足打法がこだわりであり、長打力の秘訣。相手投手は当然、タイミングを外す投球もしてくるが、対策もばっちりだ。 「タイミングが合わないときは、(引き上げた)足を1回着いて振ることもあるし、速いボールを待ちながら緩いボールを打つ練習を監督やコーチに教えてもらってやっています」...

岡山の“スマイル王子”。35期目「最強世代」を三刀流で全国へとリード

岡山の“スマイル王子”。35期目「最強世代...

2025.04.02

【2025注目の逸材】 くらなが・はやと 倉永 隼 [岡山/6年] 一宮ウイングス ※プレー動画➡こちら 【ポジション】投手、遊撃手 【主な打順】一番 【投打】右投右打 【身長体重】154㎝44㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、坂本勇人(巨人) ※2025年4月1日現在 「全国」を名乗る学童野球の大会は、今日では相当数ある。一方、4年生以下の全国規模の大会は皆無で、多くは各都道府県下で行われている。こうした中で最大規模となるのは、「西日本大会」とも呼ばれている「佐藤薬品工業旗近畿学童軟式野球4年生大会」だろう。 3年生の3月に閃光  開催地は奈良県で、第1回大会は2017年。近畿2府5県に四国の徳島県を加えた16チームでトーナメント戦と交流戦が行われた。2019年から東海2県と中国・四国に枠が広がり、コロナ禍の中止を経て2022年の第6回大会で復活。現在も正式な大会名に「近畿」とあるが、近畿・中国・四国・東海(岐阜・三重)の4ブロックの「4年生以下No.1」を決する大会として定着してきている。  岡山県の一宮ウイングスは、2023年の第7回大会で初出場し、1回戦を突破した。2回戦では、優勝することになる多賀少年野球クラブ(滋賀)に1対7で敗北。また、その半年前には多賀グリーンカップで準優勝(=上写真)しており、決勝で敗れた相手が同じく多賀だった。  3年生が主役の多賀グリーンカップは、先の週末に第21回大会を開催したばかり。罵声怒声をいち早く禁じた大会としても知られ、保護者も指導者も自ずと笑顔になって野球の幸せを享受する。この“ハッピーワールド”の3年生大会は東北や東京や岡山へも広がっているが、日本一3回の多賀が主催する本家の大会で2年前に、飛び切りの笑顔とパフォーマンスを見せていた一人が倉永隼だった。 2023年3月25日、多賀グリーンカップ。倉永(上)は攻守で輝き、久成監督(下中央)が率いるチームは準優勝。選手も保護者も底抜けに明るかった  攻守両面で躍動感と華がうかがえる倉永は、何より楽しそう。遊撃の守りは3年生とは思えないほど、広くて巧み。右打席でのスイングは鋭く、長打も複数あった。  折しも、WBCで侍ジャパンが世界一に返り咲いた直後とあって、塁上での“ペッパーミル”パフォーマンスが大流行する中、倉永はメキシコ代表・アロサレーナ(マリナーズ)の“腕組&ドヤ顔”パフォーマンスも披露。それがまたつくづく絵になっていた(=下写真)。 「4年生までに久成監督から野球の基礎と楽しさを教えてもらいました。あとは一塁まで全力走とか、当たり前のことを当たり前にやること」 「本気の遊び」に夢中  あれから2年が経過した今も、大好きな野球を満喫しているようだ。5・6年生チームを率いる本井健太監督は、倉永のプレースタイルを「本気の遊び」と表現した。 「子どもらしい子ども。彼にとって野球は遊びというか、ホントに楽しんでいるんだと思います。緊張する場面では緊張もしているんでしょうけど、基本的にニコニコしていて、ココというときにはパッと判断して動くこともできる」  投手と遊撃手と一番打者の三刀流、そのいずれにおいても輝ける逸材。指導キャリア15年の指揮官にとっても、間違いなく5本の指に入るという。...

4年秋に東京V、6年夏は全国へ!三刀流の“野球の申し娘”いよいよ集大成

4年秋に東京V、6年夏は全国へ!三刀流の“...

