全日本学童大会

【直前最終展望《後編》】右の山には東西2強...
全国47都道府県の代表によるチャンピオンシップ。「小学生の甲子園」こと高円宮賜杯第44回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、6日間で出場51チームから日本一が決するまでに計50試合が消化される。展望の後編では、巨大トーナメントの右側半分のブロックに焦点を当てていこう。 (写真&文=大久保克哉) ※展望前編(トーナメント右ブロック)➡こちら きた 北ナニワハヤテタイガース [兵庫/1965年創立] 出場=2年連続4回目 初出場=1988年/優勝 【全国スポ少交流】 出場=3回 優勝=1回/1988年※初出場 北ナニワは昨夏の全国でプレーした選手が4人。山口(写真)がエースとなり、北島とのバッテリーで兵庫大会を連覇している トーナメントの右側の山は、予想がなかなか難しい。というのも、過去の上位進出チームがごく限られていることもあり、つかんでいる情報も左側の山に比べると確実に少なくて薄いのだ。 むろん、出場チームや組み合わせには何ら非はない。当メディアの体力不足でしかないのだが…。 過去の日本一チームは、兵庫・北ナニワハヤテタイガースのみ。1988年に全国スポーツ少年団軟式野球交流大会とのダブルで初出場初優勝を果たしているが、現在は予選の段階から2大会同時出場が不可能に(※詳しい経緯は「レジェンドインタビュー」➡こちら)。あとは両大会を通じても、メダルに輝いているのは2019年準Vの茨城・茎崎ファイターズと、前年2018年の宮崎・三股ブルースカイしかない。 みまた 三股ブルースカイ [宮崎/1996年創立] 出場=6年ぶり4回目 最高成績=3位/2018年 初出場=2009年/2回戦 【全国スポ少交流】 出場=なし 全体の半数を占める初出場組や、まだ上位進出のないチームにも優勝の可能性はある。ただし、直近15年での初出場初優勝は、2013年の兵庫・曽根青龍野球部と、翌14年の愛媛・和気軟式野球クラブのみ。また、曽根青龍は優勝2年前の2011年に全国スポ少交流で3位となっており、両大会を経験した選手も複数。つまり実質的には、2回目の夏の全国大会だった。 近年の東京の夏は40度に迫る酷暑が連日のように続く。最長で6日間の6連戦。これを最後まで勝ち切るのは、特に遠征と宿泊を伴う初出場組には相当に困難だと言えるだろう。 鬼門に不気味な相手...
【直前最終展望《後編》】右の山には東西2強...

【直前最終展望《前編》】V2へ走る不敗王者...
「小学生の甲子園」こと高円宮賜杯第44回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月15日夕刻、東京・神宮球場での開会式から始まる。『学童野球メディア』からの特ダネのプレビューは、前・後編に分けての大展望で締めとしよう。なお、全47都道府県の予選や代表チームを取材できているわけではないので、あくまでも観戦や応援の参考のひとつに! (写真&文=大久保克哉) しんげ 新家スターズ [前年度優勝・大阪/1979年創立] 出場=3年連続4回目 最高成績=優勝/2023年 初出場=2017年/2回戦 【全国スポ少交流】 出場=3回 優勝=2回/2015、19年 1年前の初Vにも貢献した2人。山田(上)が投打の要、藤田主将(下)はチームを引っ張る 完全無欠の全勝ロード。新チーム始動から練習試合を含めて、まだ1敗もしていないという。昨年度のチャンピオン、大阪・新家スターズは今年も突き抜けている。 毎年の優勝チームには翌年の出場権が与えられ、都道府県予選も免除される。それでも新家はあえて、府予選に参加して2連覇を達成。ハイレベルな大阪の王者というプライドも携えて、夢舞台に登場となる。 「もちろん、やるからには今年も獲らせていただくつもりですけど、あまりにも優勝、優勝と言い過ぎても子どもたちのプレッシャーですから。大会の横断幕にもあるように『楽しんでいこうぜ!』という感じの声掛けもしているところです」 こう語る千代松剛史監督は、百獣の王を思わせるような眼光の勝負師だ。でもその実、謙虚で思慮深い。選手と1対1のコミュニケーションも密で、言動に説得力がある。激変する時代にあっても、学童球界をリードするべき大人のひとりであることは、当メディアの過去の記事や動画でもお分かりいただけるだろう。 実情も手の内も隠さず 走攻守すべてに抜かりのない、新家の″整い野球″は健在。昨年のV戦士のうち、藤田凰介主将と山田拓澄(「2024注目戦士」➡こちら)が残るのも心強い。 「打撃はどのチームも強烈でハマったら怖い。ウチは正直、長打力だけは去年のほうが上。投手は左の山田と、右が3枚。エースの山田はちょっと調子が悪いので、誰が軸かは本番次第」 千代松監督が実情をそこまで話せるのは、余裕からではない。「選手はあくまでも成長過程の小学生やし、この情報化社会で隠せることなんてない」との信念がある。7月末の高野山旗もそうだった。 ふなばし 船橋フェニックス [東京/1971年創立] 出場=2年連続2回目 最高成績=2回戦/2023年※初出場 【全国スポ少交流】...
【直前最終展望《前編》】V2へ走る不敗王者...

【東京第1代表/2年連続2回目】船橋フェニックス
ついに来るところまで来た! 昨秋の新人戦に始まり、6月の全国予選、7月の都知事杯まで。全国最多の1051チームが加盟する大東京にあって、船橋フェニックスは「無敗」を貫き通して、いよいよ最上のステージに立つ。自他ともに認める、優勝候補の大本命だ。 (写真&文=大久保克哉) ハイレベル&陽キャの"東京無双"。神宮ラストイヤーのトリで輝くか!? ふなばし 船橋フェニックス [東京/1971年創立] 出場=2年連続2回目 初出場=2023年(2回戦) ※以下、時系列の大会軌跡とリポート 【東京都新人戦】 1回戦〇9対7西伊興若潮ジュニア 2回戦〇4対3深川ジャイアンツ 3回戦〇19対2高島エイト 4回戦〇19対4オール麻布 準々決〇9対1高島エイト 準決勝〇10対5東村山3RISE 決 勝〇4対1旗の台クラブ ※2023年10月 決勝戦リポート➡こちら 【京葉首都圏江戸川大会】 1回戦〇10対1大雲寺スターズ 2回戦〇6対5深川ジャイアンツ 3回戦〇10対0中央バンディーズ 準々決〇2対1山野レッドイーグルス 準決勝〇3対0鶴巻ジャガーズ 決 勝〇9対2清新ハンターズ...
【東京第1代表/2年連続2回目】船橋フェニックス

