第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントと第47回関東学童の予選、山梨県大会は6月2日、ラウンダースの6年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた。明見ジュニアベースボールクラブとの決勝は、敗北まであと1球という窮地で2度までも同点に追いつき、ついには逆転サヨナラで勝利。全国切符が1枚しかないのが惜しまれる大熱戦に、選手とチームの横顔も含めてリポートする。
※記録は編集部
※※3位決定戦リポートは➡こちら
(写真&文=大久保克哉)
⇧優勝=6年ぶり2回目ラウンダース
⇩準優勝=関東学童へ明見ジュニアベースボールクラブ
■決勝
◇6月2日 ◇緑が丘スポーツ公園
◇ふじでん球場
明見ジュニアBC
0000013=4
0000014x=5
ラウンダース
※特別延長7回
【明】宮下真、桒原-宮下蓮
【ラ】深沢、伊藤航-中村准
ともに全国出場1回。一塁側の明見JBC(上)も三塁側のラウンダーズ(下)も、スタンドの熱さとマナーのある応援も互角だった
2度目の全国出場をかけて
ラウンダースは2018年に全日本学童大会に初出場で3回戦進出。翌19年に同大会に初出場したのが、明見ジュニアベースボールクラブだった(初戦敗退)。夏の夢舞台を知る同士だが、新チームが船出した昨秋は明暗がくっきりと分かれていた。ラウンダースは県大会を制して関東大会に出場。一方の明見JBCは最初の予選、富士吉田市大会のそれも1回戦で敗退していた。
そんな両軍が1枚の全国切符をかけた大一番で対峙し、見どころ十分の名勝負を展開した。それぞれに選手主体の野球が確立されているのだろう、真剣勝負の中でもピリついたムードはなく、子どもらしい生き生きとした表情や明るい声がフィールドを支配。それは試合が激しく動いた終盤戦に限らず、スコアレスで進んだ5回までの攻防も同じだった。
明見JBCは宮下善主将が先頭打者安打から二盗(下)。ラウンダースの先発・深沢主将(上)は以降の打者16人をシャットアウトで5回まで無失点
ラウンダースは深沢昴主将、明見JBCは5年生の宮下真之介。先発した両左腕はストライク先行で、打たせて取る投球が冴えまくった。
「好球必打で積極的にいければと思っていたんですけど、コントロールとかテンポに投球術。少年野球であれだけきっちり投げられると、なかなか難しい。ホントにナイスピッチでした」
明見JBCの宮下恵太監督を脱帽させたのは、ラウンダースの背番号10だ。身長は140㎝、球速は90㎞、それぞれあるかないかといったところ。それでも内外へ巧みに投げ分けながら、早々に打者を追い込んでアウトにしていく。結局、6回を投げ切って、許したヒットは先頭打者安打(左前打)とバントヒットの計2本のみ。途中、3者連続で奪った空振り三振もあった。
明見JBCの宮下監督(上)は、3年間のコーチを経て就任1年目。一方の日原監督(下)は、幼児向けの野球教室を母体にラウンダースを立ち上げて12年になる
「構えたミットにズバズバ来ました」と、マスクを被った明見JBCの中村准。状況を読んで打者を観察し、前打席の内容も鑑みて配球しているという。好リードにも乗せられた深沢主将は「今日は思い通りに投げられました」と振り返った。投手出身で12年前にラウンダースを創設した日原宏幸監督も賛辞を惜しまなかった。
「ピッチャーはスピードだけじゃない、と示してくれたと思います。深沢は純粋に野球が大好きな子。ムードメーカーで周りも見れるので、練習からすごく良い声も出る」(同監督)
絶対的なリーダーの快投に、打線が呼応しないわけがない。2回裏、四番・中村准の火の出るような左前打を皮切りに、3回、4回、5回と先頭打者が出塁した。
ラウンダースは2回裏、先頭の中村准が左前打(上)。続く送りバントは明見JBCの捕手・宮下蓮の強肩で阻まれる(下)
攻め立てるラウンダースだが、どうしても本塁を踏めない。
3回は二死二塁から一番・横内大聖の投前バントヒットの間に、二走が本塁を突くも憤死で先制ならず。4回は二番・伊藤航の左翼線二塁打に四球や暴投で一死二、三塁として、五番・滝沢宏明がライトへ痛烈なライナーを放つ。だが、これをダイレクトで捕球され、飛び出していた走者も刺されて併殺に。
3回裏、ラウンダースは一死二塁から一番・横内がバント安打(上)も、明見JBCは1-3-2の転送で二走の生還を阻んだ(下)
「3点くらいの勝負と思っていましたし、最終回まで得点できなかったのは監督の責任」と、ラウンダースの指揮官は振り返ったが、むしろ、明見JBCの勝負強い堅守を称えるべきだろう。
「今日はムダなフォアボールもなく、投球については悔いないです」と話した5年生左腕の宮下真は、緩急をつけた丁寧な投球を貫いた。途中、自らのけん制で脱したピンチもあった。