2025.03.21

【2025注目の逸材】 いしい・みゆう 石井心結  [東京/新6年] カバラホークス ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、投手 【主な打順】二番 【投打】右投右打 【身長体重】149㎝39㎏ 【好きなプロ野球選手】今宮健太(ソフトバンク) ※2025年3月15日現在 ※2023年3月公開「注目戦士」(当時4年)➡こちら 下2枚は2年前の3年生2月  体も心も伸び盛り。小学生にとっての「2年」という歳月の重さや密度を感じずにはいられない。 3年生で記者もクギ付けに  日本で唯一の『学童野球専門のデジタル報道メディア』として、当メディアを開設したのが、ちょうど2年前の2023年3月のこと。前例も定型もない「無」からのスタートで、当初はほぼ手探りでコンテンツを製作していった。  オープンに先駆けての同年2月、東京都足立区の低学年大会で、記者の心もつかんだ3年生(新4年生)がいた。背番号34。全国出場の実績もある強豪、カバラホークスの石井心結だった。  捕る・投げる・打つ・走る…すべての動作が基本に忠実で、投げるフォームがとりわけ美しい。野球もよく知っていると見えて、次の展開やその準備を促す仲間への声掛けも適切で丁寧でコンスタント。また、よほど勝ちたいと見えて、攻撃中のベンチでもあちこちと動きながら打者を励まし、次打者にアドバイスをする姿もあった。  何と頼もしいリーダーか。確認するまでもなく、キャプテンだった。深く差し込んでくる、冬の陽光を跳ね返すサングラスもお似合い。そしてそれを外さない限りは、女子であることを部外者に知られる要素がまずなかった。 「東京23区大会と、ジュニアマック(都大会)に出て優勝することが今の目標です。夢は女子プロ野球選手になることです」  おそらく初めて受けただろう取材に対しても、落ち着いた口振りだった。 教科書を見るような動作  あれから2年。石井は身長が15㎝近くも伸びて150㎝の手前まできている。体型と顔立ちは大きく変わっていない。あどけなさが抜けて精悍さを増した感じもするが、前を見据える澄んだ表情は3年生のころのままだ。  また、どの動作も相変わらず、お手本のよう。背番号28のコーチでもある父・弘さんとの朝練も途切れることなく、主体的に続けているという。 写真上は2年前、下は現在...

突出「守」で2年生からベンチ入り。打投+心と脳も成長、4年連続夏の全国へ

突出「守」で2年生からベンチ入り。打投+心...

2025.03.12

【2025注目の逸材】 さとみ・あおい 里見葵生 [滋賀/新6年] たが 多賀少年野球クラブ ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、投手 【主な打順】三番 【投打】右投右打 【身長体重】145㎝43㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、源田壮亮(西武) ※2025年3月10日現在 「小学生の甲子園」全日本学童マクドナルド・トーナメントで、これほど長く経験を積んでいる新6年生は他にいない。 4年夏に全国デビュー  里見葵生は2年生の冬から、名門・多賀少年野球クラブでトップチームに加わり、3年生から3年連続で夏の全国大会に出場中。4年時の初戦(2回戦)に途中出場で全国デビューを果たし、昨夏(5年時)は正遊撃手として3回戦まで進出した。1回戦の2回に右中間へ放ったチーム初ヒット(=下写真)は、無死満塁からの逆転2点タイムリーで、一気に9得点というビッグイニングにつなげた。  日本一3回の名将・辻正人監督の口から、その存在を初めて聞かされたのは2021年の1月、東京での大交流大会のときだった。 「あの子、『スーパー2年生』ですよ! 小さいけど、守備が抜群。ああやって6年生の中に入ってノックを受けても、2年生ってわからないでしょ!?」  昨夏の全国大会初戦当日には、指揮官が推す選手として、下級生の里見の名前が真っ先に挙がった。 「里見がさらに伸びてますね。ショートのキャプテン(松岡湧隼=現6年、卒団済)がケガで出ていない間に、代わりに出ていて実力でレギュラーになりよったんですよ」(辻監督)  戦列復帰した松岡主将は、全国では一番・三塁でプレー。里見は六番か七番を打った。 コロナ禍明けの2022年の夏の全国出場時は3年生(写真上=マスクが里見)。5年生となった昨夏の全国大会は遊撃守備でもチームに貢献(写真下)  迎えた2025年の1月。新6年生の里見を、名将はこのように評価していた。 「ちょっと前に肩をケガしてしまって、センターを守らせて投げないようにしてるんですけど、外野になったらなったで、また抜群にうまい。何でも捕りよる。あの守備力は外せないですね」  そして今回の紹介記事を書くにあたり、あらためてコメントをもらうと――。 「投力も打力も平均以上。3段階の球速で頭の良いピッチングをするし、バッターでは今、一番信頼がある。どのボールに対しても対応して広角に打ち返せる。でも一番抜けているのは、ショートの守備力ですね。打球への反応なんかは中学生より上ですよ。どんなイレギュラーバウンドも、ギリギリで反応して横で捕ったり、後ろで捕ったりするし、肩も強い。三遊間の打球もほぼ追いつくし。今年は内野でダブルプレーを取るのが、チームのひとつ形になると思います」(辻監督)...

