【Team file 11】日野ドリームズ[東京]

2025.02.24チーム紹介
【Team file 11】日野ドリームズ[東京]

女子であることと、選抜チームであることだけでも、活動に制約がつきまとう。さらに編成の母体となる、東京日野市の学童チームは15しかなく、学年で9人そろうことはまずない。それでも水曜日と土曜日を活動時間とし、全学年で同じ練習メニューをこなしながら、結成から12年で夏の全国大会3回出場と、実績も残している。その道程や在り方は、悩み多き女子選抜チームのヒントにもなるだろう。


市内15チームからの女子選抜軍。通年の週2活動で「楽しむ」と「勝つ」も両立

6年生の別れの舞台となる品川交流大会は全勝で終えた(2025年2月)

 2005年──。いまから20年前、振り返ってみると、なかなかにエポックメイキングな学童野球大会が、東京都江戸川区で産声を上げた。

都女子学童20年の変遷

「第1回東京都学童女子選抜軟式野球交流大会」

 主催の江戸川区学童少年軟式野球連盟などから、各地の軟式野球連盟、少年野球連盟に声掛けがされ、都内全域から集まった女子学童野球チームによる大会が始まったのだった。

 初回大会の参加チーム数は8。しかし、翌年の第2回大会では14チームに増えている。この大会の誕生をきっかけに、都内各地で女子学童チームが結成されるようになったのだ。その大多数は普段、男子選手とともに、地元チームでプレーする女子選手が集まった、市や区単位の「選抜チーム」の形である。

「都学童女子選抜軟式野球交流大会」は2011年の第7回大会で、その幕を閉じる。そして翌2012年には、この交流大会を発展させた形で、東京都軟式野球連盟が主催者となりリニューアルされた、「東京都知事杯東京都女子学童軟式野球大会エリエールトーナメント」が始まった。

 都知事杯を戴く冠大会となり、都軟連からの広い呼びかけもあって、大会規模はさらに大きくなり、第1回大会には29チームが参加。その後もエリエールトーナメントは歴史を重ねて続いており、今年で第15回を迎える。

 前置きが長くなってしまったが、以上がざっくりとした、女子学童野球における東京都大会の歴史だ。都内各地で活動する女子学童チームの多くは、これらの大会開催が契機となって誕生している。そして、ほとんどが市区レベルの選抜チームである。ただ、同じ地区選抜チームといっても、個々のチームの在り方は、10年以上の年月を経て、変わりつつある。

12年で3回の全国出場

 日野市の女子学童チーム、日野ドリームズは2012年2月に初結成された。他の多くのチーム同様、市内の各チームから選手が集まった、選抜チームの形式である。

 当初は活動期間も限定的であったものの、そのころから地元連盟の理解があり、各チームも協力的だった(この二つが、選抜チームの活動で一番難しい部分なのだ)。初年度からチームの指揮を執る塚本哲也監督は「常に諦めずにプレーすること」「上級生の選手は、下級生の面倒を見ること」を約束事として、チームづくりをスタートした。

 しかし、いくら連盟やチームが協力的とはいえ、日野市で活動する学童チームは現在でも15と、そもそもの規模が小さい。その中で、女子選手は、といえば、1チームにせいぜい1人か2人、あるいはゼロか…。形は同じ「選抜」といっても、男子の選抜チームのように、実力上位者を選ぶわけではなく、実際には「来るもの拒まず」どころか、積極的にスカウトし、選手を集めるところからチームづくりが始まる。この記事を執筆している2025年2月現在も、ドリームズのメンバーは、間もなく卒業する6年生8人、1年生1人まで含めて、23人に過ぎない。

2024年のシーズンは打力がピカイチだった

 東京都の女子学童野球シーンを振り返ると、各大会が始まってから現在まで、圧倒的に成績上位なのは江戸川エンジェルズだ。江戸川区は区内の各地区に選抜形式の女子チームがあり、区内でも3~4チームによる女子大会が開催されるなど、そもそもの分母となる選手数が多く、女子学童野球の活動の歴史も長い。本来的な意味での選抜チームをつくることができているのは、好成績を続ける大きな要因といっていいだろう。