4回裏、ラウンダースは伊藤航の二塁打(上)から一死二、三塁として、滝沢がミートした打球は二塁手の頭上へ(中央)。これを前進しながら好捕した右翼手の小泉が二塁送球で併殺に(下)
捕手の宮下蓮太郎は二塁送球で相手の送りバントを阻み、右翼手の小泉慶悟は先述のビッグプレー(併殺)があった。三塁手の南上駆依はバント処理を含め、再三の守備機会をすべて完璧にこなしてみせた。
明見JBCの宮下真は、5年生ながら緩急を駆使して粘投(5回無失点)
「守りの練習でよくやってきたことを最後の決勝で出せたのは良かったと思います」(宮下監督)
あと1球から2度までも
押され気味ながら無失点を貫いてきた明見JBCが最終回、ついに均衡を破った。
先頭の船久保颯太が四球を選ぶと、犠打で一死二塁に。ここで一番・宮下善太主将がバント安打で一死一、三塁とすると、二番・宮下蓮がスクイズに成功。3連続バントで1点をもぎ取った。
「自分のバッティングで点を取りたい気持ちはありましたけど、スクイズのサインが来ると予想してました」と、1打点の宮下蓮。あとの2人も同じく、バントを想定して打席に入ったという。それだけの練習と経験を重ねているからこその精度の高さなのだろう。
6回表、先頭で四球を選んだ船久保が3連続バントで生還(下)。バントのうち宮下善主将の1本は内野安打に(上)
一方のラウンダースは1点を失い、後がなくなって迎えた6回裏の攻撃。
一死から伊藤航がこの試合2本目の二塁打を放つと、三番・深沢主将のバントが安打となって一死一、三塁に。そして四番・中村准が、エンドランで三塁へ弾むゴロを打って1対1の振り出しとした。
ラウンダースは6回裏、二塁打の伊藤航(上)がバント安打と内野ゴロで生還(下)して1対1に
追い込まれた状況で力を発揮する。これも両軍に共通していたことだ。
特別延長の7回表、明見JBCは犠打で一死二、三塁としてからアウトを増やすも、六番の5年生・勝俣唯登が左越え二塁打で2点を勝ち越す。さらに敵失で4対1として、裏の守りを迎えた。
特別延長7回表、二死二、三塁から5年生の勝俣が勝ち越し2点二塁打
再び後のないラウンダース。「タイブレークで3点目を取られたときは正直、負けを覚悟したんですが、でもこの子たちを見てると何となく負ける気はしなかったので。そうは言っても追い詰められている中で、5年生の益田(有羽)がよく打ってくれました」(日原監督)
7回裏、ラウンダースはあと1球で敗北という状況から同点、そして逆転サヨナラというミラクルを巻き起こした。まずは八番の4年生・奥山葵登がフルカウントから四球を選んで満塁となる。そして九番・益田がカウント2-2から、右越え三塁打で4対4に追いつく。
特別延長7回裏、二死満塁から5年生の益田が左越え三塁打で4対4の同点に
左打ちの益田は前の2打席とも、明らかに逆方向を意識したスイングで遊飛に終わっていた。その九番打者に指揮官は「大事に上手にいこうとしないでいいから、ライトへ引っ張っていいから強く振れよ!」と指示したという。試合後の益田はそれをこのように記憶していた。
「前の2打席のことは忘れて、引っ張ってもいいからランナーをかえして一番につなげ!」
指示通りに引っ張っての殊勲打で上位打線につなぐと、横内が左中間へサヨナラ打(※下の「Pick-up Hero」参照」)で劇歴な幕切れに。
7回裏、4対4に追いついたラウンダースは二死三塁から横内の左中間安打で三走・益田がサヨナラの生還
1枚しかない夢切符は、こうして激戦の果てにラウンダースの手に渡った。6年ぶり2回目となる8月の全国大会に向け、日原監督はこう語っている。
「バッティングは6年前より今年のほうがぜんぜん上。練習してきたことを出してくれる子どもたちで、攻守の戦い方もわかっているので精度を高めていきたい。前回はできなかった神宮球場(※全日本学童は複数会場)で試合ができれば最高ですね。とにかく、子どもたちにいろんな経験をしてもらいたい」
―Pickup Hero―
手痛いミスを帳消しにした、劇的サヨナラ打
[ラウン6年/中堅手兼遊撃手]
よこうち・たいせい横内大聖
7回裏、左中間へのサヨナラ打で一塁を回ると、ヘルメットを手に走りながら歓喜の仲間の中へ
特別延長の7回裏、4対4に追いついてなお、二死三塁の好機。一番・横内大聖は左打席へ入る前に、日原宏幸監督からこのように背中を押されたという。
「もう何も考えなくていいから、自分のバットを振り抜け!」
これがもし、プレッシャーを上塗りするようなネガティブで感情的なものだったら。たとえば、「ここで打てなかったらオマエのせいで負けだよ!」「責任取れよ!」。こんな一言を浴びていたら、サヨナラVはなかったのかもしれない。
直前の7回表の守り。遊撃の横内はゴロ捕球から一塁へ悪送球し、イニング3点目を献上してしまっていた(=下写真)。