万能“スーパー3年生”から3年。新主将は学童最後の夏に栄冠に輝くか

万能“スーパー3年生”から3年。新主将は学...

2025.03.05

【2025注目の逸材】 いしつか・たくみ 石塚 匠  [茨城/新6年] くきざき 茎崎ファイターズ ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、投手 【主な打順】一番、三番 【投打】右投左打 【身長体重】148㎝38㎏ 【好きなプロ野球選手】イチロー(元マリナーズほか)、源田壮亮(西武)、近藤健介(ソフトバンク)※2025年3月1日現在  「6年生が少ないというのは、指導者の言い訳だと思っています」  全国大会に2ケタ出場、2019年には全国準優勝している茎崎ファイターズの吉田祐司監督が持論を語ったのは、2年前の2023年2月。新6年生は6人ながら、フィールドフォースカップで5年ぶり2回目の優勝を果たしたときだった。 名将もぞっこん3年坊  同日の朝、試合場に現れた名将がこのように口火を切ったのも印象的だった。 「ウチに楽しみな3年生(新4年生)がいるんですよ。背番号6の子。トップバッターでショートを守らせているんですけど、抜群ですね」  それが2年前の石塚匠だった。試合前のシートノックでは、上級生たちも顔負けのグラブさばきを披露。決勝では右中間に逆転タイムリーを放つなど、指揮官の評価に偽りのないことを実証した。 2023年2月のフィールドフォースカップ最終日、3年生(当時)とは思えぬパフォーマンスを攻守で披露した  名門の“スーパー3年生”は、その後も一番・遊撃の座を揺るぎのないものとし、1年後のフィールドフォースカップ決勝ではサク越えの同点ソロを放っている。さらには夏の全日本学童予選の茨城大会でも2連覇に貢献と、順調に育ってきて学童ラストイヤーを迎えている。 「一昨年と去年は全国大会の初戦で負けているので、今年は全国優勝したい。チームで必勝祈願したときにも、そういうお願いをしました」 2年連続の全国出場にも寄与。上2枚は4年時の県大会決勝(2023年6月)。下2枚は1年後の5年時  新チームからマウンドに立つことも多くなり、1月末の関西遠征では完全試合の快投も演じた。それも相手が、昨夏の全国準Vなど全国区の強豪・北ナニワハヤテタイガース(兵庫)だったから、自信にならないわけがない。 「キャッチャーのミットにしっかり投げ込むことを意識して、結果として6イニング打者18人を完全に抑えられました。良いバッターのときは力で抑えて、下位打線とかは周りに打たせたり、そういう調整はしていました」  昨秋の新人戦では最速92㎞。驚くような速球派ではないが、緩急でコースを突きながらの投球で、10月の県大会決勝は4回1安打完封勝ち。翌11月の関東大会(ベスト4)では速球のアベレージが90㎞台に上がっていた。...

「整い野球」王者の申し子。向かうは“史上初”の3年連続日本一

「整い野球」王者の申し子。向かうは“史上初...