【千葉県代表/2年ぶり5回目】豊上ジュニアーズ
“髙野マジック”炸裂! 千葉の盟主ともいえる豊上ジュニアーズは、髙野範哉監督がトップチームの指揮官に復帰して即、2年ぶり5回目の全国出場を決めた。拮抗したゲームでは一死までに三塁を奪い、手堅く得点する。全国大会でもおなじみのスタイルは今年、やや影を潜めている。それも今の戦力とチームカラーから、名将が導き出した答えのようだ。 (写真&文=大久保克哉) ※千葉大会決勝リポート➡こちら 天真爛漫と髙野”マジック”の化学反応 とよがみ 豊上ジュニアーズ [千葉/1978年創立] 出場=2年ぶり5回目 初出場=2016年 最高成績=3位/2019、21年 【千葉大会の軌跡】 1回戦〇17対2匝瑳東BBC 2回戦〇6対4磯辺シャークス 準決勝〇13対5新浦安ドリームスター 決 勝〇2対1常盤平ボーイズ 「えっ! やってないの?! ダメだろ、オマエ! なんで?! やっておけって、言っておいたじゃない!」 全国出場をかけた県決勝戦の開始まで、もう5分あるかないか。ただでさえ独特の緊張感が漂う中で、豊上ジュニアーズのベンチは指揮官の荒い口調と嘆き節で、にわかに凍り付いた。 これもマジック? 1年の中でも最も大事と思われる1日の、絶対に負けられない戦いの間際である。真相はどうあれ、この期に及んでのドタバタは、決して褒められたものではない。選手たちに動揺が走り、パフォーマンスにも影響しかねない。 ところが、そうならないあたりも“髙野マジック”なのだろう。間もなく始まった大一番で、マイナスの影響を見て取ることはなかった。むしろ、予想以上の好結果を生む一因にもなった。 県決勝の1回裏、四番・加藤が逆方向へ先制三塁打を放つ 1回裏に先制三塁打を放った四番・加藤朝陽。実はこの一塁手兼投手が、冒頭で叱られた張本人だった。髙野範哉監督は試合後、開始直前の言動は意図的でなかったことを打ち明けた上で、こう証言している。 「あれは本気で叱りました。加藤はちょっと太めで、土曜日の午前中(※決勝は土曜9時開始)は特に動きが鈍い。ピッチャーでもストライクが入らないんですよ。だから『試合前のピッチング練習を多めにやっておけよ!』と言っておいたのに、本人に確認したら『やってない』って(笑)」 命に背いた形の加藤もきっと、指示を忘れていたわけではない。前夜はチームで21時あたりまで室内練習場で打ち込み、当日朝も6時集合でバットを軽く振って実打もしてきたという。その中で彼なりに、自身のコンディションなども踏まえた判断があったのだろう。しかし、あのタイミングと指揮官の勢いからして、弁明する余地はなかった。 1回表、ファウルフライに飛び込む加藤と捕手・岡田主将。捕球ならずもこの後、顔を見合わせてニコニコ 「もういいや! みたいな感じで試合に入りました(笑)」...
【千葉県代表/2年ぶり5回目】豊上ジュニアーズ

【茨城県代表/2年連続11回目】茎崎ファイターズ
“関東の雄”から“ニッポンの雄”へ。11回目の今夏の夢舞台が、昇華のタイミングなのかもしれない。過去に銀メダルが1個、銅メダルが3個。残る「黄金のメダル」への本気度が、今年は手練れの首脳陣からもうかがえる。客観的に見ても、文句なしの優勝候補だ。とりわけ、2024年を迎えてからの進化と躍進は目覚ましいものがある。 (写真&文=大久保克哉) ※茨城大会決勝リポート➡こちら 時は来た!! 関東から“ニッポンの雄”へ飛翔が始まる くきざき 茎崎ファイターズ [茨城/1979年創立] 出場=2年連続11回目 初出場=2001年 最高成績=準優勝/2019年 【全国スポ少交流】 出場=2回 県決勝は6年生10人が全員出場。「めっちゃ緊張しましたけど、めっちゃ出られてうれしかったです。茎崎はベンチもみんなサポートできて、試合に出ている人たちも優しいです」(代打出場の西山光=写真上) 【県大会の軌跡】 1回戦〇9対6波崎ジュニアーズ 2回戦〇10対0古河プレーボール 3回戦〇10対3オール東海ジュニア 準決勝〇7対0上辺見ファイターズ 決 勝〇9対1水戸レイズ “昇り龍”と“レベチ”の如く 前年に続く全国出場。これが決まるまでは決して外には漏れてこなかったが、吉田祐司監督は新チームの始動当初から、5・6年生たちにこう言い続けてきたという。 「今までは県大会がスタートラインだったけど、オマエたちは全国大会がスタートラインだよ!」 掛け値なしに、それだけの潜在能力があったということだ。そしてそれを着実にチーム力へと落とし込みながら、結果を出してきた。 どれだけ、それが難しいことか。キャリアの長い学童指導者ほど、よくわかるところだろう。 4年生の代では輝かしい実績を残しながら、2年後の6年時は泣かず飛ばすというチームも少なくない。あるいは5年時までの「経験」という貯金にものを言わせて、秋の新人戦は突っ走るも、やがて息切れ。そして年明けからはライバルの後塵を拝する、というケースもありがちだ。...
【茨城県代表/2年連続11回目】茎崎ファイターズ

【東京都第2代表/2年連続5回目】不動パイレーツ
真夏の全国大会でも戦うごとに成長を感じさせながら、5つ勝って東京勢初のファイナリストとなったのが1年前。不動パイレーツが今夏も、難関の夢舞台に戻ってくる。奇しくも、新人戦の都3回戦敗退と全日本学童の都大会準Vは、前年と同じ足跡。今年もやはり、大会ごとに進化と勝負強さを示してきており、期待せずにはいられなくなる。 (写真&文=大久保克哉) ※東京大会決勝リポート➡こちら ふどう 不動パイレーツ [東京/1976年創立] 出場=2年連続5回目 初出場=2016年 最高成績=準優勝/2023年 【全国スポ少交流】 出場=なし 【都大会の軌跡】 2回戦〇14対2立川クラブ 3回戦〇10対5Golden age 準々決〇10対7レッドサンズ 準決勝〇7対6しらさぎ 決 勝●6対9船橋フェニックス 「小学生の甲子園」で銀メダルに輝いたからといって、恵まれぬ野球環境が劇的に好転することはないのだろう。ましてそこは東京23区の人気のエリア。社会も人も「少年野球」を中心に回っているわけではない。 不動パイレーツが拠点とする小学校の校庭を使える時間は、1年前と相変わらず、原則として土日の計4時間のみ。都心では決して珍しくないが、全国区のチームには都外からも練習試合の申し込みが絶えない。 現代表の深井利彦監督が率いていた2016年に、全日本学童初出場で3回戦まで進出。19年と21年は東京王者として同大会に出場しており、今夏で5回目の夢舞台となる。 平日練習はなく、過ごし方は個々に委ねられている。だが、何もせずにレギュラーを張れるような、ぬるま湯の体質ではない。週末は主に遠征で対外試合をこなしながら、各々の現在地を把握し、戦術の理解と精度を高めながら一体感が醸成されていく。 2023年は全国準優勝。ベンチ入りした11人の5年生のうち、難波がレギュラーとして活躍した(写真/福地和男) 深井監督が代表となって以降は、父親の学年監督が選手と一緒に繰り上がるシステムに。昨年は慶大出身の永井丈史監督が「エンジョイ・ベースボール」で大きな花を咲かせた(リポート➡こちら)。今年は指導歴8年、鎌瀬清正主将の父・慎吾監督が率いて4年目のチームとなる。 異様な落ち着きと強み 前年から残るレギュラーは、左スラッガーの難波壱だけ。それでも、夏に向けて右肩上がりの成長を続けているのは、昨年とよく似ている点だ。...
【東京都第2代表/2年連続5回目】不動パイレーツ