 もちろん、分母が大きくなればなったで、違う難しさはあろうが、まず選手構成だけを見るならば、日野は最初からハンディキャップを背負ったようなものだ。それでも、そうした状況下にあって、ドリームズは毎年のように、都大会でも好成績を挙げている。昨夏には、エリエールトーナメントで江戸川に次ぐ準優勝を勝ち取り、チーム3度目となる全国大会「NPBガールズトーナメント」出場を果たした。

打のチーム誕生の背景

 2024年度のドリームズの特長は、なんといってもその強力打線にあった。エリエールトーナメントの決勝で敗れた江戸川エンジェルズとは、その後、府中市で行われている学童女子軟式野球交流大会の決勝で再戦し、ドリームズは見事、雪辱を果たした。エリエールトーナメントの決勝スコアが1114、府中交流大会は3回時間切れ(!)の10対8。どちらも、とにかく壮絶な打撃戦だった。

 だが、これがドリームズ伝統のスタイルなのかといえば、決してそうではない。

守備は打撃練習でも鍛えられるということか。打撃ほど目立たないが、2024年度は守りもハイレベルだった

「ドリームズは本来、守備を大切にしたチームづくりをしてるんですけど、今年に限っていえば、早々に守備を諦めたんです」

 長くドリームズのチームづくりに携わる、児玉征波コーチが笑いながら話す。

「6年生の選手たちが、最初に集まったときに気づいたんです。今年は左投げの選手が多い、と。とはいえ、指導者として、選手たちには中学に進んでからも野球を続けてほしい、と考えたときに、安易に左投げの選手をキャッチャーやサード、ショートとしてプレーさせるのもどうなんだろうと」

 つまり、守備に関していえば、限られた選手数で、そのときのチーム事情でポジションを決めるよりは、選手たちの将来的な成長までを願っての「適材適所」を優先し、1年間の結果にこだわらず、長い目で育てることを決断したのだ。

「その一方で、打つほうでは、すごく能力の高い子が集まった。なので、練習でも、とにかく打撃に多くの時間を割くようにしたんですよね」

 6年生の選手にとっては最後の大会となった、2月初旬の卒業生大会「第1回品川女子学童野球大会」でドリームズのウォーミングアップを見ていると、最初にランニングを済ませ、次には早くも、軽く素振りをして、穴あきボールを使った打撃練習が始まった。

「これもアップの一環です。それほど、打撃偏重なんですよ」

 どの選手も、気持ちの良いフルスイング。しかし、チームで最初に練習したのは、バントだという。

ランニングから素振り、穴あきボール打ちまでをウォーミングアップとして

「バッティングはどうしても、調子の波がある。だから、全員、バントもできるようにしておいて、打てないときはバントのサインもあるからね、と。それがなんだかうまい具合に、選手たちの危機感を煽ったようで、どの選手も気持ち良く長打を打ってくれるんですけどね」

「諦めた」とまでいう守備も、見れば十分に鍛えられている。バントもしっかりこなす。その上で、あえての「打撃偏重」なのだ。

 この卒業生大会でも、ドリームズ打線はいつものように打ちまくり、きっちり全勝してみせた。

通年、水・土で活動

 投手力で戦う年もあれば、機動力で戦う年もある。2024年度は、それが打力だった。限られた選手数ゆえ、チームのスタイルを選手に押しつけることはせず、その年ごとに、選手たちの最大の武器を見つけて、それを伸ばそうというのが、ドリームズの方針だ。

 その強さがどこにあるのかといえば、決して多くない人数だからこそ可能な、きめ細かな選手育成と、上級生から下級生へとしっかり引き継がれる、野球に対する真摯な取り組みにあるように思われる。

 現在、ドリームズの活動は3月に始まり、翌2月まで。つまり、ほぼ通年となっている。選手それぞれが自チームでの活動との掛け持ちとなるため、ドリームズでの練習時間は当然、限られる。それでも、短い時間の中、漫然とした練習はせず、各自が実力を伸ばせるメニューをしっかりとこなすのがドリームズ流だ。

