第21回京葉首都圏江戸川大会の3位決定戦が2月25日、東京・水辺のスポーツガーデンであり、鶴巻ジャガーズがブルースカイズを下して銅メダルに輝いた。3回コールドの参考記録ながら、鶴巻はエースの園部駿がノーヒットノーランに、先制2ランなど大車輪の活躍。ワンサイドで決着する中でも、双方の有意なチームカラーが浮き彫りとなった。
※記録は編集部、学年の無表記は新6年生
(写真&文=大久保克哉)
⇧3位/鶴巻ジャガーズ[東京・新宿区]
⇩4位/ブルースカイズ[東京・北区]
■3位決定戦
鶴 巻 028=10
ブルー 000=0
※3回コールド
【鶴】園部-斎藤
【ブ】鈴木、忠村-三木
本塁打/園部(鶴)
★園部が3回参考ノーヒットノーラン
3イニングで打者9人を無安打無得点に封じた鶴巻・園部。6つの空振り三振を奪った
開催地の江戸川区を中心に、東京23区から59チームが参戦したトーナメントの最終日。午前9時からの3位決定戦を前に、冷たい雨が土の色を濃くし始めていた。本降りの予報が出ていた午後からの決勝戦は順延が決まったが、銅メダルをかけた戦いは滞りなく進んで決着した。
初回は無得点の静かな立ち上がり。ここで際立ったのは、マウンドの双方の右腕だった。ともにフォームも制球も安定しており、腕がよく振れている。
柔軟な投球フォームのブルーの新5年生・鈴木。今大会ではサク越え弾も放った
ブルーの新5年生、鈴木深空は二死二塁のピンチで四番打者を空振り三振に。対する鶴巻のエース、園部駿は3者連続の空振り三振で最上級生の貫録を示した。
「調子が悪いときは真ん中に速い球を投げるしかない。今日はしっかりと指に乘ったので、球速差を意識して使ったり、高めで狙って空振りも取れました」
こう振り返った園部は、完璧な立ち上がりで気を良くしたか、直後に打棒が火を噴いた。2回表一死二塁、右打席から放った白球は左翼48m地点の高いフェンスを越え、旧江戸川に飛び込んだ(下写真)。
「ホームランはぜんぜん狙ってなくて、監督から『当てな!』と言われた通り、それだけ意識して振っただけ」(園部)
ワンマンショーはなお続く。開始からの連続奪三振は2回裏、5人目(投飛)で途切れるも、6人目をまた空振り三振に。
斎藤隼汰のリードも冴え、ベンチに戻る鶴巻ナインを指導陣はハイタッチで迎えた
ブルーの鈴木も負けてはいなかった。被弾後は冷静に打たせて取っていく。3回表も簡単に二死を奪って、3者凡退――と思われた矢先、バックの1つのミスから悪夢が始まった。
敵失と四球で二死一、二塁の好機を得た鶴巻は、五番・阿部大河(新5年)から八番・鈴木湊翔(同)までの4連打などで5得点。さらに九番・岩垂我音(新5年)と、続く浅野夢叶が四球を選び、二番・井村勇登の中前タムリーでスコアは10対0となった。
3回表、鶴巻は五番の阿部(上)から川上慶(中央)、園部、八番の鈴木(下)まで4連打。園部以外はすべて新5年生だ
ブルー打線の初出塁は3回裏だった。先頭の七番・乾陽登が四球を選んで一塁へ。
「ピッチャーの球が速くてみんな打てなかったので、タイミングを早めに取ってヒットを打って、雰囲気をつくろうという気持ちで打席に入りました」(乾)
ピンチと失点が続くブルーは宮川監督がたまらずタイム(上)。この後、左腕・忠村一輝を送ってようやく3回表を終えたが、鶴巻・井村の2点打(下)でスコアは10点差になっていた
九番・丸山泰造もセーフティバントを試みるなど、突破口を探った。しかし、鶴巻のエースは、試合を通じて初めてのセットポジションでも快調そのもの。トータル6個目となる空振り三振をもって、試合を終わらせた。