【東京都第3代表/初出場】しらさぎ
野球のスタイルも育成のシステムも、ここまで尖りながら至難の全国大会に出てくるチームは、そうそうない。大人が子どもを駒のように扱う勝利至上主義にも見えて、一方では個々の身体づくりを最優先にした年間の取り組みと、全学年を通じた段階的な育成がある。そしてその土台の上に、徹底的かつ高精度なバントと走塁で1点を積み重ねる野球が成り立っていた。創立から47年、選手は今日も1学年9人以上。固有の色を守り抜くことで到達した初の夢舞台で、さらなる花を咲かせるか――。 (写真&文=大久保克哉) ※東京大会3位決定戦リポート➡こちら “三度目の正直”で初の夢舞台。独自のカラーで旋風なるか!? [江戸川区] しらさぎ 【都大会の軌跡】 1回戦〇10対0日の出ジュニア 2回戦〇11対1高円寺メイト 3回戦〇14対0葛飾アニマルズ 準々決〇7対2国立ヤングスワローズ 準決勝●6対7不動パイレーツ 3位決〇8対0旗の台クラブ 6月15日、午前8時ジャスト。府中市民球場のフィールドに、しらさぎ戦士24人のよくそろった声が反響した。 「お願いします!」 東京大会準々決勝の惜敗から1週間。3枚目の全国切符をかけた3位決定戦の日は、方波見大晴主将の号令で脱帽しての挨拶から始まった(=ページ最上部写真)。 いつどの公式戦でも、おそらく繰り返されているだろう、厳かなスタート。プレーボールまで60分、敵軍はまだ現れていないが、三塁ベンチを背に横一列に並んだ面々は、早くもほとばしるようなエネルギーを発している。そして統制はそのままに、ウォームアップと練習が始まった。 「先週の準々決勝で負けちゃってから、みんなでまた練習に取り組んで立ち直って、今日は朝イチからしっかりと入れたと思います」(方波見主将) 1977年創立のチームにとっては、3回目の3位決定戦だった。最初の2016年は不動パイレーツに5対8で、一昨年の2022年は高島エイトに1対2で、それぞれ敗れている。 迎えたこの一戦は、徹頭徹尾のマイスタイルで強敵を撃破。ついに「小学生の甲子園」の扉をこじ開けた。“三度目の正直”というよりは“頑の勝利”のほうが、表現として適切かもしれない。 成功率10割に脱帽 攻め手はごくシンプルだった。1アウトまでに一塁に走者が出ればバント。さらに1アウトまでに、三塁に走者が進んでもバント。打順も関係なく、判で押したように犠打で1点を奪いにいった。 「ウチはスーパースターはいないので、全員で1点を取る。走塁とバントで1点ずつ、これがしらさぎ野球です。江戸川大会から都大会の序盤までは、前半は1点ずつ、後半は打たせるという作戦でいけました」(坂野康弘監督) それも今に始まったことではないという。現6年生と5年生たちは下級生時代から、同様の取り口で大きな成果を挙げてきた。4年生以下の東京王者を決める「マクドナルド・ジュニアチャンピオンシップ」でも、それぞれ優勝(2連覇)している。 息子が卒団後も指導者としてチームに残って8年になる坂野監督 いわば筋金入りの野球スタイルだ。対戦相手は当然、対策をしてくる。今回の相手の指揮官は戦前、「ウチがどれだけ、バント処理ができるかがカギですね」と話していた。...
【東京都第3代表/初出場】しらさぎ

【埼玉県代表/初出場】山野ガッツ
国内最大級のショッピングモール「レイクタウン」のある埼玉県の越谷市に今夏、日本一の学童チームが誕生するかもしれない。直近の初出場初優勝は10年前。酷暑下で最多6連戦となる夢舞台で、面食らう初出場組は多い。しかし、山野ガッツには6年生が15人もいて、県大会では全員がプレー。都内の各会場へは日帰りも可能で、長期の集団生活で疲弊する心配もなさそう。戦力も環境も整っている上に、「10点取られたら11点取り返す」と一貫したスタイルで、過去の苦杯もミラクルの原動力になっているようだ。 ※県決勝戦リポート➡こちら (写真&文=大久保克哉) 6試合99得点の猛打で、過去の悪夢や無念もきれいに一掃 さんや 山野ガッツ 【埼玉県大会の軌跡】 1回戦〇26対0本庄リトルパワーズ 2回戦〇15対3草加ボーイズ 3回戦〇23対1長瀞ジャイアンツ 準々決〇14対2オール上尾 準決勝〇9対5吉川ウイングス 決 勝〇12対3東松山スポーツ少年団 2022年にはポップ杯全国ファイナルに初めて導いた瀬端監督。ついに全日本学童初出場も決めて「やっぱり、ちょっと違いますね。全国の小学生の第一目標の大会ですから」 東京近郊のニュータウン。最寄りに日本最大級のショッピングモールまであるのだから、頭数の少なさで困ることはまずない。山野ガッツは学年単位で活動できる、関東有数のマンモスチームだ。 4年生の秋以降の約3年間は、父親ではない専任の監督とともに1年ずつ繰り上がる。つまり、3人の監督が3年周期でローテーションするシステム。いずれも、選手主体の野球を展開する、物腰も穏やかな指揮官たちだ。 昨年の6年生チームは、三ツ畑竜一監督が率いていた。自主対戦形式のポップアスリートカップを勝ち抜いて、関東代表を決める最終予選まで進出。しかし、本戦の全国ファイナルトーナメント(14チーム)には2歩、届かなかった。 その前年の2022年に、ポップ杯の全国ファイナルに初出場を果たしたのが瀬端哲也監督。そして同大会終了後に引き継いだのが、現在の6年生たちだった。 昨秋の県新人戦決勝は両軍で19四死球、まともな勝負とならずに敗北で涙も(2023年9月17日、東松山野球場) 「ウチは5点取られたら6点取るというチーム。勝負は来年の全国予選ですけど、越谷市の予選を勝ち抜くのがまた大変なんです」 昨秋にこう話していた指揮官も選手たちも、一様に明るくて、活気があった。“未来モンスター”のような秀でたタレントは不在でも、総じて個々のスキルが相当に高い。新人戦は県で準優勝。しかし、決勝は両軍で計19四死球というよもやの大乱戦で、すこぶる後味のよろしくない不完全燃焼が否めなかった(リポート➡こちら)。 その一戦の、あまりにも狭かったストライクゾーンを前に、先発した伊藤大晴はマウンドで何度かヒザに手を置いた。被安打0なのに、6四死球の5失点で初回を終えると、たまらずに号泣。指揮官も言いたいことは山とあっただろうに、前途のある小学生たちを前に模範たる大人の対応に終始したのも印象的だった。 「(球審のジャッジは)言っても仕方ない。相手も条件は一緒で、ウチがそれに対応できなかっただけ」(瀬端監督) 天災ならぬ「運災」も そんな指揮官には、実はもっと苦い記憶がある。5年前の2019年の全日本学童の県予選だ。 埼玉県は全国でもおそらく唯一、地域選抜チームの参加が古くから認めらており、県大会の半数以上はその選抜軍が占める。単独チームがこれを勝ち抜くのは至難だが、瀬端監督率いる山野は最終日まで勝ち進んだ。...
【埼玉県代表/初出場】山野ガッツ

