日本プロ野球の正月、2月1日のキャンプインから2週間あまり。紅白戦や対外試合の結果も伝えられているなかで、海の向こうのMLBでも「キャンプイン」というニュースを見聞きするようになりました。
リーグ戦の開幕時期は日米でそう変わらないのに、始動のタイミングに10日以上の開きがある。これは、なぜでしょう。
アメリカ人は練習嫌い――。こういう俗説を耳にしたことがある人も多いと思います。昭和の時代には、プロの“来日助っ人”(大半が米国人)は練習をサボりがち、というレッテル(固定観念)が土着していたように思います。また、「優良助っ人」や「真面目ガイジン」、その対義語の「ダメ外人」という言葉もよく聞かれました。
高年俸で来日したロートル気味の元MLB選手が、キャンプから汗を流してシーズンでも活躍すれば、前者の呼称で信頼も人気も増していく。一方、大きく遅れてキャンプ終盤にやってきて、シーズンに入っても泣かず飛ばすとくれば、後者のレッテルを貼られてワンシーズン、あるいはシーズン中に帰国の途へ。
メディアの現地情報から、シーズンを好き勝手に予想しての喧々諤々は、今の時期の野球ファンの楽しみのひとつだと思います。ただし、外国人選手の登録・出場枠の拡大と、WBC優勝やMLB進出でも裏付けられる日本人選手のレベルアップにより、「助っ人」という概念がすっかり影を潜めている。そのように感じるのは筆者だけではないと思います。
では、アメリカの野球選手は本当に練習嫌いなのでしょうか? 現地で市場調査をしてきた私の答えは「NO!」です。
確かに「一生懸命」を絵に描いたような熱血や必死さは、どこへ行っても感じませんでした。前回のコラムで言及した大学の選手たちはむしろ、息抜きなの?というくらいにリラックスムードでトレーニングをしていました。オフシーズンのせいもあったのかもしれませんが、チームの全員が集まる時間は90分程度で、軍隊方式の有無にかかわらず、統制や一丸の雰囲気は微塵も感じませんでした。
一方、強烈に訴えてきたのは、個々の自立心と意識の高さ。それと財力です。「町」のようなキャンパスの中に、学校側とは別経営のパフォーマンスジムがあり、そこでは個人契約をした、あらゆる競技の選手たちがマンツーマンで計測やトレーニングに黙々と励んでいる。時間や量で区切る練習が日本式だとするなら、米国式のあらゆる基準は「数値」でしかない。その値を向上させるために、個々に必要なおカネを積んで努力をする、という図式です。
それはまた、大学のキャンパス内に限ったことではありませんでした。そもそも身体を動かす、身体を鍛える、ということがアスリートに限ったことではなく、老若男女も問わない。まさしく「生涯スポーツ」。この概念がアメリカではひとつの文化と思えるほど、人々に根付いているようでした。
私が滞在した西海岸方面では、街にはフィットネスジムがわんさとありました。キャンパス内にあったパフォーマンスジムと同様の、複合型のスポーツ施設も点在。個人商店のような小規模なものから、チェーン展開する法人の巨大施設(=上動画&写真)まで、さまざまなスタイルが成り立っていました。
またそれらとは別に、野球選手に特化したトレーニング施設も。そのひとつ、私が訪れた「D-BAT」という名称のベースボール&ソフトボールアカデミー(=下写真)には、子どもから学生までの姿が多くありました。フィールドテスト(数値化)や動作解析、練習はマンツーマンで。潤沢なマシン類を用いたフィジカル強化は各々で。MLB選手の直筆サインや写真なども飾ってあったので聞いてみると、シーズンの合間に訪れて調整したり、その際に即席の子ども向けスクールも開かれたりするそうです。
ベースボール&ソフトボールアカデミーの特長は、選手の求めに応じて(契約次第で)トータルコーディネートできること。屋外での計測・動作解析から、屋内でのトレーニングとそのプログラムに加えて、食事の管理や適切なサプリメントの提供もする。さらにはグラブやバット、ウェア類など陳列された商品も充実していました。
野球の本場でそういう現実を目の当たりにして、私は高揚せずにはいられませんでした。アメリカでは当たり前の「屋内・レッスン・物販」のワンセットを、日本で展開しているのはわれわれフィールドフォースしかない!ということに気付いたからです。時代を先取りしていた!と言えれば、さらにカッコいいのですが、成り立ちはまったく違います。
唯一無二の練習用ギアを開発するフィールドフォースは、商品をテストしてからご購入をいただけるようにと、アンテナショップを兼ねた全天候型の屋内施設を建てました。しかし、その施設もウイークデーは空いていることが多く、また平日練習の場所に困っている小学生も多いことから、施設内でのスクール事業もスタート。
こうして現在では国内5カ所で、例の三位一体の「ボールパーク」を運営しています。東京、札幌、福岡、旭川、千葉(柏)に続いて、東北の仙台(宮城)に6店舗目を間もなくオープンする予定です。
あくまでも結果として、同じ施設がアメリカあることを知りました。スケールと数の点では足元にも及びませんが、「計測」や「食」のサポートなど、新たなヒントも得ることができました。また、現地へ持ち込んで試してもらったフィールドフォースの商品は、どれも好評で決まってこのように言われました。
「なんでこんなにチープなんだ!?」
英語のチープ(cheap)は直訳すれば「安っぽい」という意味。日本ではネガティブな意味合いが濃くて、卑下する際にも用いますが、アメリカでは違いました。むしろそれは誉め言葉であり、安くて良いものに出会った際の感動から発せされるもの。今の日本で言うなら「CP(コストパフォーマンス)が高い」という表現が近いと思います。
アメリカのトレンドを吸収して、それに合った商品を開発して輸出しよう。渡米前はそのように考えていた私ですが、あらゆる出先で「チープ!」という高評価を受けて、180度変わりました。
すでに日本で流通している、われわれのマニアックな商品のうち、動作改善に適したアナログ商品をアメリカンサイズ用にして現地の市場へ送る。それだけで十分に、異国でもプレーヤーの力になれる。私はそう踏んでおり、帰国後の社内報告でもそういう発言をしました。
海の向こうの大国の野球選手たちが練習嫌いでなければ、きっと、われわれの商売も成り立つことでしょう。ただし、この島国において、フィールドフォースが果たすべき使命も、あらためて強く感じています。
アメリカでは「野球」の競技者には、大前提に富(財力)があることを思い知らされました。日本でもその傾向はありますが、まだまだ間口はとても広い。これを堅持するためにも、われわれは適正価格での販売を続ける必要がある。折からの円安による、決して小さくはないダメージも、輸出の本格化で解消できるはず。
そう信じて業務にまい進する、今日このごろです。日米のプロ野球開幕には間に合いませんが、夏のオールスターまでにはアメリカAmazonへも出展します。
(吉村尚記)