ノーブルホームカップ第26回関東学童軟式野球秋季大会の茨城県予選。新人戦の準決勝第2試合は、4回表を終えて7点差と、コールド決着も見えてきた矢先に同点となり、特別延長のサヨナラ劇で決着した。互いに適時失策と四死球も複数あった一方で、同じく2ケタ安打で2ケタ得点。ミラクルを呼ぶ守備の連係プレーもあり、両ベンチに学ぶべき点もある大乱戦だった。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
第3位
さくらがわ桜川ツインズ
■準決勝2
◇10月20日 ◇第2試合
桜川ツ 52111=10
神栖マ 20072x=11
※5回特別延長
【桜】木内、高島、七ツ役-七ツ役、木内
【神】伊藤夏、沼田-天野陽、伊藤夏
桜川は5年生10人でスタメンもオール5年生(上)。神栖は5年生7人、スタメンに3年生が2人、4年生が1人(下)
どう甘く見ても、打者のヒットにはならない。フライの捕球体勢に入ってからの落球や、無理のない体勢からの悪送球は、小学生の野球でも明らかなエラーだ。
そういうミスが双方に複数あって、失点にも絡んだから「好ゲーム」とは言えまい。ただし、新チームが走り出して間もないこの時期には、ままあることだ。粗を突くより、両軍がマークした2ケタ安打の2ケタ得点のほうに目を向けたい。またどちらの選手たちも、試合展開による緊張はうかがえたものの、ベンチや結果に怯えてプレーしている感じはまるでなかった。
1回表、桜川が坂本(上)、鳥羽慶斗(中央)、高柳奏斗(下)の各タイムリーで5得点
最大7点差もひっくり返った末のサヨナラだから、「大乱戦」という表現が適切だろう。勝者には流れを引き寄せる守備のビッグプレーがあったことも見逃せない。
好調打線vs.粘る守備
打力が秀でていたのは、5年生9人がスタメンに名を連ねた桜川ツインズだ。1回戦から準々決勝まで3試合すべて2ケタ得点で、2回戦では21得点。準決勝もバットが振れていた。
1回裏、神栖は一番・野口治主将の中前打(上)から二死満塁とし、六番・野口昌がレフトへ2点タイムリー(下)
1回表、四番・坂本海侍の先制2点タイムリーを含め、5本の長短打で5点を先取。2回は五番・木内陽斗、3回には二番・高島幸がそれぞれタイムリーを放った。さらに4回表は、先頭の坂本が左中間二塁打を放ち、続く木内のバント安打の間に本塁を陥れて9点目が入る。
「この大会は打ち勝つぞ! とやってきたチームですが、1点がほしい場面ではバントもします」と桜川・矢﨑利樹監督。打点がついた走者二塁からのバントのサインには、コールド勝ち(5回7点差)につなげようとの意図も含んでいたという。
桜川の先発・木内(上)は3回まで2失点とゲームメイクし、打っても3安打3打点。二番・高島は3安打で2本目の二塁打は当初、ダイレクトでサク越えとの判定で笑顔でラン(下)
対する神栖マリーンズは、そこから驚異的な粘りを発揮した。スタメンの3人が下級生という若い布陣ながら、1回戦では9対8と接戦をものにしている。この準決勝で特筆するべきは、4回裏の猛反撃へとつなげた、表の守りだった。
2対9とされて、なお一死三塁のピンチで打球は三塁ゴロ。これを確実にグラブに収めた3年生の小原多陽は、一塁送球でアウトに。その送球と同時に三走がスタートを切っていたが、一塁手の野口昌樹が落ち着いての本塁転送でタッチアウトに(=下3枚連続写真)。この併殺で3アウトとして迎えたのが4回裏だった。
1回には2点タイムリー、そして先の併殺プレーに絡んだばかりの野口昌が、先頭で左越えの二塁打を放つ。同じく併殺に絡んでいた小原が、三塁線へのバントヒット(=下写真)と二盗で無死二、三塁に。八番の4年生・白井勇気が四球を選んで満塁となったところで、守る桜川ベンチが動いた。
好投してきた先発の木内に代わって、高島が三塁からマウンドへ。無死満塁だが得点差は7点もあり、慌てる場面ではない。1人目で押し出しの四球を与えた高島だが、投じるボールは生きていた。
対する神栖も、野口治翔主将が「(2対9でも)ぜんぜん諦めてなかったです」と振り返っている。無死満塁から、その主将の一ゴロでまた1点が入り、一死二、三塁に。さらに3年生の天野裕斗が、左打席からレフト前へ流し打つタイムリー(=上写真)。「引っ張ろうとして打ったら、レフトに打球が行きました」と正直な3年坊だが、4点差まで詰めたこの一打から相手の守備が崩れだした。