【プレビュー❶ここだけの特ダネ】出場全51...
高円宮賜杯第44回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童)の開幕まで約40日。『学童野球メディア』は、今年も開幕前から閉幕後まで特報します。まずは6月29日に出そろった、出場全51チームの顔ぶれと実績から。どれも高校野球の甲子園なら当たり前の情報ですが、「小学生の甲子園」では、きっとここだけ! プレビュー編では、予選の模様や過去の記録や話題、名将たちのコメントなども交えてシリーズでお伝えしていきます。 (写真&文=大久保克哉) ※大会の歴史や方式などは2023年プレビュー❶参照➡こちら 『聖地』神宮ラストイヤー 今夏の夢舞台は、昨年より10日遅い開幕となる。8月15日の17時から東京の明治神宮野球場(神宮球場)で開会式を行い、翌16日から21日までの6日間で51チームによる巨大トーナメントを消化し、日本一を決する。 2009年から続いてきた東京の固定開催も、今年がラストイヤー。学生野球の聖地にして東京ヤクルトスワローズの本拠地でもある「神宮球場での入場行進」が、全国の野球少年少女の大きな夢だったが、来年度からはシンボル的な球場がなくなる。2021年は東京五輪開催に伴い、新潟県で開催されたが、来年度は再び同県での開催が決まっている。 今夏の会場は例年通り7会場。昨年の稲城中央公園野球場がなくなり、スリーボンドベースボールパーク上柚木(上柚木公園野球場)が新たに加わっている。 昨年の決勝は大田スタジアムで行われた。全会場に70mの特設フェンスがあり、一般用の複合型バット『レガシー』などが来年度から禁止となるため、サク越え本塁打の数も今夏がピークになるかもしれない 組み合わせ抽選は7月18日。ではこれに先駆けて、出場チームの顔ぶれを見ていこう。6月29日に秋田県と佐賀県で代表が決まり、全51チームが出そろった。 今日では「全国」と称する大会が多数あるが、40年以上前に始まった由緒のあるメジャーな全国大会は夏のふたつしかない。この全日本学童大会と、日本スポーツ協会(JSPO)が主催する全国スポーツ少年団軟式野球交流大会(以降、全国スポ少交流)だ。そこで一覧表には、両大会の出場実績を入れている。 全日本軟式野球連盟(JSBB)に加盟する学童チームは、9842(2022年度)。その全チームにほぼ公平に予選参加資格があり、47都道府県での予選がほぼ同様に行われて、優勝チームが出場する真のチャンピオンシップとなる「全国大会」は、今も昔も全日本学童大会のみ。また予選参加規模は、日本のスポーツ界でおそらく第1位(団体競技)。本家「甲子園」の高校硬式野球部加盟数が3798校だから、予選の競争倍率は倍以上という計算になる。 最も直近の初出場初優勝は、10年前(2014年)の愛媛・和気軟式野球クラブ。当時は全国に1万3000以上の加盟チームがあった 予選が超難関であるゆえ、初出場が半数程度あるのも例年の特長で、今年も約半分の25チームが初出場。これは昨年とまったく同数で、2年前の2022年は31チームあった。 地域による偏りはほぼ見られないが、北信越地方は昨年同様に初顔が多い。2022年初優勝の石川・中条ブルーインパルスは、今年は最初の地区予選敗退で県大会に出られなかったものの、全国スポ少交流の予選では県大会を制し、北信越大会出場を決めている。 過去の王者は今年も4チーム 過去に優勝の実績があるのは4チーム。この数字も不思議と、3年前から同数で推移している。 昨夏、圧倒的な内容で初優勝を飾った新家スターズ(大阪)は、「前年度優勝枠」での出場となる。予選は免除されているのだが、あえて今年も府予選に参加して堂々の優勝。それだけでも連覇への意気込みの高さがうかがえる。強面ながら柔軟で謙虚な千代松剛史監督は、2015年と19年にはチームを全国スポ少交流優勝にも導いている。 大阪・新家スターズの千代松監督インタビュー➡こちら 4チームの中で最も古い優勝は、北ナニワハヤテタイガース(兵庫)の1988年。当時は同一年に全国スポ少交流とのダブル出場も可能で、前年1987年の亀川野球スポーツ少年団(大分)に続いて、史上2チーム目にして最後のW優勝を遂げている。創設者にして現在もチームを率いる石橋孝志監督(=下写真)は、1950年生まれの74歳。昨夏も3回戦まで進出、炎天下でも元気な姿を見せていた。 複数回の優勝は多賀少年野球クラブ(滋賀)のみ。今や「学童野球」の枠も超えて認知されてきている辻正人監督が、“卒・スポ根”を標ぼうして2018年と19年に大会2連覇。2016年には全国スポ少交流で初優勝、その翌年2017年から何と7大会連続で全日本学童に出場、これは史上最多タイの連続出場記録となる。また、出場17回も今大会では最多だ。 滋賀・多賀少年野球クラブの辻監督インタビュー➡こちら 東京固定開催元年の2009年、多賀少年野球クラブを決勝で破り(2対1)、初優勝を飾ったのが石川県の西南部サンボーイズ。当時の指導陣はもういないが、OBでもある北川貴昌監督が6年生4人の若いチームを率いて、東京ラストイヤーに神宮の開会式に戻ってくる。最後に出場したのは2010年(前年度優勝枠)で、初戦の2回戦で敗退している。 OBの北川監督(下)率いる石川・西南部サンボーイズは14年ぶり7回目出場の名門。神宮元年に続いて最終年でも覇権をつかむか 全国スポ少交流で、最多タイ3回の優勝を誇る小名浜少年野球教室(福島)は、3年ぶりに全日本学童の切符を手にした。予選の県決勝では“永遠の好敵手”にして全日本学童最多出場記録(23回)を誇る、常磐軟式野球スポーツ少年団を下してきている。温かみのある磐城弁が独特の小和口有久監督は、1948年生まれの満76歳。北ナニワハヤテの石橋監督よりも年長、おそらく今大会でも最年長の指揮官になるだろう。 福島・小名浜少年野球教室の小和口監督。好評企画『監督リレートーク』登場回➡こちら 最長ブランク、実に22年ぶりの出場(2回目)となるのは、群馬県の桃木フェニックスだ。2002年に初出場で8強まで進出、当時は背番号28のコーチだった貫井徹也監督が、現チームを率いている。2大大会を通じての最長ブランクは、富山県の黒部中央バッファローズ。こちらは1984年の全国スポ少交流以来、実に40年ぶりの全国が今夏初出場の全日本学童となる。...
【プレビュー❶ここだけの特ダネ】出場全51...

【特報最終版】2023夏の夢舞台を総括
1981年の第1回大会から数えて43回目の今夏。高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、大阪・新家スターズの初優勝で閉幕した。開幕1カ月前から、およそ2カ月半にわたって特報してきた当コーナーもこれがラスト。記録面を含めて大会を総括し、また来年の夢舞台に備えたい。高校野球の甲子園の比ではない難関。学童野球の全国出場は「一生の宝」にもなり得る栄誉である。 (写真・文=大久保克哉) ※個人の記録一覧は最下部、タップで拡大できます 10年前と変わらぬ構図 新家スターズが全国の登録9842チーム(2022年度)の頂点に輝いた。1回戦から決勝まで全6試合、大きなビハインドや厳しい劣勢がないままの戴冠だった。大阪勢の優勝は2年ぶり13回目。こちらもぶっちぎりの記録となる。 「学童野球の監督は、どんなに勝っても謙虚に、謙虚に、ですわ」 新家・千代松剛史監督は冗談めかして笑ったが、戦術面も含めて攻守走のすべてが鍛え抜かれていて穴がなかった。とりわけ光ったのが、どの打順からでも得点できる攻撃力だ。 初Vの新家(大阪)は6試合で21盗塁。走者は梅本陽翔。タッチする遊撃手は大会3本塁打の不動(東京)の小原快斗 力の差があれば、打ちまくる。戦力拮抗なら、打って出ると犠打ではなく、足技で無死または一死三塁の状況をつくり、確実に1点を重ねていく。こうした野球は全国大会では珍しくないが、今夏は太刀打ちできる相手がいなかった。 ベスト8のうち5チーム、ベスト4のうち3チームまでを関東勢が占めた。これは前年を超える史上最高の「大躍進」だった。しかし、関西勢を中心とする手練れの野球を凌駕した、とはお世辞にも言えない。 準優勝の不動パイレーツ(東京第2代表)は、今大会最多の6本塁打。3位のレッドサンズ(東京)の藤森一生は、最速124㎞をマークするなど突出した個の能力があった。しかし、王者の地盤を揺るがすにはいたらず。むしろ、戦術面や試合運びの点で差を見せつけられてしまった。 レッド(東京)の124㎞左腕・藤森一生は銅メダルの原動力になった こうした西と東の構図や格差は、少なくとも10年前から大きく変わっていないのが実情だろう。今夏はまた、戦術にも長ける有力チームが序盤戦で消えたことが、新家独走の一因になったとも思われる。 多賀少年野球クラブ(滋賀)、常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)、中条ブルーインパルス(石川)と、過去のV経験組がそろって2回戦で敗退してしまった。 2021年準Vの北名古屋(愛知)は順調に初戦突破も、続く2回戦で涙 今年の常磐は伝統の堅守に打力も備えていた。0対1で敗れた2回戦では、終盤に同点スクイズもありえた場面で強攻も無得点。「今年はバッティングをがんばってきたので、仕留めてくれると信じていました」と天井正之監督は潔かった。 好機を迎えてのタイムで、呼び寄せた打者・走者と交わした笑顔が信頼を物語っているようだった(下写真)。期待に応えられなかった6年生たちも、野球人生はまだこれからだ。 合併や統合から全国へ 今大会からベンチ入り登録選手の数が25人(従来20人)に増えたが、この枠を満たしたのは6チーム(11.8%)に過ぎなかった。また、6年生が9人以上いたのは25チーム(49%)で過半数割れと、選手減少の余波がこうしたところにも見て取れた。 大会最少の選手13人で3回戦まで進出した香川・丸亀城東。写真右から日本貴浩監督(右)、正捕手の長男・廉人(中央)、3年生で正遊撃手の次男・賢伸(左) 山梨県は小学校単位のチーム編成が伝統だが、立ち行かない地域も出ているという。甲斐市では約半数の5校(チーム)が統合して「甲斐ジュニアベースボールクラブ」として3年前に船出。今夏は6年生18人(大会最多)で全国8強まで躍進した。「試合中はどんどん会話をしなさいと言っています」と小澤大生監督。指示待ちではない選手たちのハイスキルが光り、2回戦では2021年準Vの北名古屋ドリームス(愛知)も下してみせた。 50m走7秒フラット。甲斐(山梨)の九番・向井光来は、犠打もヒットにしてしまうスピードが際立った 「笑顔でやらなければ、良いプレーもできない」と和田久雄監督が語る菱・境野フューチャーズ(群馬)は、子ども会が母体の2チームが2011年に合併して誕生。「子どもたちの未来が明るく輝くように」(同監督)と、3年前から現チーム名に。全国初陣では8安打11盗塁(三盗3)の10得点で勝利。「二盗はサインです。凡フライでも二塁まで全力走とか、走塁面は力を入れてきました」と、成果が表れた内容に指揮官も満ち足りた表情で語った。 53や88など、菱・境野の選手は背番号も好きな番号を自由に 長野県の野沢浅間キングス(下写真)は、全国出場実績のある浅間スポーツ少年団と野沢少年野球クラブとの統合初年度で、いきなり全国1勝。6年生14人で鍛えられた外野守備やスイング力、戸塚大介監督の落ち着いた采配も印象的だった。 「ウチは子どもに考えさせる野球をふだんからやっているので、大人がああだこうだ言わなくても、きっかけさえ与えてあげればできる子たちなんです」(同監督)...
【特報最終版】2023夏の夢舞台を総括

