1試合3発の4回コールド締め! 第21回京葉首都圏江戸川大会の決勝が3月2日にあり、初出場の船橋フェニックスが参加59チームの頂点に輝いて閉幕した。昨秋に関東V2を遂げた船橋は、奢ることなく不敗ロードを驀進中。その一発攻勢を前に、清新ハンターズは銀メダルに終わるも、持ち味と成長の跡がうかがえる戦いぶりだった。
※記録は編集部、学年の無表記は新6年生
※3位決定戦評➡こちら
(写真&文=大久保克哉)
優勝/船橋フェニックス
[東京・世田谷区]
【戦いの軌跡】
1回戦〇10対1大雲寺(江戸川)
2回戦〇6対5深川(江東)
3回戦〇10対0中央バ(中央)
準々決〇2対1山野(世田谷)
準決勝〇3対0鶴巻(新宿)
決 勝〇9対2清新(江戸川)
準優勝/清新ハンターズ
[東京・江戸川区]
■決勝
◇水辺のスポーツガーデン
清 新 0020=2
船 橋 0612x=9
※4回コールド
【清】宮成、青木-渡邉
【船】木村、松本-竹原
本塁打/髙橋(船)、瀧川(清)、濱谷(船)、吉村(船)
船橋は準決勝まで主にリリーフしてきた木村が先発(上)。キレのある球が定まらず、2回途中で実父の木村監督が交代を告げる(下)
昨夏に全国出場した6年生(卒団)チームが相手でも、好勝負を演じたという船橋フェニックスの新チーム。昨秋の新人戦は、東京都大会に続いて関東大会も制している。「同学年にはまだ負けたことがない」と背番号11の松本一が胸を張ったように、練習試合を含めての全勝ロードで新年最初の大会も駆け抜けた。
新6年生は17人。総体的なサイズ感と個々のハイパフォーマンスは驚異的だ。それでいて、試合前の練習から高ぶったような言動はなし。一塁への全力走など、試合中も当たり前を怠らないあたりも“小学生離れ”していると言えるかもしれない。長谷川慎主将はこう語る。
「周りから見られることが多くなっているんですけど、関東一のチームだから、しっかりしていこうと自分たちで気合いを入れているし、みんなもそういう雰囲気をつくってくれるので助かります」
そんな船橋ナインに対して、木村剛監督は兼ねてからこう言い続けている。
「相手が強かろうが弱かろうが、自分たちの野球をしなさい! とにかく、相手に合わせるな!」
2回の攻撃で明暗
決勝は清新ハンターズのペースで始まった。1回表、2四球とバッテリーミスで二死二、三塁と攻め立てた。船橋の先発右腕・木村心大の踏ん張りで先制は阻まれたものの、その裏の守りは二塁手・兒玉貫次郎の好プレーもあって3人で切り抜けた。
清新は1回表、二番・山崎秀真が四球からバッテリーミスを突いて三進(上)。その裏には二塁手・兒玉が美技を披露(下)
そして2回表だ。清新は六番・宮成央嵩が、ファウルで粘りながら四球を選んで二盗に成功。続く兒玉も四球で一塁へ歩いたところで、船橋ベンチが早くも動いた。
「ちょっと緊張もあって、投げづらかったです。良い経験にはなりました」と振り返った木村は、三塁の守備へ。遊撃でスタメン出場していた松本がマウンドに上がると、3バント失敗を含む3連続三振で無死一、二塁のピンチを脱してみせた。
「2回表が最大のポイントでした。どんな形でも走者を二、三塁に進められていたら、どうなっていたかな、というのはあります」と清新の渡邉純次監督。
2回表、清新は四球を選んだ宮成が二盗に成功する
立ち上がりから2度のピンチを無失点で切り抜けた船橋に、案の定のチャンスがやってきた。
2回裏、敵失をはさむ3四死球で労せずして均衡を破ると、八番・直井翔のテキサス安打で2対0に。なお無死満塁で、左打席に入った九番・髙橋康佑に特大の一発が飛び出した。
2回裏、1点を奪った船橋はなお直井のテキサス打(上)で2点目。続く髙橋が満塁走者一掃のランニングホームラン(下)で一挙6点
「競った展開だったので、ホームランより点を取ることだけを考えて。打ったのは真ん中。会心の当たりでした」(髙橋)
右翼手の頭上をあっという間に超えていくグランドスラムで、スコアは6対0に。清新の先発・宮成は以降も長短打を浴びて二死満塁のピンチを招いたが、ここは捕邪飛で切り抜けた。