「ああいう場面でも大人なら余裕がありますけど、子どもは真っ白になっちゃうんですよね」と桜川の矢﨑監督。無死一、三塁の時点でタイム(=下写真)を取り、「1個ずつアウトを取ろう」と内野陣に伝えたが、リアルに追われる身となって地に足がつかなくなったようだ。
終始、平静の指揮官
猛追する神栖は、内野安打と四死球に敵失で、ついに9対9の同点とする。盛り上がるナインとは対照的に、野口知寛監督は序盤のビハインドから終始、平静で穏やかだった(=下写真)。
「ウチはセカンドとサードが3年生でレフトが4年生。全部で14人しかいないんですけど、子どもたちには少しでも野球を楽しくやってもらえたら。練習では厳しいノックとかもありますけど、試合はのびのびとプレーすることを第一に考えています」(同監督)
ミスを笑ってごまかすのが、楽しいことではない。野球をどん欲に学び、目一杯のプレーで勝負することが、神栖ナインにとっての「楽しさ」なのだろう。特別延長に入った5回表の守りで、再びビッグプレーがあった。
二死満塁で、打球は三塁線へ緩く高く弾むゴロ。これを前進してきてグラブに収めた3年生は、一塁へ投げずに反転するや、三塁ベース上へ送球。そこへ遊撃手の野口治主将が走ってきて捕球し、飛び出していた三走をタッチアウトに(3アウト=上写真)。
1点は失ったものの、守備で流れをまた引き寄せての5回裏。神栖は二番・天野裕の内野安打で満塁とし、三番・沼田空士が同点スクイズを決める。そして3打数3安打の四番・伊藤夏海が、4安打目となる右前打を放ち、11対10でサヨナラ勝ちした。
神栖は3回途中から救援した沼田(上)が粘投。四番・伊藤夏は5回裏に右へサヨナラ打(下)
―Good Loser―
高校生の指導15年も財産。
62歳が自ら「良い鏡」に
やさき・としき矢﨑俊樹
[桜川ツインズ監督]
時期もタイミングもわきまえず、目の前のミスでいちいち激高するような両ベンチであれば、あっさりとコールドで決着していたのかもしれない。確かに手痛いミスが双方にあったが、当事者の選手は自ら課題と向き合い、練習に励んでいることだろう。
波乱に富む試合は、学童野球ならでは。桜川ツインズの矢﨑利樹監督には『子どもの世界観や特性』にも造詣が深かった。
「小学生の野球はやっぱり、難しいですよね」と実感がこもるのは、元は高校野球で監督や部長も務めた教員であるからだ。18歳から指導者となり、江戸崎総合高、竜ヶ崎南高、中央高と公立3校の野球部で計15年の指導キャリアがある。学童の指導歴はその倍に近く、現在は特別支援学校に赴任中で部活動がないことから、平日の練習もみている。
守備が終わると、指導陣はベンチを出て選手たちを温かく出迎えていた
「私も若いころは感情を表に出してやってましたけど、年を重ねるごとに『これじゃいかん!』と。高校生は基礎ができているので応用を教えるだけでいいけど、小学生はゼロからですからね。土日だけの練習では追いつかないので、平日も多少やらせてもらっているんです」
まさかの大逆転負けで泣いている選手もいたが、指揮官は穏やかな表情をいつまでも崩さなかった。
「ウチの子たちは一生懸命に練習していますし、これからミーティングで褒めてあげたいと思います。ひと冬かけて、外野を中心とする守備と細かい部分を鍛え直して、また県大会に戻ってきたいと思っています」
登録選手は15人しかおらず、攻守交代時には指揮官が捕手の防具装備を手伝うという珍しいシーンも(=下写真)。年齢は62でも、12に満たぬ選手たちとの距離感はあまりないように映る。
「監督は鏡だと思っていますからね。人として常に良い模範、『良い鏡』でないと」
そんな指揮官を慕って、選手が増えてきているという。登録外の3年生以下は20人規模に。ヒットを打った選手は必ずと言っていいほど、塁上からベンチの指揮官へ笑顔を向けていたのも印象的だった。
決勝戦がすぐ後に迫っており、個々にじっくりと話をきけなかったものの、選手も保護者も一様にこのように口走った。
「野球も監督も大好きです!」