【インサイド・ルポ❸壮絶バトル】逆転サヨナ...
巨大トーナメント序盤戦の壮絶なバトル。ここを順当に勝ち抜き、ベスト4にもほぼ手を掛けながら、一気に奈落の底へ落ちていったチームがある。でも、その1敗と引き換えに、彼らは永遠の誇りを手にしたのかもしれない。インサイド・ルポ❷の続編をお届けしよう。 (写真・文=大久保克哉) ※前編のインサイド・ルポ❷→こちら ―2011JSC Champion ― 6年生9人の精鋭と名将 メダルにも劣らぬ「誇り」 [長崎]6年ぶり4回目 はさみこうのす 波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ 【戦いの軌跡】 2回戦〇13対3横堀(秋田) 3回戦〇8対2越前(福井) 準々決●1対2八日市場(千葉) マナーとモラルの問題 攻撃も守備も関係ないし、敵も味方もない。マウンドの投手がセットに入ると、ベンチ上のスタンドが一斉に静まる。鳴り物も手拍子も声も、ストップする応援席があった。 「ウチが攻撃のときは選手が打席に入るまでは急いで一生懸命に応援して、あとはプレーに集中してもらおう、ということです」 意図を説明してくれたのは長崎から6年ぶりに出場してきた波佐見鴻ノ巣少年野球クラブの父母会、宮﨑正和会長だ。今年は千葉県予選でもそういう取り組みが徹底されたが、九州の長崎県でも同様の応援マナーが推奨され、広まっているという。 今夏の全国大会はどうだったか。応援に関する規制や注意は、特に見聞きしなかった。そうした中で、攻撃の応援というよりは守る相手チームの小学生を威嚇するかのように、大の男たちがダミ声やドラ声を次々と発する応援席も散見された。だからといって、波佐見の父母会はやり返したり、応援スタイルを変えることはなかった。 自軍の攻撃中も打者がバットを構えるあたりから、一切の音を発しなかった波佐見の応援席。「プレーに集中してもらおう、と」(宮﨑父母会長) 「結局はマナーとかモラルの問題ですよね。県大会だからやらない、全国大会は禁止されてないからやる、とかそういうことではなくて。賛否もあると思いますけど、ウチはとにかく、ピッチャーとバッターに目の前の勝負に集中してほしい、ということです」 私見をクールに語ったのは、波佐見の村川和法監督だ。現在の応援スタイルはこの初夏からで、試合中に審判団から「投手がモーションに入ったら、もう少し静かにしてください」と注意されたのがきっかけだという。 「練習をがんばってきた子どもたちが懸命に戦っているのに、そんなこと(応援)で注意されたり、試合が止まるなんてイヤですもんね。応援マナーについては、父母会のみなさんに厳しく言っています」 焼き物と野球の町から...
【インサイド・ルポ❸壮絶バトル】逆転サヨナ...

【インサイド・ルポ❷壮絶バトル】マンガも超...
真夏の6日間で消化する、51チームによる巨大トーナメント。序盤戦は例年、激しいつぶし合いとなる。心身がフレッシュな分だけ、互いに一歩も譲らぬ好勝負も生まれやすい。今夏はさらに、マンガでも描き切れないような大逆転劇、筋書きのないドラマがあった。主人公は1年前、チーム内のコロナ感染で無念の棄権を経験している6年生たちだった。 (写真&文=大久保克哉) ―From 2022 Best8 ― 12点取られて13点取る! 空前の同点劇にサヨナラ [福井]2年連続2回目 えちぜん 越前ニューヒーローズ 【戦いの軌跡】 1回戦〇13対12伊勢田(京都) 2回戦〇2対1中条(石川) 3回戦●2対8波佐見(長崎) 越前の全国初陣は1年前の2回戦(神宮)。12対11で勝利している 10点取られたら、11点取り返す――。言うのは簡単。そうした野球を理想に掲げるチームは、カテゴリーや地域を問わず、あちこちにある。またそういうチームにあっては「積極的にいけよ!」といった怒声もよく聞かれる。 一方、そうした野球を限りなく体現した学童チームがあった。福井県から2年連続で全日本学童大会に出場してきた越前ニューヒーローズだ。彼らは何かにつけて特異だった。 「好球必打」の極致 超アグレッシブな「好球必打」が真骨頂。昨夏は初球ストライクをフルスイングしての3連続二塁打もあった。あっけなく数球で終わる攻撃もあったが、2人目3人目の打者に「状況を考えて、少しは見たり粘れよ!」といった、指導陣の本末転倒な声掛けは皆無。当時、5年生で六番を打っていた日比野虎徹はこう話していた。 「甘いボールが来たら、(0ストライク)3ボールからでも打っていいと監督に言われています」 そうして2勝を挙げてベスト8まで進んだ1年前だが、人類を蝕んだ新型コロナウイルスと感染防止のルールには抗えなかった。準々決勝の朝に一部選手のウイルス感染が判明し、不戦敗に(※関連記事→こちら)。 「感染は誰のせいでもない。でも、最後の勝ち負けまで、子どもらに味わわせてやれんかったのが悔しいです」(田中智行監督) 三番・中橋は1年前(写真上右)の3回戦で決勝の逆転3ラン(写真左は今夏)。四番・米澤は1年前の2回戦で満塁アーチ(写真下左)を放っていた(写真右は今夏) 当時の6年生2人は卒団したものの、残るメンバーは1年の間にまた著しく成長し、夏の神宮(開会式)に戻ってきた。2年生2人を入れて総勢16人。スタメンの4人は下級生で、うち1人は3年生と、戦力の構成も前年に近い。それでも主将の山本颯真捕手に、中橋開地と米澤翔夢の左右大砲コンビは、6年生世代を代表するようなタレントとなっていた。 その彼らのすさまじい打撃力を、どこよりも知っていたのが昨夏の王者、中条ブルーインパルス(石川)だった。隣県のチーム同士で元から交流があり、新チームになってからも何度か手合わせをしてきた。直近の戦いは結果としてノーガードの打ち合いの末に、越前が勝利。...
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【インサイド・ルポ❶】初出場組、それぞれの...
学童野球では、息子や娘とともにチームを卒業する父親監督が圧倒的に多い。一方、この夏を自ら最後の全国采配と決めていた名将がいて、20年以上続いてきた組織の消滅を前に夢舞台で1勝を挙げたチームもある。奇しくも初出場組の、それぞれの「最後の夏」を追った。 (写真&文=大久保克哉) ―The Last Summer❶ ― 恩師に白星は贈れずも、 心に響いた8人の想い [石川]初出場 たちの 館野学童野球クラブ 【戦いの軌跡】 1回戦●2対8新家(大阪) 全国1回戦を戦い終えたナインは指揮官と一人ひとりハイタッチしてダグアウトへ 学童女子の全国大会、NPBガールズトーナメントは今夏、石川県が舞台となった。同県では2月から女子選抜チーム「輝プリンセス」のメンバーを公募。野々市市の館野学童野球クラブには、昨秋の県新人戦準Vにも貢献したマドンナ左腕の山本愛葉がいたが、3月の時点で「館野のみんなと全国(全日本学童大会)に出ることしか考えていません」と、選抜入りをきっぱりと否定した。 切なる想いを共有 その山本ら6年生8人は、新人戦の県決勝で敗れた中条ブルーインパルス(前年度優勝枠で全日本学童出場)へのリベンジの想いを募らせていた。「夏の全国大会に出て、中条に勝って優勝したい!」と語ったのは、高田慶吾主将だけではなかった。 「監督に全国でも勝利をプレゼントしたい」。チーム初安打に2回まで好投した山本だが想い叶わず、涙に暮れた そして6月半ば、全日本学童の石川大会を制して全国切符を手中に。チームは2016年の全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で準優勝という実績があるが、全日本学童出場は今夏が初。意気上がる選手たちだったがその後、指揮官からの突然の告白で静まり返ってしまう。 すでにスタッフ間では決定事項となっており、一部の保護者らも知るところとなっていたが、約20年のコーチを経て2016年からチームを率いてきた山本義明監督が「今年度限りの退任」を選手に発表したのだ。 「ピックリしました。良いところは褒めてくれて、悪かったらそこを教えてくださる。優しい監督です」(中村颯真捕手) 「悲しかった! これまでいろいろお世話になってきた山本監督に、みんなで全国でも勝利をプレゼントしたいと思います」(山本) さらなる発奮材料 さらなる発奮材料を得た6年生たちは、夏休みに入ると平日は20時近くまで、合同で自主練習をするように。7月末に県内で開催された、NPBガールズトーナメント(輝プリンセスはベスト8)には誰も足を運ばなかったという。 迎えた8月初旬の東京、伝統の全国大会1回戦。相手は優勝候補の新家スターズ(大阪)だったが、1回表に二番・山本が100㎞を中前打するなど、誰も気後れしていなかった。 「相手がどこだろうと、絶対に気持ちで負けずに絶対に勝とう! とみんなで話していました」(高田主将)...
【インサイド・ルポ❶】初出場組、それぞれの...