3回裏、ブルーは乾が一塁へ歩き(上)、丸山(下)も揺さぶりをかけたが実らなかった
〇鶴巻ジャガーズ・園部健二監督「息子なのであまり褒めたくないんですけど、ピッチャーが頑張りましたね。結果、ノーヒットノーランと先制の2ランで流れをつくってくれて。(新6年生の)1学年上に選手がいなかったので、低学年のころから上級生のチームと戦ってきて実質3年目。今の立ち位置を知る意味でも、たいへん勉強になった大会でした」
●ブルースカイズ・宮川勝利監督「キャプテン(仲西航佑)をはじめケガ人が多い上に、今日は体調不良で3人が欠席。普段守っていないようなところを守った子もいましたし、そういう中でホントによくやりました。大人は無欲で、選手は楽しみながら野球をやれた大会でした」
―Pickup Team❶―
“イエ~イ野球”4年目で勲章
つるまき鶴巻ジャガーズ
[東京/新宿区]
【戦いの軌跡】
1回戦〇12対0下鎌田(江戸川)
2回戦〇4対3篠崎ホ(江戸川)
3回戦〇13対3東京(港)
準々決〇14対4一南(江戸川)
準決勝●0対3船橋(世田谷)
3位決〇10対0ブルー(北)
古い体質を脱却して
ベンチの大人から時折り、威勢のいい声が飛んだ。怒りの叫びや命令ではない。間接的に相手チームの選手を動揺させるような、陰湿な声掛けでもなかった。
ほとんどが鼓舞する声で、率先してイケイケのムードを演出。ベンチ内での指示はどれも手短で、攻撃中のブロックサインは見られなかった。そして大人も子どももなく、喜び合いながら波に乗り、大勝で銅メダルに輝いた。
2年前には東京23区大会で16強入り(低学年の部)。その代の選手たちと一緒に繰り上がってきて4年目となる、園部健二監督が試合後に打ち明けた。
「元々はウチも古い体質で、挨拶・礼儀・感謝…とかやってたんですけど、そういうの、もうよくない? と(笑)。イエ~イってやろうゼ! というチームをつくってきた感じです」
飛び切りに明るい園部監督。その笑顔の向こうには、自身の悔いと子どもたちの未来への想いがある
同監督自身が中・高で体験した、やらされる野球への嫌悪が根底にある。それが発端で、高校球児の道を自ら外れたことへの後悔から、学童野球に対する哲学が生まれたという。
「古いものから脱却して、みんなで楽しみながら、やりたくなる野球をやれば、自然とうまくなる。結果、うまい子が多いほうが勝つ確率が上がる」
今大会の準決勝では、昨秋の関東王者・船橋フェニックス(世田谷区)と、終盤まで接戦を演じた。「フィジカル、パワー、技術、意識、全部負けてました」と指揮官は脱帽も、おしなべての野球知識とスキルの高さは3位決定戦でもうかがえた。
象徴的なのが、二死無走者から一挙8得点した3回表だ。打者12人の猛攻には敵失や四球も絡んだが、4人連続のつるべ打ちに重盗を含む3盗塁もマーク。エース右腕の投打が最大の勝因でも、1人のヒーローでビッグイニングはつくれない。今大会は終わってみれば、6試合のうち4試合が2ケタ得点だった。
チャラチャラでもなく
相手のわずかなスキも逃さない走塁と、それを支えるベースーコーチ(ランコ)の声掛けも出色だった。
「人数が少ない(新5年生7人を含め16人)ので、ランコもどんどん入れ代わりでやる。野球が好きになる環境をつくってあげると、そういうのも勉強したくなるんじゃないですか」(園部監督)
何かと難しくなる満塁時でも、複数の走者へ的確に指示していた井村勇登の証言が、指揮官の見解に重なる。
「野球は昔から好きなんですけど、楽しくやっていたら、いろんなことが自然と頭に入ってきた感じです」
