昨夏の全日本学童大会で準決勝敗退から2日後。2022年8月15日に始動した新チームが、翌23年8月11日に同大会を初制覇。新家スターズ(大阪)は361日間、一度たりとも試合に敗れることがなかった。正真正銘のチャンピオン、無双の強さの要因は何なのか。6試合の戦いぶりやコメント、チーム成績から迫った。
(写真=福地和男)
(文=大久保克哉)
―2023 CHAMPION ―
すべて「整う」王道野球
1年不敗、全国初Vで幕
[大阪]
しんげ新家スターズ
【戦いの軌跡】
1回戦〇8対2館野(石川)
2回戦〇19対2茎崎(茨城)
3回戦〇7対1宮崎鷹黒(宮崎)
準々決〇4対1大里(沖縄)
準決勝〇5対1レッド(東京)
決 勝〇6対2不動(東京)
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ハイレベルな攻守走
一番・捕手の宮本一希は、6試合で打率.625に二塁打7本。企図した8盗塁の成功率10割で、その半分は三盗。これらはすべて、チームの最高成績だった。マスクをかぶっては、相手の盗塁企図が4つしかなかったが、半分の2つを阻んでいる。
一芸に秀でて快挙を遂げるようなスーパーモンスターではないものの、攻守走のいずれも高い次元にあるという点では世代屈指。また、その均等な超ハイクラスこそ、今年の新家スターズのカラーを象徴していた。
時にマウンドにも立った城村颯斗は遊撃守備も秀逸。チーム唯一の犠打を決勝で決めて追加点へつなげた
チーム成績を見ても、本塁打を量産したり、三振の山を築くような絶対的な大黒柱がいたわけではないのがわかる。1試合平均で2ケタに迫る安打と8得点を上回る成績は驚異。17安打19得点の2回戦1試合を除いても、8.2安打の6得点平均はまずまずの数字だ。
四死球が20以上でも、犠打は1つのみ。そして三盗を含む盗塁が20を超えるのは、無死または一死三塁という得点率が最も高い状況をいかにつくれていたかを物語る。現に準決勝は5点のうち3点、決勝も6点のうち3点はこの状況から生まれた。
投手交代に伴う守備変更でも不変の堅守。一塁手・上中涼太は三塁を守ってもノーミスだった
一方で、失策と許した盗塁は1試合平均で1個以下で、投手陣の与四死球5は申告敬遠も含んでいる。打たせて取る、ディフェンスの形と安定ぶりがあらためて浮き彫りとなる。
4強の東京王者も脱帽
準決勝で新家に敗れた東京・レッドサンズの門田憲治監督は試合後、このように語っている。
「ウチが打てなかった(3安打)というより、相手が強かった。何とも言えない、修羅場をくぐってきているような動じない強さというか…次にもう1回やったら勝てるかというと、勝てるような相手じゃない。チャンスでの強さとか、1点への執念、1個1個のプレーの精度とか…われわれも負けていないつもりでしたけど、違いましたね」
東京が誇る最速124㎞左腕、藤森一生は3安打されたものの、タイムリーヒットは許さなかった。しかし、二盗や三盗を許し、守備のほころびから3失点。藤森とバッテリーを組む増田球大は捕球も送球も抜群で、「東京予選も都知事杯でも相手が走ってこなかったので、われわれベンチにも慢心があったかもしれません」(門田監督)。
二塁打に三盗がお決まりのようだった一番・宮本(上)。相手バッテリーに左右されずにチームは計21盗塁。写真下は決勝の初回、小松勇瑛の二盗
新家の走者は巧みだった。リードはさして大きくないし、次打者の初球で必ず走らせるような単細胞のベンチでもない。投手と状況をよく観察して、相手に隙が生まれそうなタイミングで好スタートを切り、強くて短いスライディングで次塁を陥れていった。それも1人2人ではなく、一塁に出れば、ほぼ誰もが同じことができた。
結果、6試合で盗塁企図が24で成功が21。失敗3つは、いずれも大勢が決した終盤のことだった。準決勝を制した千代松剛史監督はこう語っている。