【夢舞台を彩った俊英❷】15の金の卵
本番で力を発揮するのも実力――。スポーツにはこうした格言もあるが、「小学生の甲子園」に重ねるのは時期尚早かもしれない。準々決勝までは複数会場で同時進行とあって、全50試合をつぶさに取材できたわけでないが、公式記録も網羅しつつ、15の「金の卵」たちを学童野球メディアがピックアップ。第1弾の「二刀流」と合わせて20戦士の紹介となるが、前途有望な俊英はまだまだいたことも付記しておきたい。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―Golden egg❶― 2発目ソロで8打席連続H かねはら・じょう 金原 跳 [岩手・洋野ベースボールクラブ] 6年/右投左打/三塁手 写真提供/洋野ベースボールクラブ 今大会の2発を含めて通算45本塁打。156㎝48㎏の「東北の未来モンスター」が、右へ左へ中央へと打ちまくった。 「3年前(当時、控え二塁手)も岩手で優勝したんですけど、全国大会はコロナ禍で中止になってしまって。その先輩たちの分もみんなでがんばりました」 2回戦で何と5打数5安打、それも本塁打1本に二塁打3本と、あわやサイクルヒットだった。続く3回戦でチームは敗れたが、神宮のライトへ先頭打者アーチ(上写真)。 その一発で、1回戦の第2打席(遊撃内野安打)から8打席連続安打。過去の自己最多6連続も超えると、第2打席は申告敬遠で9打席連続出塁に。第3打席の内野ゴロで「連続記録」は終わるも、最終第4打席は中前打でトータル11打数9安打の打率8割超という、とんでもない数字を残した。 それらは果たして、大会新記録なのか否か――40年超の伝統と由緒のある夢舞台で、こういう記録面のアプローチができないのは残念。ともあれ、2つ上の兄と父との自主練習も欠かさないという金原跳は、中学でも高校でもジャンプアップしていくことだろう。地元の岩手から巣立っている、偉大な現役のスターたちの背中を追うように。 「打球の飛距離より、速さが自分の持ち味です。大谷翔平選手(エンゼルス)のようなすごいバッターになりたいです」 ―Golden egg❷― 「オール5」の万能プレーヤー みやもと・かずき 宮本一希 [大阪・新家スターズ] 6年/右投右打/捕手 初優勝の大功労者は通知表で言えば「オール5」。昨今、珍しくなってきた万能タイプとして突き抜けた存在だった。...
【夢舞台を彩った俊英❷】15の金の卵

【夢舞台を彩った俊英❶】投打『二刀流』5戦士
多くの野球人にとって、学童時代は通過点に過ぎない。それでも、難関の夏の全国大会を目指して努力し、実際にそこへやってきて輝いたことは一生の誇りにもなるだろう。今夏の夢舞台を彩った俊英のうち、まずは投打の二刀流で躍動した「主役級」の5戦士をピックアップした。 (写真=福地和男) (動画・文=大久保克哉) ―投打二刀流❶― 3度目全国で124㎞の衝撃 ふじもり・かずき 藤森一生 [東京・レッドサンズ] 6年/左投左打 優勝を遂げた新家スターズ(大阪)の貴志奏斗主将が、実は2回戦から体調不良に陥っていたことは既報の通り(関連記事→こちら)。準決勝(5対1で勝利)から回復したが、その要因は対戦相手にあったのではないか、と語るのは千代松剛史監督だ。 「あの試合は貴志もほかの子も、いつも以上にアドレナリンが出ていたと思うんですよ。あの東京のレッドサンズの藤森(一生)クンという、素晴らしい投手とやるために練習してきたところもありますから。『病は気から』とも言いますけど、もし、準決勝が違う相手との対戦やったら、貴志の体調も戻っていなかったかもしれないですね」 V監督からも、結果としてこれだけの賛辞を受ける東京王者のエースは間違いなく、2023年夏の主役だった、と言っていいだろう。4年生から3年連続の全国出場で、登板は2年連続だった。最後の大一番を前に涙の敗退となったが、前評判や注目度の高さにつぶされることなく、パフォーマンスを存分に発揮した。 投げては準決勝で自己最速タイの124㎞/hをマーク(球場表示)。どの試合でもアベレージで120㎞前後と、無類のスピードボールで押しまくり、奪三振数はイニング数を上回った。打っても打率6割超、準々決勝では右へサク越えソロを放っている。 炎天下の連戦とあって体力温存が優先されたのだろう、5試合で盗塁は1。それでも、50mを6秒84で走る足で稼いだヒットもあり、3回戦では前の走者を追い越してしまいそうな猛スピードでの、一塁からの長駆生還もあった(下写真)。 「金メダルには届かなかったけど、キャプテンの自分についてきてくれたみんなと、協力してくれた保護者のみなさんに感謝しています。野球人生がこれで終わるわけではないので、中・高のすべての大会で活躍したいです」 165㎝51㎏のサイズでこれだけのハイパフォーマンスに、殊勝な言動も珍しい。世代を代表する左腕にとっても、今夏は通過点のひとつだろうが、これだけの6年生と次に出会えるのはいつのことか。3年、いや5年は現れないかもしれない、スーパー未来モンスターだった。 3月のWBC準決勝での周東佑京(ソフトバンク)を思わせるような、一塁からの激走もあった ―投打二刀流❷― 69球完封&最多タイ3HR あべ・せいま 阿部成真 [東京・不動パイレーツ] 6年/右投左打...
【夢舞台を彩った俊英❶】投打『二刀流』5戦士