無死一、二塁で始まる特別延長戦は3点目がカギになることが多い。予め塁上にいない走者を新たに出して、本塁へ返す必要があるからだ。イニング中に3点目を奪ったほうが勝ち、失ったほうが敗れる可能性が圧倒的に高くなる。
しかし、ラウンダースは7回裏、あと1球で敗北という場面から四球で満塁とし、5年生の益田有羽の一振りで4対4に。そして横内が左中間へ鮮やかに打ち返し、これがサヨナラ打となった。
ラウンダースも守備が鍛えられていた。三塁手・伊藤誉(下)は4年生とは思えない堅実さだった
「最高です! 打ったのはアウトコースの少し高め。自分で決めてやろうという気持ちで打席に入って、打てたので良かったです。自分のエラー(悪送球)で3点目を取られたときはキツかったけど、やっぱり、自分で借りを返さないと」
V打を振り返った横内によると、ここまで劇的な一打ではないものの、守りのミスをバットで挽回した経験は過去にもあるという。ベンチワークが結果として、骨太な選手たちを育んでいるのだろう。達観しているかのようにクールな日原監督は自らの役割をこう語った。
「われわれ大人ができることは、選手の迷いを消すことなので。やられちゃうものは仕方ないし、ミスで点を失うこともある。でも、自分たちができることをしっかりすればいいよ、というのは常日ごろから子どもたちに言っていることです」
日原監督が攻撃のサインを出す間に、コーチが次打者へアドバイスするシーンも印象的だった
―Pickup TEAM―
秋の地区1回戦負けから堂々の県準V
[山梨/富士吉田市]
あすみ明見ジュニアベースボールクラブ
優勝チームの選手や保護者らが記念撮影などをして盛り上がっていたフィールドに、一瞬の静寂があった。
「全国大会、がんばって来てください!」
一塁側の出入り口付近、横一列に並んだ明見ジュニアベースボールクラブの選手たちが、声をそろえてエールを贈ったのだった(=最下部写真)。
中にはまだ泣き顔も複数。宮下善太主将によると、この一言は指揮官の指示だったそうだが、激戦を制した相手への敬意や仲間意識は、20人の小さな胸にそれぞれ宿っていくことだろう。そして山梨代表として堂々と、8月の関東学童大会に出場して躍動することだろう。
「日ごろから歯を食いしばってやってきている練習通りのプレーを、みんな守備でやってくれました。最後の勝負のところで勝ち切れなかったのはベンチの責任かなと思っています。関東大会でも好投手、良いチームが出てくると思うので、これからも引き続き練習していければ」
宮下恵太監督はこう総括した。今年は6年生が10人で、スタメン2人は5年生。チームは2018年に結成。その年にいきなり全国予選で県準V、翌年に全国出場を果たした。当時の指揮官も宮下巨源監督で、同じ「宮下」姓が現在もチームに計7人いる(指導者・代表含む)。これは地域性によるもので、必ずしも親子や親戚が集まっているわけではないという。
現在の宮下監督は、5年生左腕・真之介(次男)の実父で、長男の代では3年間コーチを務めて監督就任1年目。試合中は平静で毅然としていることが多く、攻撃前の円陣で掛ける言葉は5秒から10秒くらい。逆にコーチ陣はファインプレーの選手を大喜びで迎え入れるなど、指導陣の役割分担も明確なようだった。
ピンチでも粘り強くて堅かった守備。どの顔も輝いていた
「野球が楽しい!」と直接に話す選手も複数いたが、プレーぶりや豊かな表情からも十分に読み取れた。場面や打球を選ばず、一様に果敢に向かっていく守備力は全国でもトップレベルだろう。安定度抜群の遊撃手・宮下善主将は、一塁への送球にワンバウンドとダイレクトとがあったが、練習通りに使い分けていると教えてくれた。
「自分より三塁方向の打球は難しい体勢が多いのでワンバンで。二塁方向の打球は勢いのままダイレクトで投げる」
どちらも、アウトを確実に奪うため。指揮官の教えが深く浸透していることの象徴だった。
打線は好投手を打ちあぐねたが、7回に2点二塁打を放った六番・勝俣唯登も、続く七番・南上駆依(=写真下)も、5回の打席ではそれぞれ4球ファウル。当てにいくスイングではなく、自分のベストスイングをした結果の粘りだった。
「各自でしっかりとバットを振ってきたと思いますし、力もついてきたところもあると思います」(宮下監督)
昨秋は市大会1回戦負けも、今大会は県準優勝。のし上がれた理由を宮下善主将は「一人ひとりが練習をサボらないでしっかりやってきたから」と答えた。敗北から涙が止まらなかった正捕手・宮下蓮太郎は「冬からみんなで、ちゃんと一生懸命にやってきたからだと思います」と絞り出すように話した。
快進撃を支えた5年生左腕・宮下真は大会を総括しながら関東大会への意気込みも語った。
「みんながしっかり打ってくれて、取れるアウトを取ってくれて、決勝まで良い試合ができた大会でした。関東大会でも今日みたいな良いピッチングをしっかりしたいです」