2025.02.26

【2025注目の逸材】 たけぞえ・らい 竹添來翔  [大阪/新6年] しんげ 新家スターズ ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、右翼手 【主な打順】三番 【投打】右投左打 【身長体重】146㎝44㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、柳田悠岐(ソフトバンク) ※2025年2月24日現在 「小学生の甲子園」こと全日本学童マクドナルド・トーナメントを2連覇中の大阪・新家スターズは、前年度優勝枠で今夏の出場が決まっている(4年連続5回目)。  その夢舞台に初出場したのが2017年で、当時の主将を務めていたのが竹添家の長男・雅樂。また同級生には、背番号28の吉野谷幸太コーチ(現監督)の息子もおり、聖地・神宮で入場行進している。 兄弟の夢も叶えた三男  竹添家の次男は2021年の府大会決勝で敗れて全国出場はならずも、阿波おどりカップで準優勝。そして半年前の2024年夏、5年生で唯一のレギュラーとして「小学生の甲子園」2連覇に貢献したのが三男の來翔だった。 2024年の全日本学童大会で2年連続2回目の優勝を果たした新家ナイン。写真上は左端が竹添  末っ子の三男坊は、生まれたときからチームぐるみで可愛がられてきたという。吉野谷監督も「自分の子みたいなもんですよね」と思いを馳せる。 「ライ(來翔)のことはもう、お母さんのお腹にいるときから知ってますからね。小さいときからお兄ちゃんにず~っと付いて回っていて、当たり前のようにウチで野球を始めて(2年生から)。やっぱり三男坊の図太さというのか、大舞台でもホンマに緊張していない感じでしたね」  竹添は世代でも随一の高みに登った。ただし、野球の腕前は兄2人にまだまだ遠く及ばない。母・亜希子さんによると、末っ子ゆえの奔放さもある一方で、兄たちの存在によって負けん気と向上心が刺激されながら育ってきているという。 「お兄ちゃんたちのハードルはかなり高いですね。いろんな大きな大会に行って活躍しても、家に帰ってくれば、お兄ちゃんたちからは厳しい一言、二言があったり。自主練でも厳しい言葉で教えられている部分もあります」(亜希子さん)  兄たちの言動はもちろん、弟を思えばこその兄心から。三男坊が抱く大きな夢を知れば、愛のムチはさらに増すのかもしれない。 「将来はプロ野球選手になりたいです。走攻守の全部がそろった、ソフトバンクの柳田選手(悠岐)みたいになりたいです」(竹添)  何でも器用にできるのが現時点の最大の魅力。可能性は無限に広がっていると言えるだろう。 抜かりなき走攻守...

関東&東京の新人戦V。泰然自若のエース左腕が全国初名乗りへ

関東&東京の新人戦V。泰然自若のエース左腕...

2025.02.21

2025注目の逸材】 とよだ・かずき 豊田一稀  [東京/新6年] はたのだい 旗の台クラブ  ※プレー動画➡こちら 【ポジション】投手、三塁手 【主な打順】五番 【投打】左投左打 【身長体重】145㎝41㎏ 【好きなプロ野球選手】今永昇太(カブス) ※2025年2月20日現在    バッテリーと一塁手を除く内野手は、一塁へ投げる頻度が圧倒的に高い。バント処理も多い三塁手となれば、強烈な打球への対処に位置取りがカギとなり、前後の移動スピードも問われる。  さらに左投げとなれば、送球前に体を切り返す(足の踏み替え)手間が加わる。必然的にそれだけの時間を要し、一塁送球でアウトを奪う確率は下がる。ところが、新人戦の関東王者のエース左腕、豊田一稀は三塁守備もクールにやってのける。守備範囲の広さと確実性が、先述のリスクを凌駕しているのだろう。 「東京トップクラス」  そもそも学童野球の三塁手は、他に守る選択肢がない選手に与えるようなポジションではない。豊田の三塁守備はチームの足かせどころか、守る武器のひとつとなっている。 「ボクは左利きなので、相手はバントも多くなると思うんですけど、常にそれも頭に入れながら守っています」  一塁に投げてセーフかアウトか、微妙なタイミングもある。もちろん、アウトを100%奪えるわけではないが、慌てて打球をお手玉したり、送球が高く抜けてしまうようなミスはほぼない。むしろそういうときにこそ、強くて正確なボールを投げられている。  豊田のそういうメンタリティーも踏まえて「東京でもトップクラスにいるピッチャーだと思います」と目を細めるのは、酒井達朗監督だ。創部58年目の旗の台クラブのスタッフで一番の古株、指導キャリア20年を超える指揮官は、エースへの賛辞を惜しまない。 「球がとんでもなく速いとか、制球が抜群というよりも、総合力で図抜けてますね。けん制もフィールディングもマウンドさばきもいい。味方がエラーしたときの振る舞いや態度、ピンチでの気持ちの整理の仕方なんて、もう高校生並ですよ。今風じゃないかもしれないですけど、珍しい子だと思います」  2日間で3試合を消化した昨年11月の関東新人戦では、最速は1回戦の初回に三番打者に投じた99㎞。開始から飛ばして5回1失点と試合をつくり、逆転サヨナラ勝ちにつなげた(リポート➡こちら)。 都新人戦決勝は2回から登板して2失点で胴上げ投手に。打っても2打数2安打、右翼線へ二塁打を放っている  明くる日の準決勝は、球速は総体的に抑え気味で打たせて取りながら、4回2失点とゲームメイクし、65球でお役御免に(リポート➡こちら)。何より際立ったのは、ピンチやバックの適時失策の直後など、正念場で左腕が力強く振られていたことだった。 「昨日投げていた(67球)ので、今日はそんなに球速はいかないと思ってスローボールも多く混ぜて投げました。ボクはタイプ的に、ストライク先行で打たせて取っていくピッチャーです」...