【レポ⓫優勝チーム】無双王者の学童野球版「整い」
昨夏の全日本学童大会で準決勝敗退から2日後。2022年8月15日に始動した新チームが、翌23年8月11日に同大会を初制覇。新家スターズ(大阪)は361日間、一度たりとも試合に敗れることがなかった。正真正銘のチャンピオン、無双の強さの要因は何なのか。6試合の戦いぶりやコメント、チーム成績から迫った。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―2023 CHAMPION ― すべて「整う」王道野球 1年不敗、全国初Vで幕 [大阪] しんげ 新家スターズ 【戦いの軌跡】 1回戦〇8対2館野(石川) 2回戦〇19対2茎崎(茨城) 3回戦〇7対1宮崎鷹黒(宮崎) 準々決〇4対1大里(沖縄) 準決勝〇5対1レッド(東京) 決 勝〇6対2不動(東京) ※下の表はタップで拡大 ハイレベルな攻守走 一番・捕手の宮本一希は、6試合で打率.625に二塁打7本。企図した8盗塁の成功率10割で、その半分は三盗。これらはすべて、チームの最高成績だった。マスクをかぶっては、相手の盗塁企図が4つしかなかったが、半分の2つを阻んでいる。 一芸に秀でて快挙を遂げるようなスーパーモンスターではないものの、攻守走のいずれも高い次元にあるという点では世代屈指。また、その均等な超ハイクラスこそ、今年の新家スターズのカラーを象徴していた。 時にマウンドにも立った城村颯斗は遊撃守備も秀逸。チーム唯一の犠打を決勝で決めて追加点へつなげた チーム成績を見ても、本塁打を量産したり、三振の山を築くような絶対的な大黒柱がいたわけではないのがわかる。1試合平均で2ケタに迫る安打と8得点を上回る成績は驚異。17安打19得点の2回戦1試合を除いても、8.2安打の6得点平均はまずまずの数字だ。 四死球が20以上でも、犠打は1つのみ。そして三盗を含む盗塁が20を超えるのは、無死または一死三塁という得点率が最も高い状況をいかにつくれていたかを物語る。現に準決勝は5点のうち3点、決勝も6点のうち3点はこの状況から生まれた。 投手交代に伴う守備変更でも不変の堅守。一塁手・上中涼太は三塁を守ってもノーミスだった...
【レポ⓫優勝チーム】無双王者の学童野球版「整い」

【レポ❿準優勝チーム】学童でも開花「エンジ...
「エンジョイ・ベースボール」が花を咲かせたと言ってもいいだろう。不動パイレーツの学習能力は抜けていた。戦いながら進化し、より結束し、気付けば東京の2番手から全国で2番目の高みで輝いた。変に気負わず、ヘタに気取らず、自らも考えてプレーした夢舞台の一週間。慶應義塾高(神奈川)、慶大の硬式野球部出身の指揮官は、選手のパフォーマンスや成長を促す引き出しにも長けていた。 ※優勝チームのリポートは追って掲載します (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―Second Place ― 戦いながら成長した夏。 東京2位から全国「銀」 [東京] 不動パイレーツ 【戦いの軌跡】 1回戦〇4対0弓削(熊本) 2回戦〇1対0常磐(福島) 3回戦〇7対0菱・境野(群馬) 準々決〇12対2簗瀬(栃木) 準決勝〇4対0八日市場(千葉) 決 勝●2対6新家(大阪) おしゃれで洗練された街、目黒区。東京の住みたい度ランキングなどは上位の常連で、各界の著名人らもゆったりと暮らしている。スタイリッシュな店舗に利便性も高い商業施設、自然の緑もふんだんで、「どの世代にもやさしい街」というフレーズも耳にする。ただし、それは「野球」が特別ではないことを意味してもいる。 区立・不動小学校を主な拠点とする、不動パイレーツに割り当てられた活動時間は原則、土日合わせて4時間のみ。東京23区でも、他県・他市に隣接しない内陸側にあるチームの多くは似たり寄ったりだろう。 劣悪とまでは言わないが、「学童野球」には誠に恵まれない環境。でもそれを言い訳にせず、「全国優勝」(永井大貴主将)を目標に臨んだ全日本学童大会で、2019年のベスト4を上回る準優勝。これは43回の大会史における、東京勢の最高成績となる。 土壌は大人の意識改革から 「見ての通り、特別に大きい子もいませんし、ちょっと気を抜くと普通の弱っちいヤツらなんですよ」 永井丈史監督は大会中、このような発言も繰り返した。6年生9人に5年生11人は、23区内のチームとしては十分に多いが、通常は学年別に活動をしており、現6年生は代替わりの際に退団者も複数。少人数からのスタートだったという。 2回戦は2010年王者に辛勝。1回裏に小原の先制ソロ(写真)、これを永井主将-阿部の継投で守り抜いた 1年でここまで人も増えたのは、近年の好成績や知名度も理由だろう。さらには、在籍する選手の保護者たちの、熱意やサポートも見過ごせない。...
【レポ❿準優勝チーム】学童でも開花「エンジ...

【レポ❿珠玉のストーリー】12歳の熱い36...
スポーツは時に非情である。勝利の女神は必ずしも、正義に微笑まない。野球の神様も、子どもだからと手を差し延べたりしない。三歩も歩けば忘れるとか、適当にお茶を濁せると考えるのは大人だけで、子どもが重く引きずる出来事もある。目に見えない十字架を1年間も背負い、黄金のメダルに輝いた12歳のひとりの少年と、取り巻く周囲との珠玉のストーリー。 ※チームのインサイドルポは追って掲載します (写真=福地和男)(文=大久保克哉) 【関連記事】 決勝戦リポート➡こちら チームルポ➡こちら 術中にハメたはずが… 捕球から送球までに短からぬ時間を要し、送球の精度と強さも心許ない。そんな小学生の野球ならでは、のトリックプレーがいくつかある。 たとえば、走者二、三塁からの攻撃。二走があえて塁間へ大きく飛び出し、バッテリーからの二塁送球を誘う。そしてその二塁送球の間に、三走が本塁を陥れる。 4年生以下の試合や、高学年でも市区町村大会の序盤戦であれば、ほぼ1点が入ることだろう。全国大会でも守備側の想定になければ、決まる可能性が高くなる。 しかし、この種のトリックプレーに対しても約束事を確認し、練習を重ねているチームもある。誰がどう動いて、いつどこにボールを渡して、どの走者をアウトにするのか――。そのひとつが、大阪の新家スターズだ。 「二、三塁で相手がやってきたら、まずは二塁に投げるフリ(偽投)。それで三塁ランナーを飛び出させてから、三塁に投げて挟殺する」(千代松剛史監督) 自らはそういうトリッキーな攻撃で1点を奪いにいくことはない。けれども、相手が仕掛けてきたら儲けもの。対応術を備えているので1点を阻むどころか、走者を減らしてアウトカウントを増やすことができるのだ。 1対1の対話も重視する千代松監督。時に非情な言葉も発するが、個々の内面まで熟知すればこそ。「どの子にもそんなの、できるわけないです」 その試合でも術中にハメたはずだった。二、三塁のピンチで、相手の二走が塁間中央へゆるゆると出たとき、守る新家はベンチも野手も慌てていなかった。 マウンドの投手はセットを外してから、二塁ベース方向へ距離を詰めながら偽投を入れて、三塁へ送球。そしてまんまと、三走を塁間で挟み込むことに成功した。 すべてが練習通りだった。だが、繰り返してきた練習とは異なる点がいくつかあった。やり直しがきかない本番。負けたら終わりのトーナメント戦だった。 舞台は全国大会の準決勝。2対1でリードの5回裏と、緊迫の勝負が大詰めを迎えようとしていた。何よりも練習時と決定的に違ったのは、大粒の雨が降り注いでいたことだった。台風接近に伴う豪雨で、すでに計22分間の中断もされていた。 そうした中で、投手が三塁に投じたボールが低かった。前のめりになって、それを地上スレスレでグラブに収めた三塁手は、立ち上がるや本塁へ送球。塁間にいた三走は、それを見て切り返す。ランダウンプレーだ――と思われたが、そうはならなかった。 2022年8月13日、全日本学童準決勝(駒沢)。決勝の逆転タイムリーエラーで涙した5年生・貴志の「長かった」1年がここから始まった 三塁手の送球が高く抜けて、ジャンプで届かなった捕手がボールを追いかけていく。その間に走者2人が生還。これで再逆転された新家は、直後の6回の攻撃で跳ね返せずに敗北した。 「オマエのせいや!」 それは1年前の2022年8月13日、駒沢公園硬式野球場だった。全日本学童大会の準決勝を終えた新家ナインは、ベンチ裏で激しく泣きじゃくった。屋根を叩く雨音もかき消す勢いで。首から下げた銅メダルに納得している顔はどこにもなかった。 「…雨で手が滑りました。ロジンとか持って対策しとったらアウトにできてたから、負けたのは暴投を放ったオレのせいやと思います。6年生に申し訳ない…」 ひときわ大きな嗚咽をもらしながら、途切れ途切れにそう話したのが、三塁手で当時5年生の貴志奏斗(きし・かなと)だった。 「正直、トリックプレーもあるかなと読んでたんですけど、ヨッシャー! と思ったら、まさか、ね。言い訳かもしれないけど、雨で手が濡れて…今日はミスもいくつかありまたし、やっぱり、すべてが整わんと全国制覇にはつながらんのかな。さっき、5年生にはハッキリ言いました。『やっぱりキャッチボールが大事や。守備のミス。この怖さを知って練習に生かして、また来年ここに戻ってこないと!』と。6年生はホンマにようやりましたわ」...
【レポ❿珠玉のストーリー】12歳の熱い36...

