無双の不敗王者が誕生した。2023年の日本一を決する決勝は、大阪の新家スターズが東京第2代表の不動パイレーツに6対2で勝利。全国9842チームの頂点に輝いた新家は、新チーム始動から練習試合も含めて1度も負けることなく初戴冠。まさしくキング・オブ・キングとなった。敗れた不動は東京勢初の優勝はならずも、最後まで食い下がっての銀メダルに胸を張った。
※優勝・準優勝チームのインサイドルポ、新家スターズ主将のストーリーは追って掲載します
(写真=福地和男)
(文=大久保克哉)
■決勝/大田スタジアム
[東京]2年ぶり4回目
不動パイレーツ
100100=2
21030 X=6
新家スターズ
[大阪]2年連続3回目
【不】永井、阿部、永井-阿部、小原、阿部
【新】山本、貴志、山本-宮本、山本、宮本
本塁打/阿部(不)=大会3号
先制パンチ、鮮やかに
攻守走、すべてが鍛え抜かれていてそつがない。練習試合を含めて不敗を貫く新家は絶対的な安定感の下、日替わりヒーローを生みながら今大会を勝ち進んできた。2015年と19年の2度、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で優勝に導いている千代松剛史監督のタクトに迷いはなく、どこまでも鋭敏かつ慎重だった。
一方の不動は、東京予選の決勝でレッドサンズに敗れて第2代表(※東京は出場3枠)ながら、今大会は戦うごとに成長がうかがえた。準決勝まで4試合で2失点。永井大貴主将と阿部成真の両右腕はコントールと駆け引きが出色で、投げるたびに球威も増している印象だった。三番・小原快斗は3本塁打、四番・阿部が2本塁打。慶應高(神奈川)、慶大の野球部出身の永井丈史監督には選手たちを乗せる引き出しも多く、4年前の最高成績ベスト4も超えてきた。
1回表、不動は中前打から二盗に成功した一番・岩崎(上)が、投ゴロの送球間に三進すると三番・小原の三ゴロ(下)で先制のホームイン
持ち味も歩みも異なる両軍による頂上決戦は、それぞれに真価も発揮する好勝負となった。そのきっかけをつくったのが、不動の一番・岩崎貴彦だ。
1回表、中前にクリーンヒットを放つと、次打者の3球目に二盗に成功。「あの盗塁はサインでした。けん制が多いのは知っていましたけど、ギャンブルスタートではなく、ホームに投げると判断してスタートしました」
こう振り返った二走・岩崎は、内野ゴロ2つの間に先制のホームを踏んでみせた。百戦錬磨とも言える大阪の王者に対して、これほどの鮮やかな先制パンチは今大会で初めてだった。
しかし、それで面食らってペースを乱すほど、新家は柔ではなかった。準々決勝でも2年連続出場の大里シャークス(沖縄)に1回表に先制されるも、すぐさま1対1に追いついている。決勝でも1回裏、敵失に小松勇瑛の中前打であっさり同点とすると、小松の二盗と内野ゴロ2つで2対1と逆転する。
新家は1回裏、無死三塁から二番・小松が中前に同点打(上)。さらに一死三塁から四番・山本の一ゴロ(下)で2対1と逆転する
2回の攻防も、手に汗握る展開に。先攻の不動は5年生の難波壱と、続く西槙越の連打で一死一、二塁とするも、新家の先発・山本琥太郎が冷静に後続を断つ。そしてその裏、新家は5年生・藤田凰介の内野安打や申告敬遠などで満塁とし、小松が四球を選んで3点目を奪う。こうしてじわりとリードを広げていくのが新家のパターンだったが、不動の四番打者が待った! をかけた。
4回表だ。先頭で左打席に立った阿部は、実父で巨人ヘッドコーチの慎之介氏の現役時代を思わせるような、高い放物線を描くサク越えアーチを右へ放ってみせた。「一発を狙ってはいませんでしたが、少し甘く来た球を捉えた瞬間に、行ったと思いました」。
4回表、不動の四番・阿部が大会3号となるサク越えアーチ(上)で1点差に。続く五番・永井も左翼線二塁打(下)に犠打で一死三塁としたが…
百戦錬磨の術中に
阿部の今大会3号で1点差に迫った不動はなお、永井主将も満振りで三塁線を破る二塁打。そして難波がきっちりと犠打を決めて一死三塁と、試合を振り出しに戻すお膳立てができた直後のことだった。
「リードが大きかったので、いけると思いました」(貴志奏斗主将)。3回途中からマウンドに立っていた新家の主将が、打者へ投じる前に三走をけん制でアウトに。「あそこはノーサインでしたが…」と不動・永井監督は悔やんだが、たちまち二死無走者となった矢先、打席の西槙が右中間へ二塁打を放つと一塁側の応援席が再び大きく湧いた。
4回表、一死三塁のピンチで新家は三走をけん制から挟殺(上)。直後に不動・西槙に二塁打されるも、再びけん制から挟殺(下)で切り抜ける
ところが。今度はその西槙がけん制で塁間へ誘い出されてのアウトで、チャンスを逸してしまう。新家・千代松監督は試合後、この4回表の守りを真っ先に勝因に挙げている。