「泣くときじゃない!」
2回裏だけで打者12人の猛攻。これにさらされた清新ナインの中には、落胆の色もうかがえたが、ベンチの指導陣たちは懸命に励ました(下写真)。
「今は泣くときじゃないぞ!」
これに応えたのが、中軸打者たちだ。
まずは三番・渡邉登六が粘った末の内野安打で出塁。そして今大会3本塁打の四番・瀧川恵仁朗が、右打席から左翼48mの高いフェンスの向こうへ2ランを放ってみせた。
3回表、清新は内野安打の渡邉(上)を一塁に置いて、四番・瀧川がレフトへ2ラン(下)
「ここ(水辺のスポーツガーデンA面)で試合をすると、レフトが狭いのでホームランを狙ってやろうと。ただ、力んで逆に打てない打席も多かったので、少しリラックスして打ちました」(瀧川)
しかし、反撃もそこまで。「点差もあったし、ホームランOKと考えてストライク先行でいきました」と、船橋の二番手・松本。被弾後は2連続三振を奪うなど、ペースも制球も乱れることなく、清新の打者たちをねじ伏せていった。
船橋の2番手・松本(上)は打者12人に対して8奪三振の力投。4回裏、吉村のソロアーチで7点差となり試合は決着(下)
そして迎えた4回裏。二死無走者から、船橋の四番・濱谷隆太と五番・吉村駿里の連続ソロアーチで7点差となり、コールドゲームとなった。
「この大会はレフト前とか、ちょこちょことヒットが出ていたくらいで、ぜんぜん打てていない感じでした。でも、最後にホームランという大きな結果が出て良かったです。狙ったというより、次につなげる気持ちで打席に立ちました」(吉村)
〇船橋フェニックス・木村監督「2回の6得点が、最終的に勝ちと松本の好投にもつながったと思います。夏へ向けた意味でも新年の良いスタートは切れました。今日は一発で決められたけど、決められないときにどうするかが、これからの課題。走塁とか、細かな野球ですね」
●清新ハンターズ・渡邉監督「ウチは常に動いてボールも人も動かして、ちょこちょこと1点ずつ頑張って取っていく感じ。その中で瀧川がよく打ってくれました(2ラン)。頼れる不動の四番です。この大会で6試合、相手チームにも成長させてもらった、楽しい有意義な舞台でした」
―Pickup Hero―
不敗軍団の四番の“光と影”
はまや・りゅうた濱谷隆太
[船橋フェニックス]
チームにとっても、自身にとっても、価値のある一発だった(上写真)。
4回裏、直前の打者・竹原煌翔(捕手=大会MVP)は、一気に二塁をうかがってのタッチアウトで二死走者なし。あっさりと終わってしまいそうな攻撃を、四番・濱谷隆太がひと振りで引き留めた。
右中間へ特大のランニングホームランだ。すると、続く吉村駿里もソロアーチで勝負が決した(4回コールド勝ち)。
「(空振りで)2ストライクに追い込まれてヤバいなと思ったけど、お父さんに言われたスイングをしたら、良い角度で打球が飛んでいってくれました」(濱谷)
父の教えとは、手足の回転にタイムラグをつくり、タメをより効かせたスイングだという。「それで高めは横振り、真ん中から低めは縦振り。ホームランを打ったのは内角低め。大好物っす!」
並々ならぬ努力があるからこそ、技術にもそこまで入り込めているのだろう。チームの活動は週末と祝祭日のみ。それ以外の平日は500~600球、父のサポートも受けて羽根打ちに励んでいるという。
「家の周りの人たちもみんな応援してくれてるから、打ち損じをどこかに当てたりしても、何も言ってこないっす(笑)」
どっしりとした体躯と構えに、いかつい表情は早くも中学生のよう。無敵の関東王者を象徴する看板打者にも見える。だが、心中では危機感と常に隣り合わせの日々を送っているという。
「ボクは足が遅いし守備もヘタなので、打てなかったら代えられるというつもりで、いつも打席に立っています。しんどい? はい。でも、平日に練習しないとフェニックスでは試合に出られませんね」