井村は遊撃守備でも光った。3回裏に、相手に初めて許した走者が二進。すると、バッテリーとの息の合った一発けん制で、タッチアウトにしてみせた。
3回裏、一発けん制で二走をアウトに。遊撃手の井村(右)がベースに入り、二塁手の荒川航輝(左)がカバーに動いた
「練習通り。あのプレーはずっと練習してきています」(井村)
要するに、このチームはご気楽と悪ノリで終始するような単細胞ではない。今大会の3位を踏まえ、地元・新宿区の代表となって都大会に出ることが目下のテーマとなった。
「上部大会に出たら、あとは思い切って1つでも多く勝って、という感じ。スタイルは変えません。少年野球でバントしているような子は、プロ野球選手にはなれないとボクは思っていますから」(園部監督)
手にしたメダル以上に、実践を伴うビジョンが光り輝いていた。
―Pickup Team❷―
欠場者続出、手探りで手応え
[東京/北区]ブルースカイズ
【戦いの軌跡】
1回戦〇6対5篠崎コ(江戸川)
2回戦〇4対1椿(江戸川)
3回戦〇8対1麻布キ(港)
準々決〇4対3カバラ(足立)
準決勝●3対4清新(江戸川)
3位決●0対10鶴巻(新宿)
貴重な教訓と経験と
1つの与四球、1つのミスから複数の失点。ブルースカイズの面々には、野球の怖さやワンプレーの大切さが身に沁みたことだろう。球春の到来を前にそういう経験を積めたことも含めて、「大収穫」だと宮川勝利監督は話した。
「4位という結果も超、出来過ぎです。ケガとか故障明けの子も多くて、年明けからやっとチームづくりができるようになってきて。ホントに手探りでのぞんだこの大会で、6試合もやらせてもらいましたから」
チームは伝統のある北区の強豪で、ここ10年来は都大会の常連だ。2016年には東京23区大会(低学年)で優勝、2018年には冬の東京王者を決めるセガサミーカップも制している。
実績のある宮川監督だが「オレがオレが!」の空気がまるでなくて控えめだ
宮川監督は父親監督に始まり、指導歴は6年。数々の実績を挙げた息子たちが卒団後も野球を続けていることを受けて、自身は恩返しのためにチームにとどまった。
「監督1年目は結構、激しくいろいろと言ってたんですけど、選手たちに合ってないなと感じて、言い方とか言い回しに気をつけるようになって。子どもにもタイプがあると思うし、経験に応じて、ですね」
欠席者も複数出た3位決定戦は、布陣を決めるにもひと苦労。不慣れな守備位置で出るべくして出たミスもあった。しかし、ベンチに鎮座する指揮官は大量ビハインドに表情を歪めることもなく、よく通る落ち着いた声で選手たちをこう励ましていた。
「監督が悪いんだから、気にするな!」「監督が悪いだけ、切り替えていけ!」
大会を通じてチームを引っ張った神田明莉が優秀選手賞に
宮川監督とともに歩んできた新6年生は13人。2年前にはジュニアマック(4年生以下の都大会)でもプレーしている。当然、都大会やその制覇をうかがう声も内外にあるが、指揮官の音頭は趣が異なる。
「のびのびやらせたいなという思いで3年間、やってきているので。なかなかそれだと勝てないところもあるんですけどね…」
続く言葉は濁したが、万全ではない戦力で4強まで勝ち進んだ今大会が、ひとつの道しるべになるのかもしれない。最終日も結果はどうあれ、無気力なプレーは最後までなく、6三振もすべてバットを振った結果。チームへの忠誠が選手たちから随所にうかがえた。
「ケガ人もいて、周りの大人も過度な期待をせず、欲がなく冷静に見られたのも良かったかもしれないですね。控えの子たちも経験を積めましたし、選手たちはホントに楽しみながらやってくれました」(宮川監督)