「正直、ウチは打撃練習は一番やっているんですけど、ホンマの攻撃というのは守備と走塁とワンセット。120㎞の球も打ち込んどるし、打てるという自信はあるんですけど、結果が残らなかったら何もないのと一緒。打てないなら足で、と今年は走塁もホンマによう練習してきました。やっぱり、全国制覇には全部を整えらんとね」
常識の上をいく進化形
大阪・泉南市にある高学年チームの練習拠点は、兵庫県の地主から無償提供されている造成地。ここを元副代表の梛木均さんがほぼ手作業でグラウンドとし、平日の夜間練習や雨天時の打撃練習も可能に。現在は打撃マシンが10台あり、平日は一人1時間ほど打ち込めるという。
これだけ恵まれた環境も珍しいが、見事に使い切れるチーム、そして結果に結びつけられる指導者もまた決して多くはないだろう。
山本琥太郎に続く五番・梅本陽翔(写真)もパワフルなスイングだった。2回戦では4打数4安打2打点
強肩捕手だから走れないけど、帰塁前提で大きなリードをとってプレッシャーをかける――。こういうお決まりの次元を卒業・超越しているのが新家で、そういう進化形は守備にも見て取れた。
不屈の主将、貴志奏斗の三塁守備に代表されるように捕球も送球も徹底的に鍛え抜かれている。全6試合が継投で、投手交代に合わせて守る布陣も変化した。それでもフィールド上の9人にはいつでも共通して、躊躇や不安気なプレーはいささかもなかった。
結果、6試合のうち4試合で無失策。内野のミスが2つあるが、いずれも失点に絡んでいない。
守備のハイライトは決勝だ。既報のように、本塁打で1点差に迫られてなお、一死三塁、二死二塁、というピンチをいずれも一発けん制からの挟殺で脱してみせた。
一走にはけん制を多め。二走、三走に対しては虚を突く一発けん制が有効だった
どちらのけん制も、ベンチからのサインだったが、2つ目は複数の選手たちからベンチにそういう催促があったという。挟殺プレーでは1年前に苦い思いをしているだけに、審判の「アウト!」のコールがあるまでは徹底的に走者を追う姿も印象的だった。
勝負師への信頼
千代松監督は2011年に父親コーチから監督となり、2015年と19年の全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で優勝。その指導は生ぬるくない。恰幅を増しても眼光は変わらず、百獣の王を思わせるような鋭さ。試合中はその口から、場を圧するような檄が発されることもある一方で、普段は選手と1対1で対話する機会も多いという。
普段は饒舌で笑顔も多い千代松監督。初優勝が決まるとベンチ内でバンザイの後、フィールドのナインへ全力拍手(下)
どんなに勝っても謙虚。賢い戦術を盗んだり研究する一方で、異なる方法論を否定したりしない。厳しさも含めて、勝負師として模範である指揮官を信頼すればこそ、大一番でも選手たちからサインプレーを逆に要求できたのだろう。
「去年の借りを返すために、ここに来ました」。昨夏の準決勝敗退をフィールドで体験した3人の6年生(当時5年生)は大会中、指揮官と同じ言葉を繰り返した。
そして1年間、無敗のまま全日本学童大会を制すると、千代松監督は自らも納得するようにこう言った。
「昨日(準決勝)は足で、今日は守備。打撃が良いから優勝できるかというたら、去年はベスト4やし、違うかなと思います。やっぱり、すべてを整えられたからこその全国制覇やと思いますね」
5年生の藤田凰介は決勝で2安打。4回には左前へクリーンヒット(上)。同級生の山田(下)は新チームでは「(伝統の)背番号0で一番・センターになりたい!」
5年生の中堅手、山田拓澄は準決勝で左打席からソロアーチ。大会序盤は二塁打を量産するなど、指揮官も期待する「未来モンスター」予備軍だ。大会連覇へ、果たすべき役割も大きくなるだろうが、このように大会を振り返っている。
「全国大会は楽しかったです。バッティングも大事だなと思いますけど、やっぱり、守備力がもっと大事だなと思いました」
昨今、若者にも流行りのサウナの「整い」は、水風呂と外気浴を含むワンセットの繰り返しで訪れる。攻守走のいずれも鍛え抜く学童野球版の「整い」が、新家スターズの代名詞になっていくのかもしれない。