 日曜は自チームでの練習や試合があるため、集まれるのは、多くても毎週土曜のみ、という女子チームが多い。ドリームズは土曜に加え、水曜の平日練習も行う。活動を始めた当初、大会前に「これでは時間が足りない」と、いわば“急場しのぎ”的に行った平日練習だったが、年を経て、それがほぼレギュラー化したのだという。

大会では雨天中断中に、ビジョントレーニングをしていた

 現在、児玉コーチが中心となって行う平日練習では、グラブもボールもバットも一切使わず、アジリティトレーニングに終始する日も多いという。チームがとにかく、基礎から、丁寧に鍛えられているのだ。

「コーチたちが、本当によく選手たちの面倒を見てくれる。頭が下がります」

 塚本監督が感謝する。

 練習では6年生も1年生も、全員が同じメニューに取り組む。自チームでレギュラーの選手も、控えの選手も、もちろん同じだ(不思議なことに、ドリームズにはなぜか、1人か2人、自チームでキャプテンやエースなど、主力クラスの選手がいる年が多い)。コーチ陣や上級生、さらには親も一緒になって、下級生選手を励まし、下級生選手はそれに応えようと奮闘する。にぎやかでほほ笑ましく、しかし、頼もしさも感じさせる練習風景だ。

立ち返る「原点」がある

「女子学童野球って、野球の原点だと思うんです」

 塚本監督がよく口にする言葉だ。

「みんなが集まって声を出し、ひとつの目標に向かって、ボールを追いかける。時間の制限はあるけど、必死に練習を続けることで、みんな守備がどんどんうまくなる。バットが振れるようになる。そのために必要なのは、何よりも、野球を楽しむことができる環境づくり。僕の仕事はそれだけですよ」

 そんなドリームズでも、時にはコーチ陣や選手の親と、意見がぶつかるときはある。

「そんなときは、長い目で見ましょう、と。いまこの時間は、彼女たちの人生では、ほんの一瞬。みんなまだ、これからがある。いまは楽しく、笑顔でいようよ、って」

 それこそが、「原点に立ち返る」ということなのだろう。

2024年9月、府中交流大会の決勝で強敵・江戸川エンジェルズを下して優勝

 家族的な空気と、野球を楽しむための環境を大切に、選手全員が試合で活躍できる力をつけるための練習に取り組む。シンプルではあるが、指導者、選手、そして保護者も、全員が同じ方向を向いていなければ、実現は不可能だ。

「それぞれの選手が普段、所属するチームの監督さんたちも、『ドリームズでやってるときは、選手の顔が違う』とおっしゃってくれる。そんなことが、やっぱり、うれしいんですよね」

ついにOGコーチも

 ドリームズが活動を続けてきた、この十数年の間にも、中学女子チームや、高校の女子野球部の数は飛躍的に増え、女子野球の大会もずいぶん多くなった。これからも、女子野球を取り巻く環境は、どんどん変わってゆくだろう。

 ドリームズを卒業した選手の中にも、中学以降、野球を続ける選手は増え、この数年はドリームズ卒業生による「OG大会」が開かれているという。また、最近はついに、コーチとしてチームに戻り、後輩たちの指導に当たる卒業生も誕生した。

 そうして裾野は広がっている女子野球界だが、その一方で、高校・大学卒業後のプレー環境はといえば、とたんに心許なさが漂う。そうした今後の課題もあって、これからどうなるのか、予断なく見守ってゆくべき状況であることには違いない。

 女子学童野球の在り方も当然、変化を続けるのだろう。そんな中でも、日野ドリームズは、変わらぬ「野球の原点」であってほしいと思う。そして恐らくは、そうあり続けてくれる気がするのだ。

 

【野球レベル】全国大会出場クラス

【創立】2012

【活動拠点】東京都日野市

【活動日】水曜、土曜

【選手構成】合計23人/6年生8人/5年生9人/4年生3人/3年生2人/1年生1人(20252月現在)

【コーチ】6人

NPBガールズトーナメント出場】3回(201620222024年)

【東京都知事杯女子学童軟式野球大会】準優勝=4回、ベスト8=3回

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