野球にぞっこん鉄の意志。夏の全国デビューを期す勝負強きリーダー

野球にぞっこん鉄の意志。夏の全国デビューを...

2025.02.17

【2025注目の逸材】 いのうえ・ゆいと 井上結翔  [兵庫/新6年] あまがさき 尼崎スピリットクラブ ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、投手、中堅手 【主な打順】一番、二番 【投打】右投右打 【身長体重】147㎝41㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース) ※2025年2月12日現在   お笑いコンビ『ダウンタウン』の出身地としても有名な兵庫県の尼崎市。大阪府に隣接する人口40万人超の中核都市はまた、学童野球の一大激戦区でもあることをご存知だろうか。 全国区ひしめく地で  昨夏の「小学生の甲子園」全日本学童マクドナルド・トーナメントで準優勝した北ナニワハヤテタイガースは、昭和最後の1988年に、同大会と全国スポ―ツ少年団軟式野球交流大会をダブルで制覇している(※現在は同時出場不可)。平成の時代には、浜ウインドキッズが台頭してきて2012年に全日本学童3位、2016年に全国スポ少交流で3位に。同じく全国区となっていた成徳イーグルスが、令和時代の2022年に全国スポ少交流で初優勝(2チーム同時優勝)し、全国初陣だった武庫之荘(むこのそう)が4強入りしている。  それ以外にも、夏の2大全国大会に名を刻んだチームが複数。現在も38チームがしのぎを削っている。 2009年のチーム創設メンバーでもある船山監督は、冷静沈着。新6年生たちは1年時から継続指導しているとあって個々を熟知している  近年の全日本学童の県予選は、開催地の尼崎市には出場枠が8程度ある。だが、市の予選は他大会の成績によるシード権がなく、大会序盤での実力派のつぶし合いも珍しくないという。 「全国大会に出るチームは、そういう運も含めて持っていると思うので、言い訳にはしたくないですね」  こう語るのは、尼崎スピリットクラブの船山俊幸監督。チームはまだ全国出場こそないが県大会の常連で、2023年秋の近畿大会(佐藤薬品工業旗)では現5年生たち(新6年生)を率いて準優勝を遂げている。 近畿決勝の雪辱成る  近畿大会決勝のスコアは2対4。敗れた相手は、全日本学童2回の優勝を誇る滋賀県の多賀少年野球クラブだった。  それから1年後の昨秋、滋賀県で開催された多賀新人強化大会の決勝で両軍は再び対峙した。そして尼崎が3対1で勝利し、リベンジを果たしている。 2024年11月4日、多賀新人強大会で優勝。1年前の近畿大会決勝で敗れていた多賀少年野球クラブを決勝で破ると、ナインの喜びが爆発した 「自分たちは4年生のときから、全国出場と日本一が目標で、それをずっと言い続けています。みんなをそこに連れていって、優勝させられるキャプテンになりたいです」...

秋一番の閃光。インテリジェンスとハードワークの「10」小さな御大

秋一番の閃光。インテリジェンスとハードワー...