通算の本塁打は80本ほどだが、新チームでは、この日の一発でまだ3本目。もがき苦しみながらも、バットを振り続けている。派手な活躍にスポットライトが当たるその影には、人知れぬ練磨もあるのだ。これも船橋フェニックスの強さの一端であるに違いない。
―Pickup Team―
年輪を重ねてなお、成長中
[東京/江戸川区]
清新ハンターズ
【戦いの軌跡】
1回戦〇7対2西田(杉並)
2回戦〇9対1西千(文京)
3回戦〇6対5目黒ピ(目黒)
準々決〇4対3ジュニア(江戸川)
準決勝〇4対3ブルー(北)
決 勝●2対9船橋(世田谷)
以前はボロ負けの相手に
3回戦から3試合連続で、強敵に1点差の勝利。迎えた決勝は、不敗の関東王者にコールド負けした。結果は大敗でも、清新ハンターズの真骨頂と可能性が凝縮された4イニングだった。
初回の先制機を逸した後には、二塁手の兒玉貫次郎が難しいゴロをギリギリで捌いて、流れを相手に渡さなかった。2対7で迎えた4回裏の守りでは、右翼手の堀裕貴が追いついた飛球をポロリ。だが即座の二塁送球で、走ってきた打者走者をアウトにしてみせた(下写真)。
「トーナメントを戦いながら、成長してくることができたと思います」
選手たちをこう称えた渡邉純次監督によると、右翼手・堀のリカバリーは練習通り。落球してから素手で拾い直しての送球は、日々のキャッチボールから実践していることのひとつだという。
実は船橋フェニックスとは低学年のときに練習試合をしており、忘れられないほどにボロ負けした記憶がある。「あのときに比べたら、今日はちょっと反撃したし、気持ちではぜんぜん負けてなかった。途中で1回、シュンとしかけたけど、そこからまた戻せるようになったので。そのあたりも、この大会での成長かなと思います」(同監督)
決して腰が引けていないことは、走塁からもうかがえた。相手バッテリーは確かにハイレベルだが、スキを常に狙っていた。そして暴投や捕逸で、1回には2人の走者が計3つの進塁。2回には四球を選んだ宮成央嵩が、次打者の2球目で走り、二塁を陥れた。
「走塁は自分でも自信を持っているので、盗塁を決められて良かったです」と宮成。ここはベンチからのサインで走ったが、昨年1年間はほぼノーサインで野球をしてきたことから、スチールのサインが出る予想も準備もできていたという。指揮官が補足する。
「盗塁だけではなく、去年はセーフティバントとかも選手が自分たちでやってました。新チームになって、エンドランとかスクイズはさすがにサインをつくりましたけど、去年の下地が効いている。ちなみにバッテリーは、今もノーサインでやるペアも。自分たちでどんどん考えてやれるのは、彼らの良いところだと思います」
頑張ることの方向性を指揮官が明確に示しているせいだろう、プレーする選手に迷いのようなものがない
新6年生は12人。結果は別として、やるべきことの浸透ぶりも各打者からうかがえた。ほとんどが初球ストライクをしっかりとスイング。端から四球狙いのようなファウル打ちは見られず。3回表の四番・瀧川恵仁朗の2ランも、1ボールからの2球目だった。
「ウチでは基本的に、やっちゃいけないことなんて1個もないので。三振OKだし、狙い球なら3ボールからでも打っていいし、ピッチャーにも『フォアボールを絶対出すな!』なんて言いませんし。大会を通じてベンチもそういう声掛けができて、まとまってきましたので非常に有意義な大会でしたね」
渡邉監督は、長男(新高1)の代から10年近くの指導歴がある。正捕手の次男・登六らとともに、学童野球ラストイヤーとなる2024年度で、自身は燃え尽きる決意だという。低学年の時代からゴールを見据えつつ、選手とともに年輪を刻んできたからこそ、共通理解を伴う野球で強敵にも向かっていけるのだろう。
「江戸川区大会を勝って、都大会で船橋フェニックスにリベンジしたい!」
どの選手も決意は同じだった。減っているとはいえ、なおも62チームがしのぎを削る江戸川区はやはり、侮れない。都大会の予選でもある区長杯は17日に開幕しており、清新は24日に初戦(2回戦)を迎える。