真夏の全国大会でも戦うごとに成長を感じさせながら、5つ勝って東京勢初のファイナリストとなったのが1年前。不動パイレーツが今夏も、難関の夢舞台に戻ってくる。奇しくも、新人戦の都3回戦敗退と全日本学童の都大会準Vは、前年と同じ足跡。今年もやはり、大会ごとに進化と勝負強さを示してきており、期待せずにはいられなくなる。
(写真&文=大久保克哉)
※東京大会決勝リポート➡こちら
ふどう不動パイレーツ
[東京/1976年創立]
出場=2年連続5回目
初出場=2016年
最高成績=準優勝/2023年
【全国スポ少交流】
出場=なし
【都大会の軌跡】
2回戦〇14対2立川クラブ
3回戦〇10対5Golden age
準々決〇10対7レッドサンズ
準決勝〇7対6しらさぎ
決 勝●6対9船橋フェニックス
「小学生の甲子園」で銀メダルに輝いたからといって、恵まれぬ野球環境が劇的に好転することはないのだろう。ましてそこは東京23区の人気のエリア。社会も人も「少年野球」を中心に回っているわけではない。
不動パイレーツが拠点とする小学校の校庭を使える時間は、1年前と相変わらず、原則として土日の計4時間のみ。都心では決して珍しくないが、全国区のチームには都外からも練習試合の申し込みが絶えない。
現代表の深井利彦監督が率いていた2016年に、全日本学童初出場で3回戦まで進出。19年と21年は東京王者として同大会に出場しており、今夏で5回目の夢舞台となる。
平日練習はなく、過ごし方は個々に委ねられている。だが、何もせずにレギュラーを張れるような、ぬるま湯の体質ではない。週末は主に遠征で対外試合をこなしながら、各々の現在地を把握し、戦術の理解と精度を高めながら一体感が醸成されていく。
2023年は全国準優勝。ベンチ入りした11人の5年生のうち、難波がレギュラーとして活躍した(写真/福地和男)
深井監督が代表となって以降は、父親の学年監督が選手と一緒に繰り上がるシステムに。昨年は慶大出身の永井丈史監督が「エンジョイ・ベースボール」で大きな花を咲かせた(リポート➡こちら)。今年は指導歴8年、鎌瀬清正主将の父・慎吾監督が率いて4年目のチームとなる。
異様な落ち着きと強み
前年から残るレギュラーは、左スラッガーの難波壱だけ。それでも、夏に向けて右肩上がりの成長を続けているのは、昨年とよく似ている点だ。
今年は春休み中に始まった、東日本交流大会が浮上の潮目に(リポート➡こちら)。この大会から、打たれ強さと粘り強さが際立ってきた。そして7月に入ると、まるで達観したかのように、不気味なまでの落ち着きが選手たちから感じられるようになっている。これには指揮官も少々、当惑しているようだ。
右から鎌瀬監督、川本明典コーチ、難波良剛コーチ
「都大会の中盤くらいから、突き抜けちゃった感じかもしれません。試合中に点を取られました、フォアボールを出しました。だから何? 別に気にしてません、取り返せばいいんでしょ、ランナーをホームにかえさなきゃいいんでしょ、みたいな空気なんです。『野球って、そんなんじゃないよ!』と言い聞かせているんですけど、自分たちで自分たちの野球を勝手にやり始めちゃってる感じで…」(鎌瀬監督)
実際、都大会決勝は無敵軍団に対して少しも腰が引けていなかった。ヒットを先に打ち、先制もした。直後に逆転されて7点ものリードを奪われたが、逆襲に転じて3点差へ。4回の攻撃でタイムアップとなったが、時間無制限で6イニングまで見たかったという声がスタンドの観戦者からも聞かれた。
「ぶっちゃけ、ウチのゲームだったかなと思います」と指揮官が言えば、4回に3ラン(=上写真)を放った一番・石田理汰郎は淡々とこう話したのが印象的だった。
「大量点を取られるのは想定済だったので、取られたら取り返せばいい、という感じでした」
しなやかでバネの利いた身のこなしも光る石田は、中堅、左翼、遊撃、三塁とすべてを無難以上に守る“スーパー・オールラウンダー”だ。チームではそれも例外ではなく、どの選手も複数のポジションをこなせるのが今年の大きな強み。絶対に外せないと思われた遊撃守備の名手・唐木俊和ですら、追う展開となった都決勝では途中で交代している。
正遊撃手の唐木(上)も、ユーティリティの石田(下)も、小柄ながら球際やピンチにも強い守備が際立つ
三番を打つ右の大砲・細谷直生(=下写真)は正捕手だが、一塁を守っても仲間をリードできる。現在は二塁手で、昨秋まで正捕手だった鎌瀬主将も送球が安定しており、いつでもマスクを被る準備をしているという。
投手陣は右の本格派3枚に、横手投げの佐伯禮甫がアクセントとなっている。投手と同じく消耗が激しい捕手も2人いることは、夏場の安心材料だろう。
非凡な学習能力と土壌
「個々のレベルが上がり、戦術もより遂行でききるようになりました。ホントに上り調子で来ているんですけど、8月の全国大会までには時間もあるので、もう1回、シャッフルして山をつくりたいと考えています。これまでケガをしていたり、思うような活躍ができなかった子たちも上げてくると思いますので」
これは東京大会準優勝時の鎌瀬監督の弁。現6年生たちには低学年のころから「ここじゃなきゃ守れない、という選手はつくらない!」と言い続けてきたという。自身は全国大会での采配も、本番までの舵取りも初めてとなる。だが、チームには過去4回の経験とフィードバックがある。さらに昨年は、最終日まで6連戦という尊い知見も加わった。
山本大智(上)と川本貫太(下)の四番、五番コンビは、ともに力強い球を投じる右の本格派だ
“スーパー5年生”の田中璃空(=下写真)が、全国予選からスタメンに入ってきたのは実力によるところが大。決勝でも結果を出しており、そのパフォーマンスを上級生も指導陣も認めている。ただし一方では、組織の永続的な繁栄を期する意図も少なからず、のようだ。
「去年の難波もそうでしたけど、下級生は怖いもの知らずというか、思い切って口火を切ってくれる。田中はホントに良い選手なので、来年にもつないでくれると思っています」(鎌瀬監督)
野球やスポーツに限らず、小学生は伸び盛り。不動パイレーツには個々の学習能力を育む土壌もある。そして経験値も踏まえつつ、確たる方向性へ導かれているからこそ、期待は高まるばかり。
東京1051チームの2番目の高みにまで登ってきた名うての巧者が、この先、どこでどういう形で着地するのか。おそらく、やっている当人たちにも描けていない。予定調和でないところもまた、このチームの魅力のひとつだ。
【都大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6 鎌瀬 清正
⓪6 米永 結人
①6 難波 壱
②6 細谷 直生
③6 山本 大智
④6 佐伯 禮甫
⑤6 石田理汰郎
⑥6 唐木 俊和
⑦6 嶋本 琉真
⑧6 澤野井 大
⑨6 菅井 大翔
⑪6 川本 貫太
⑫6 粉生 薫
⑬5 茂庭 大地
⑭5 田中 璃空
⑮5 竹中 崇
⑱5 岡田 大耀
⑲5 木戸 恵悟
㉑5 斉藤 和馬
㉒5 平尾 駿
㉓5 高浦 浬
㉔5 北條 佑樹
㉕5 松野 隼也
㉖5 山田 理聖