【レポ❾決勝/ヒーロー】新家が初V。無双の...
無双の不敗王者が誕生した。2023年の日本一を決する決勝は、大阪の新家スターズが東京第2代表の不動パイレーツに6対2で勝利。全国9842チームの頂点に輝いた新家は、新チーム始動から練習試合も含めて1度も負けることなく初戴冠。まさしくキング・オブ・キングとなった。敗れた不動は東京勢初の優勝はならずも、最後まで食い下がっての銀メダルに胸を張った。 ※優勝・準優勝チームのインサイドルポ、新家スターズ主将のストーリーは追って掲載します (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ■決勝/大田スタジアム [東京]2年ぶり4回目 不動パイレーツ 100100=2 21030 X=6 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 【不】永井、阿部、永井-阿部、小原、阿部 【新】山本、貴志、山本-宮本、山本、宮本 本塁打/阿部(不)=大会3号 先制パンチ、鮮やかに 攻守走、すべてが鍛え抜かれていてそつがない。練習試合を含めて不敗を貫く新家は絶対的な安定感の下、日替わりヒーローを生みながら今大会を勝ち進んできた。2015年と19年の2度、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で優勝に導いている千代松剛史監督のタクトに迷いはなく、どこまでも鋭敏かつ慎重だった。 一方の不動は、東京予選の決勝でレッドサンズに敗れて第2代表(※東京は出場3枠)ながら、今大会は戦うごとに成長がうかがえた。準決勝まで4試合で2失点。永井大貴主将と阿部成真の両右腕はコントールと駆け引きが出色で、投げるたびに球威も増している印象だった。三番・小原快斗は3本塁打、四番・阿部が2本塁打。慶應高(神奈川)、慶大の野球部出身の永井丈史監督には選手たちを乗せる引き出しも多く、4年前の最高成績ベスト4も超えてきた。 1回表、不動は中前打から二盗に成功した一番・岩崎(上)が、投ゴロの送球間に三進すると三番・小原の三ゴロ(下)で先制のホームイン 持ち味も歩みも異なる両軍による頂上決戦は、それぞれに真価も発揮する好勝負となった。そのきっかけをつくったのが、不動の一番・岩崎貴彦だ。 1回表、中前にクリーンヒットを放つと、次打者の3球目に二盗に成功。「あの盗塁はサインでした。けん制が多いのは知っていましたけど、ギャンブルスタートではなく、ホームに投げると判断してスタートしました」 こう振り返った二走・岩崎は、内野ゴロ2つの間に先制のホームを踏んでみせた。百戦錬磨とも言える大阪の王者に対して、これほどの鮮やかな先制パンチは今大会で初めてだった。 しかし、それで面食らってペースを乱すほど、新家は柔ではなかった。準々決勝でも2年連続出場の大里シャークス(沖縄)に1回表に先制されるも、すぐさま1対1に追いついている。決勝でも1回裏、敵失に小松勇瑛の中前打であっさり同点とすると、小松の二盗と内野ゴロ2つで2対1と逆転する。 新家は1回裏、無死三塁から二番・小松が中前に同点打(上)。さらに一死三塁から四番・山本の一ゴロ(下)で2対1と逆転する 2回の攻防も、手に汗握る展開に。先攻の不動は5年生の難波壱と、続く西槙越の連打で一死一、二塁とするも、新家の先発・山本琥太郎が冷静に後続を断つ。そしてその裏、新家は5年生・藤田凰介の内野安打や申告敬遠などで満塁とし、小松が四球を選んで3点目を奪う。こうしてじわりとリードを広げていくのが新家のパターンだったが、不動の四番打者が待った! をかけた。...
【レポ❾決勝/ヒーロー】新家が初V。無双の...

【レポ❽準決勝2/グッドルーザー】124㎞...
東西の都の王者対決となった準決勝の第2試合。レッドサンズ(東京)の124㎞左腕と、新家スターズ(大阪)の強力打線とが、どう交わるのか――。予想された真っ向勝負はやや遅れて始まり、ワンサイドに近い内容となりましたが、やはり、敗軍にも特筆するべきものがありました。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ■準決勝/大田第2試合 [東京]3年連続4回目 レッドサンズ 000010=1 11210×=5 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 【レ】北川、藤森一-増田 【新】山本、貴志、山本-宮本、梅本 本塁打/山田(新)=大会2号 レッドの藤森一は自己最速タイとなる124㎞を複数回マークした 1年前の準々決勝を、両軍は小野路球場でそれぞれ戦っている。第1試合で特別延長の末にサヨナラ負けしたのがレッドで、続く第2試合でシーソーゲームを制したのが新家だった。 新家は翌日の準決勝で惜敗するが、千代松剛史監督は直後から「東京のスーパースターの子」を意識してきたという。それが準々決勝の球場で見たレッドの当時5年生、左投左打の藤森一生だった。一番・左翼で先発して二塁打1本の1打点、4回から救援すると6年生顔負けのスピードボールと度胸を披露していた。 「来年は全国に出たら、あの子が脅威になるんやろうなと思いましたし、今年の5月にウチが全国を決めてからは、あのレッドサンズの藤森クンからどう点を取るか、というのも大きな課題やったんです」(千代松監督) 長身の本格派サウスポーの対策、110㎞以上のスピードボールの対策は当然。さらには最悪も想定して「打てないなら足で」(同監督)と、二盗、三盗の練習も相当に積んできたという。 強面でいてその実、頭の回転が速くて賢い新家・千代松監督。どんなに勝っても批判を口にしない 一方、本人の預かり知らぬところで、1年も前からマークされてきたレッド・藤森一のほうは予想以上(期待通り?)に進化してきた。最速120㎞をマークするなど度肝を抜く豪速球で押しまくり、全国予選を含めて6月から東京二冠の原動力に。 迎えた東西の都の王者対決は、スタメンから興味深いものとなった。レッドの先発投手はエース左腕の藤森一ではなく(右翼で先発)、進境著しい右腕の北川瑞季だった。 レッドの先発・北川は3回戦(対兵庫・北ナニワ)でも好救援。7月の都知事杯MVPから上り調子できていた 対する新家は肩透かしを食らうどころか、「スーパースターの温存」はまったくの想定内だったという。以下は試合後の千代松監督の談話の一部だ。 「相手は昨日(準決勝)も右の子から藤森クンという継投やったし、今日ももしかしたらと思うてました。なので、ウチが先制して逃げ切らんとな、と」 1回表、レッドが二死二塁で打席に四番・増田球太を迎えたとき、千代松監督が即座に申告敬遠をしたのも、相手の先制を何としても阻むためだったという。 「ウチがリードされた状態で、120㎞を投げるスーパースターが出てきたらマズイな、と思いましたので」(同監督)...