2025.01.31

【2025注目の逸材】 さとう・ゆういちろう 佐藤優一郎  [東京/新6年] ふなばし 船橋フェニックス ※プレー動画➡こちら 【ポジション】捕手、三塁手 【主な打順】一番 【投打】右投右打 【身長体重】137㎝39㎏ 【好きなプロ野球選手】周東佑京(ソフトバンク)、森下暢仁(広島)、秋山翔吾(同)、坂本勇人(巨人) ※2025年1月30日現在         全国で唯一、1000チーム以上が加盟する東京都。5年生以下の新チームのチャンピオンを決める秋の新人戦は、ここ2年連続で同一のカードとなっている。  相対したのは世田谷区の船橋フェニックスと、品川区の旗の台クラブ。2年前は船橋が、昨秋は旗の台がそれぞれ制している(リポート➡こちら)。どちらも内容を伴う好勝負で、2年続けてセンセーションを巻き起こしたのが船橋だった。 先輩に続くセンセーション  2年前の現6年生(卒団済)たちは、体格と投力とパワーが抜きん出ていた。その彼らの試合中に、一塁側の応援エリアで身を乗り出すようにして声を張り上げていた4年生(当時=下写真)が、1年後の同じ舞台で戦列なインパクトを残した。  それが新6年生の背番号10、佐藤優一郎だった。決勝当日は11月の誕生日前でまだ10歳、身長135㎝にも満たぬ小兵にして、2本のランニングホームランを放ってみせた(※プレー動画参照)。それも1本は先頭打者弾で、2本目は逆転された直後の一時勝ち越し弾。 「打ち方はスクールとかお父さんに教えてもらっているんですけど、構えはそのスイングに入りやすいように自分で考えてやっています」  右打席に入ると、上体を低くしたクラウチングの体勢で投手を一度見据える。そして、余して握るバットから放つ打球の、何と鋭かったことか。また身体を左へ倒しつつ、ベースを蹴ってダイヤモンドを駆けていく姿の、何としなやかだったことか――。  3打数3安打2打点と、トップバッターとして文句なしの成績。しかも右中間、中前、左中間と、素直に全方向へ打ち返した。最終的に再逆転されて敗北も、船橋の背番号10の輝きは抜きん出ていた。  サイズ頼みの早熟型ではない。かといって、粗くて拙い晩成型とも違う。マスクを被っても、鋭敏で小回りも利くミニサイズ。それでいて予想や先入観も遥かに超える、打撃のスキルと出力のマキシマムは実に痛快だった。 「夢は大谷選手(翔平=ドジャース)越えの大リーガーです」  さすがに50㎝以上の身長差は埋まらないかもしれない。それでも、ゆくゆくは本家とは違うスタイルで世の野球ファンをあっと言わせ、人々に愛されるスターに、もしかすると――。  時期尚早は百も承知だが、知るほどになお肩入れしたくなる。そんな11歳と2カ月の少年だ。...

愛知新人戦王者が誇るリードオフ。岐阜市1万6000人超でNo.2の“韋駄天”

愛知新人戦王者が誇るリードオフ。岐阜市1万...

