2023フィールドフォース・トーナメント神奈川県学童軟式野球選手権大会は8月21日、吉沢少年野球部の初優勝で閉幕した。天神町少年野球部との決勝は、双方がスタイルを貫いた好勝負となり、3対1で制した吉沢が7月30日閉幕の会長杯に続いて県2冠に輝いた。同日の準決勝2試合と合わせてリポートする。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
※準決勝評は→こちら
優勝(初)/吉沢少年野球部(平塚市)
準優勝/天神町少年野球部(中原区)
■決勝
天神町 000001=1
吉 沢 00201 X=3
【天】末次、森島、横山-横山、森島
【吉】吉岡、宮原、吉岡-芭蕉
本塁打/宮原(吉)
各市区代表の54チームによるトーナメント戦は、8月9日の横浜スタジアムでの開会式を経てスタート。最終日の会場となった茅ヶ崎公園野球場は、両翼92mの軟式専用球場で、今大会は学童用70mの特設フェンスやカラーコーンなどは設けず。外野への打球もフリーとなり、準決勝以上の3試合でそれぞれ価値あるランニングホームランが生まれている。
「打て!」vs.「待て!」
どちらが良い悪いではない。各打者の対応が好対照だった両チームが、大一番で僅差の好勝負を演じた。
1回の表裏は、それぞれ相手の二盗を阻む。写真上は吉沢の芭蕉主将。天神町の横山は小飛球もダイブで好捕(下)
まずは双方の好守備から幕を開けた。1回表は、守る吉沢(きざわ)少年野球部の正捕手・芭蕉隼人主将が、二死一、三塁から二盗を阻んでピンチを脱する。そしてその裏、一番打者の芭蕉主将がテキサス安打で出塁。しかし、その後に仕掛けた二盗は、天神町少年野球部のスタメン捕手・横山祐介によって阻まれる。横山はさらに二死後、四番打者の小飛球をダイビングで好捕(捕邪飛)。
これで両先発は波に乗り、2回はともに3者凡退で切り抜ける。
「いつも通りにバットを強く振れ!」。天神町・加賀田監督もいつも通りに各打者の背中を押した
「オマエら、6年生になったんだからホームランを打ってこい!」
準決勝と同じく、ベンチでそう声を挙げていたのは天神町のベテラン、加賀田甲次監督だった。「打て打て! でウチはやってきたチームですからね。『とにかく、バットを強く振れ!』と、いつもそれしか言ってないので『待て!』のサインなんか出したって仕方ない。それでもバントしたいという子がいれば、『自分で考えてやりなさい』と伝えています」(同監督)
シンプルかつブレないその方針が、準決勝での3回、打者13人で10得点という超ビッグイニングもつながったのだろう。決勝は満振りの後の見逃し三振や早打ちの凡退もあったが、指揮官が非を唱えることはなかった。
ピンチでは選手たちでタイムを取る場面もあった吉沢(写真は準決勝の4回)
一方の吉沢は準決勝で2ランスクイズがあり、重盗を含む7盗塁にランニングホームランも。多彩な攻め手が際立っていたが、決勝では2ストライクまで見ていく打者が明らかに多かった。
芭蕉直人監督(下写真)は、自身の仕事の都合による2年のブランクを経て、指揮官に復帰1年目。試合後は「各打者に待たせたのはボクのサインです」と打ち明けて、理由をこう続けた。
「ウチはそんなに打てないこともあるし、きょうはダブルヘッダーでしたから。エース級の投手が3枚も4枚もいるチームはそうないので、相手の球数(最多70球)をかなり気にしながら戦っていました」
その吉沢が3回裏に均衡を破った。 二死二塁で打席に入った二番・宮原瑞樹が、カウント2-1から中越えのランニングホームラン。「低いライナーでランナーを返すことだけを意識しました」(宮原)との証言を裏づけるように、弾丸のようなライナーがあっという間に中堅手の頭上を越えていった。
3回裏、吉沢の二番・宮原が中越えのランニング2ランを放つ
準決勝で好守も披露していた吉沢は先制直後の4回表、一死一塁のピンチに一ゴロから3-3-6の併殺を決めた。二塁ベース上で難しいショートバウンドの送球を受けて、走者をタッチアウトにした5年生の遊撃手・笠井時成は試合後、うれしそうに言った。
「ショーバンを捕る練習も、いつもやっています。最高です!」
吉沢は4回表、5年生の遊撃手・笠井(左)の巧みなグラブさばきで併殺を奪う
天神町も普段通りを最後まで貫いた。象徴的なのは5回表、二死一、二塁の好機で左打席に入った一番・末次康士朗主将だ。結果は一ゴロも、カウント3ボールからこん身のフルスイングを見せた(※詳細は下の「ヒーロー」で)。
5回表、二死一、二塁の好機で3ボールからフルスイングした天神町・末次主将。「絶対に決めてやる、という気持ちでストライクを思い切り振りました」