「けん制死を2つ取れたのはホンマに大きかったですね。どっちもベンチからのサイン。でも2つ目のほうは、子どもらから『刺せますよ!』という感じをこっちにバンバン発してきたので、それなら『いけ!』と」
相手を術中にはめてピンチを立て続けに脱した新家は4回裏、藤田の2安打目に一番・宮本一希の適時二塁打で再び2点差に。さらに四球と足技も絡めて一死二、三塁とすると、三番・貴志主将が左前打で2者を迎え入れて6対2とダメを押した。
ピンチの後にチャンスあり。4回裏、新家は一番・宮本の適時二塁打(上)と、三番・貴志主将の2点タイムリー(下)で6対2と突き放す
それでも不動は諦めない。5回裏の守りは、再登板した永井主将と阿部のバッテリーが三振と二盗阻止の併殺で片づけると、6回表には先頭の二番・村上陽音が中前打と食い下がる。だが、新家も5回からマウンドに戻っていた山本が踏ん張った。一発のある不動の三、四番コンビを三ゴロ、三振で二死。
「優勝できた一番の理由は、守備が堅くてミスがなかったからだと思います」
新家のエース右腕がこう振り返ったように、最後のアウトは堅守を象徴するような美技で奪った。不動の五番・永井主将が三遊間に痛烈なゴロを放つも、三塁守備に戻っていた貴志主将が横っ飛びで好捕。すぐさま立ち上がった主将は、一塁へ矢のような送球で優勝を決めると、ベンチの指揮官とほぼ同じタイミングでまた同じように両こぶしを天に突き上げて咆哮した。
閉会式後、新家・千代松監督が東京の真夏の空に舞った。「涙も? はい、優勝の瞬間は自然に出てました」
〇千代松剛史監督「去年の準決勝敗退から、短いようで長かったですね。ホンマにうれしい。スポ少(交流大会)の優勝とはまた違う、正真正銘の日本一というのか。しかも、去年はあのミスで泣いたキャプテン貴志のファインプレーで終わるなんてね…ホンマに最高、もう言うことないです」
●永井丈史監督「さすがにここまで来ると、いくつかのミスが響いてしまったなと思います。でも、みんな最後まで粘りましたし、良い守備も打撃もありまたし、ウチの良さもよく出せました。立派な準優勝、銀メダルだと思います」
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勇猛果敢なリードオフマン
[新家6年/捕手]
宮本一希
「大会MVPで表彰するとすれば? それは文句なしに、宮本です」
指揮官から真っ先に名を挙げられた宮本一希は、屈強の軍団をなお、奮い立たせるような一番・捕手だった。もともと外野手で、捕手を始めて1年足らずだが捕球が安定しており、素早い送球動作は敵走者の抑止力にもなっていた。
「先頭バッターなので絶対に塁に出られるように、この1年は打撃を磨いてきました」
集大成の夢舞台では1回戦の第1打席の中前打に始まり、5試合で計16打数10安打4打点に8盗塁。二塁打7本に三盗4個の12得点は、リードオフマンとして200点満点だろう。
準決勝では、いきなりの二塁打に三盗も決めてから先制の生還。先制された決勝の第1打席は、早々に追い込まれてからファウルで3球粘り、外野へ大飛球を放つ(記録は失策で三進)など、勇猛果敢なプレーが際立った。
「去年の借りを返すために神宮に来たので、優勝できて良かったと思います」
ベスト4の昨夏は六番・左翼での先発出場もあり、敗れた準決勝は代走から左翼の守備に就いていた。
「バッティングをもっと磨いて、将来はプロ野球選手になりたいです」
学童野球ではこれ以上ない成功体験と金メダルを胸に、中学は硬式野球へ進む予定だという。
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沈着冷静なリードオフマン
[不動6年/二塁手]
岩崎貴彦
大会で3本塁打をマークした小原快斗と阿部成真の三、四番コンビのように、ホームランへの欲求も当然、あるという。しかし、一番・二塁の岩崎貴彦はこうも言った。
「自分に求められているのは出塁だと思うので、とにかく自分が出れば快斗や成真が打って返してくれると、信じてプレーしてきました」
打席からも利発さと自立心がうかがえた。いちいちベンチをうかがうこともなく、短く持ったバットで執拗に粘る。塁に出ると「行けたら行け!」の盗塁サインが多く出ることから、今大会でも相手投手のけん制パターンやクセを見抜く努力を続け、三盗も決めてみせた。
決勝でも1回表に中前打から二盗に成功。「根拠を持って、スタートできたと思います」。高く弾むゴロの処理など、二塁守備でも好プレーを連発した。
攻守走に頭脳も冴える。小さくて細い体はむしろ、豊かな将来性を訴えてくる。夢は当然、プロ野球選手かと思えば、さにあらず。
「将来はパイロットになりたいので、中学は勉強に専念しようかと悩んでいるところです。でも高校ではまた野球をやりたいと思っています」
フィールド上なのか、機上なのか、まだわからない。でもきっと、自分の居場所で輝ける大人になるのだろう。少年時代の銀色の勲章を胸の奥に携えて。