2025.01.24

【2025注目の逸材】 よしの・かいと 吉野海音  [愛知/新6年] こっつ 木津ブライト  ※プレー動画➡こちら 【ポジション】遊撃手、投手 【主な打順】一番、三番 【投打】右投右打 【身長体重】148㎝42㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、岡林勇希(中日) ※2025年1月20日現在     「速いなぁ~!!」  プレー動画のラストにも観戦者の感嘆が入り込んでいる。  初見ではきっと多くの人が、ため息や声を漏らすのだろう。筆者も一発でその健脚にクギ付けとなり、以降は夢中でカメラのファインダー越しに追ったが、画角に収め続けるにも難義するほど速かった。  聞けば、5年生の春に学校で計測した50m走は「7秒6」。暮らしている岐阜県岐阜市での記録会では、小学5年生1万6383人(2024年度の公立校)の中で2位のタイムだったという。  吉野海音はその反則級のスピードも生かしたリードオフマンとして、昨秋の新人戦で愛知大会優勝に貢献した。 「二塁打とか三塁打とか、バッティングでも活躍できて自信になりました」  木津ブライトは全日本学童マクドナルド・トーナメントに1回、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会に2回の出場実績がある。昨年末には、お伊勢さん杯で全国優勝など、安定している全国区の強豪だ。  新チームはタレントが豊富で、総じてハイレベル。11月の県大会(新人戦)は、1回戦から決勝まで4試合すべてで相手を完封した。遊撃手と投手を兼務する吉野が登板するまでもない、勝ちっぷりだった。 「県大会でも吉野の足は武器になりました。頼もしい切り込み隊長ですけど、6年生になると大会も増えてきますし、ピッチャーもやってもらうことになると思います」  こう語る竹村和久監督は、指導歴20年。新年度は5年生たちと持ち上がり、初めてトップチームを率いることになっている。試合中はじっと戦況を追いつつ、確かめるように選手の目を見ながらサインやアドバイスを送る姿が印象的。ヘッドコーチとして全国舞台も経験している新指揮官には、こんな哲学やモットーがあるという。 全国2大大会に3回導いた名将・玉置幸哉監督の下で、参謀役も務めてきた竹村監督。指導歴21年目で初めて、トップチームを率いることになり、玉置前監督はコーチでベンチ入りする予定...

関東新人戦で最速記録。103㎞左腕、悲願の日本一へ“豊上カルテッド”形成

関東新人戦で最速記録。103㎞左腕、悲願の...

2025.01.09

【2025注目の逸材】 やまざき・ゆずき 山﨑柚樹 [千葉/新6年] とよがみ 豊上ジュニアーズ ※プレー動画➡こちら 【ポジション】投手、一塁手 【主な打順】七番 【投打】左投左打 【身長体重】150㎝42㎏ 【好きなプロ野球選手】今永昇太(DeNA)、小林宏之(元ロッテほか) ※2025年1月7日現在  「今年はいつになく、髙野(範哉監督)の本気度みたいなものを感じますね」 “千葉の盟主”豊上ジュニアーズを率いる名将の腹心、原口守コーチがそう打ち明ける。  2025年の学童野球界は、このチームを軸に回ることになるのかもしれない。個々の成長と全体の底上げをしながら、全国ベスト8まで躍進した昨夏が記憶に新しいところ(リポート➡こちら)。  その8強メンバーには、5人の5年生たちがいた。福井陽大と神林駿采はレギュラーの主力で、中尾栄道は「代打の切り札」。いずれも世代屈指とも言える有望株で、このトリオが看板となった新チームは当然のように、新人戦の千葉大会を制して関東大会へ。 うれしい悲鳴のワケ  迎えた秋の最高位の舞台。関東大会で脚光を浴びたのはしかし、聞き覚えのない名前の背番号1だった。“関東の雄”茎崎ファイターズ(茨城)との1回戦で先発した、サウスポーの山﨑柚樹だ。  注目の一戦でまっさらなマウンドに立つと、初球で3ケタの100㎞をマーク(球場表示)。さらに101、102と球速を増しながらトップバッターを追い込むと、80㎞の遅球(ファウル)に続く、102㎞の速球で見逃し三振に。  そのままエンジン全開で、3者凡退で立ち上がった。この初回の三番打者に投じた2球目の「103㎞」が、大会の全投手を通じた最速レコードだった。 「茎崎には練習試合でも投げたんですけど、バッティングも良いチーム。一番の石塚(匠)クンにも打たれてたので、今回は絶対に抑えてやろうと強めに投げました」(山﨑)  茎崎の一番・石塚もやはり、指折りの左打者で、4年生で全国デビューしている。その看板バッターを2打数無安打に。  意識や気持ちの過多は、ボール球の先行や四死球につながりがちだが、マウンドの背番号1は常に堂々としていた。バックに複数のミスがあり、四死球や被弾もあって勝負には敗れたものの、70球に達する4回二死まで投げ抜いて失点5の自責点1。最後は回またぎで3連続三振を奪ってみせた。  何より際立ったのは、バランスの取れたフォームから最後に力強く振られる左の腕だった。いちいち電光掲示板の球速を確認するまでもなく、そのストレートは生きて走っていた。 「ホームランも打たれましたけど、103㎞を出せたのは自分的には良かったと思います」...