5回裏に吉沢が宮原の犠飛で3点までリードを広げたが、主将の満振りを目の当たりにした天神町はあきらめない。6回表、準決勝でホームランを放っていた二番・森島暖が右中間を深々と破る三塁打で出ると、一死から四番の5年生・貝吹透也がセンターに犠牲フライを打ち上げて、一死を報いた。
6回表、二番・森島の三塁打(上)と5年生の四番・貝吹の中犠飛(下)で天神町が1点を返す
最後は準決勝で本塁好返球に公式戦初本塁打もあった吉沢の5年生、伊藤新がライトフライをグラブに収めて終了。
吉沢はこの7月末の会長杯初制覇まで、県大会3回戦がチームの最高成績だったという。それが一気に県2冠である。芭蕉監督は「手ごたえはまだまだないです。めぐり合わせが良かったのかな」と謙遜したが、攻守ともよく鍛えられていて精度が高かった。
「今年のチームはケガ人が多くて、会長杯からやっとベストメンバーがそろうようになってチームがまとまってきた感じはあります」(同監督)
小谷心優と笠井の二遊間は堅守を誇り、三塁手の大村泰斗は準決勝で先発してゲームメイク(下写真)。九番・右翼の伊藤を加えた5年生4人の活躍と幅の広いプレーは、チームの明るい未来を暗示しているようでもあった。
「新チームではキャッチャーをやると思います。来年の全国出場とか、自分の心の中では思い始めています」(伊藤)
なお、上位2チームが出場権を得た横浜銀行カップ(県大会)は8月26日に開幕。吉沢は準々決勝で1点差負け、天神町は2回戦で敗退している。
☆大会MVP=吉岡孝太朗投手(吉沢少年野球部)
「自分が受賞するとは思っていなかったので、びっくりしました。打たせて取ろうという気持ちで投げてきたことが、優勝につながったと思います。これからも1点も取られないようなピッチングをしていきたいです」
●天神町少年野球部・加賀田甲次監督「準決勝に勝って、横浜銀行カップの出場権を取ることを目標にしてきたので、何も隠さずに準決勝で全部出せ、と。結果、でき過ぎくらいに打って勝てたので色気を出して『もう1個!』なんて言っちゃったんですけど(笑)。そんなに甘くないですね」
―Pickup Hero❶―
決勝でも準決勝でも「2ラン」
宮原瑞樹
[吉沢6年/中堅手兼投手]
大技あり、小技あり、足技あり、美技あり。万能型のチームを象徴していたのが、周囲より頭ひとつ分は大きい宮原瑞樹だった。
「何でもできるように練習しています」
準決勝では第3打席に2ランスクイズを決めると、第4打席は中前打から二盗などでダメ押しのホームを踏んだ。決勝は、第2打席に中越えの先制2ラン。「ずっとアウトコースに投げられていたので、踏み込んで打ちました」。続く第3打席は右犠飛と、1人でチームの全3打点を稼いでみせた。通算本塁打は15本超、そのうちサク越えアーチは数本あるという。
「アウトコース高めの吊り球が得意です」と語るように、長身を利した投手でもあるが、右ヒジ痛から戦列に復帰したのが7月末。復帰登板は今大会の準決勝で、最後の1アウトを奪うと決勝は3回から6回二死までを無失点でつないだ。「気合いが入っていたので、良い球がいきました」
MVPは大会を通じて主戦の働きをした吉岡孝太朗に譲ったが「当然だと思います。いつも(自分が守る)センターから、安心してピッチングを見ていました。チームプレーで相手をしっかり抑えてきたことが優勝の要因だと思います」
仲間とつかんだ金メダルを胸に、屈託のない笑みで語った。
―Pickup Hero❷―
仲間を鼓舞するファイター
末次康士朗
[天神町6年/捕手兼投手]
同じ左投の横山祐介と2人、低学年時からバッテリーを組み、交互に投げて受けながらチームを引っ張ってきた。その頑張りとハイレベルを目の当たりにしてきたからこそ、加賀田甲次監督は懸命にメンバーを集めてきたという。
「彼ら6年生はもともと5人しかいなかったんですけど、5年生たちが去年、入ってきてくれて何とか単独チームで大会に出られるようになりました」(同監督)
背番号10の末次康士朗は、準決勝は全3打席出塁で二盗を決めてから得点。決勝は無安打も、ナインを鼓舞するひと振りがあった。2点を追う5回表、二死一、二塁で迎えた第3打席だ。「キャプテンのオマエの一発で逆転して来い!」と指揮官から檄を受けると、カウント3ボールからのストライクをフルスイング。
結果はファウルとなり、次の5球目を打って一ゴロに倒れるも、主将のそのファイトが、続く最終回の1得点につながったのではないだろうか。
「決勝は自分が打たれて、打てなくて負けたので悔しいです。でも、チーム一丸となって、みんなで全力でやってきた結果が銀メダルだと思います」