【2023注目の逸材】
菊地洸佑
きくち・こうすけ
※打撃と送球・バックアップの動画→こちら
【所属】福島・南相馬野球スポーツ少年団
【学年】6年
【ポジション】捕手
【主な打順】四番
【投打】右投右打
【身長体重】157㎝50㎏
【好きなプロ野球選手】岡本和真(巨人)
※2023年5月10日現在
中学生でもここまで確実に、また根気よく、バックアップができる捕手はそう多くはないだろう。学童野球では全国レベルでも、間違いなくレアケースだ。
走者なし、または走者一塁。相手の打球が内野に転がるや、菊地洸佑はマスクを飛ばしながら一塁方向へスタートを切る。160㎝に迫る大柄のパワー自慢とはいえ、レガースもプロテクターもヘルメットもミットも着けたまま、1試合をやり切るだけでも骨が折れるはず。さすがに試合終盤にはスピードが鈍ってくるものの、序盤は打者走者を追い越しそうな場面すらある。
「カバーリングとバックアップは毎年、徹底しているんですよ」
こう語る佐藤英雅監督は、昨秋の新人戦で5年生(現6年生)6人のチームを福島大会優勝、さらに東北大会準優勝まで導いた。「菊地もよくやっていると思いますけど、まだ満足はしていません」。
当然のバックアップを当たり前にやり続ける捕手。「ピンチで自分からタイムを取ってマウンドに行くとか、そいういのを実行できていないのが課題です」(菊地)
学童の軟式野球は学校の校庭や河川敷など、フェンスに囲まれた球場以外での試合も多々。そして公式戦になると、ベンチ裏から外野のファウルエリアにかけて、ボールデットとなる境界線が引かれたりする。
そういう環境下で、守備時のオフ・ザ・ボールの動きの必要性や意図を小学生が理解し、マスターするのは容易ではない。だが、上のカテゴリーでは必須だ。また、フェンスのある球場で行われる都道府県大会や全国大会では、バックアップで防げたはずの失点も珍しくない。
「自分がバックアップに入れば、内野手が思い切って投げられる。(ライトゴロを狙った)悪送球を自分が捕って、走者を二塁に行かせなかったこともあります」
こう語る菊地は、外野手から捕手に転じてまだ1年強。しかも、野球を始めたのが4年生の春だというから驚きだ。おまけに、投打以外はすべてが左利き、と聞かされて開いた口がふさがらなくなる。
4年生の春から野球を始めて、5年生で四番・捕手となって秋の東北大会準優勝。学童野球では規格外の特大アーチや場外弾も放つ
「3年生までは特に何もせず、学校から帰ったら友達と普通に遊んでました」
そんな菊地が野球をしている父親に感化され、チームに入ってきた当時を指揮官はよく覚えている。「野球を知らないし、何もできなかったですね、最初は。左利きなのに右投げ右打ちで、あまりにもぎこちないので、彼の父親にも『本当にいいの?』と何度も確認しました」(佐藤監督)
本人によると、右投右打は特にこだわりがあったわけではなく、自然な成り行きだという。レアな4年生。その後の成長ぶりは目を見張るものがあった、とも指揮官は語る。
「吸収が早くて、野球に染まるのも早かったですね。性格が真面目で、他の子が遊んでしまうようなときでも黙々とやるタイプ。5年生でキャッチャーをやらせたときも、時間がかかるかなと思ったけど、すぐに試合でも守れるように…」
バントもする“岡本二世”
週末は試合が中心で、平日の火・水・金は夕方にチーム練習がある。菊地の二塁送球は、今では1度見せただけで十分に敵走者の抑止力になる。地肩の強さは天性もあるかもしれないが、捕球から送球までの素早い握り替えや確実なステップ動作には、徹底的に反復してきた跡がうかがえる。
活発な上位打線にあっても群を抜く飛距離。その打球の速さや高さに大人たちが呆気にとられることも
昨秋の東北準Vの打線である。シャープなスイングの左の好打者が並ぶ上位の中で、四番を張る菊地はまた異色だ。右打席から左方向へ、とんでもなく遠いところまで打球を飛ばすのだ。結果は外野フライでも、舞い上がる白球の高さが小学生の域を完全に超えていたりする。
「夢はプロ野球選手です。巨人の岡本和真選手が好きです」
憧れが同じ右の大砲というのは、誰もが納得するところだろう。ただし、状況と狙いによっては例外なく、菊地も犠牲バントをする。同級生に大きく遅れて野球を始めてからも、実力で不動の四番打者となっても、特別扱いは一切なし。指導歴12年の佐藤監督は、そのあたりも決してブレないのだ。
「菊地は馬力だけではなく、打球を遠くに飛ばす能力というのは、私がこれまでに見てきた中でも1番、2番ですね。でもまだ、打撃に関しても物足りない。とらえる確率を上げていかないと…」
佐藤監督は前身の原町ジュニア・メッツ時代にコーチで、3年前の合併から指揮官に。辛口は前途のある選手たちへの期待の裏返しでもある
あくまでも辛口の指揮官から100点満点をもらえるのは、全員で目標を達成したときなのかもしれない。菊地は語る。
「夏の全国大会に出るのがみんなの目標です。そのためには、みんながチームプレーを大切にして、打線では次につなげることだと思います。僕はそれとホームランとかで、みんなを助けられる選手になりたいです」
相双地区でチーム合併から3年。昨秋の福島王者が、今夏の全国に名乗りを上げるか。全日本学童の最終予選となる県大会は6月3日から始まる。
(大久保克哉)