【2023注目の逸材】
石井心結
いしい・みゆう
【所属】東京・カバラホークス
【学年】4年
【ポジション】すべて(主に遊撃手・投手)
【主な打順】二番
【投打】右投右打
【身長体重】135㎝30㎏
【好きなプロ野球選手】今宮健太(ソフトバンク)
※2023年3月26日現在
陽光を跳ね返すサングラスがなじんでいた。クリアな視界にフィールドの仲間をとらえつつ、次の展開や打球を描いて指示を送る。投手がモーションに入ると動き出せる体勢をとり、打者のスイングに合わせて必ず軽く反応する。
一塁を守れば、右足の触塁まで基本どおりで、味方からの難しい送球もグラブに収めるか、体で止めるか。遊撃を守れば、声掛けの範囲と頻度はさらに増し、強い当たりも吸い込むような捕球からステップを踏んで一塁へダイレクトで投げる。
「守るのはどのポジションもできますけど、自分でやりたいと思っているのはピッチャーとキャッチャーです」
新4年生にして全ポジションをそつなくこなせる。視野が広く、仲間に掛ける言葉も適格だ
3年生にしてオールラウンダーの34番(2022年度)。チームでは無二の背番号を全員で共有しており、石井心結は「10」ではないが、低学年チームのキャプテンだ。昨年は1学年上の世代に混じって東京23区大会でもプレー。知識と基礎技術も群を抜いており、チーム事情や対戦相手や状況などによってポジションが変わる。どこを守ってもベンチの信頼を損なうことがなく、仲間には頼もしいリーダーであり続ける。
「いつも意識しているのはチームをまとめることで、試合中はチームが勝つことを考えて動いています。野球で一番好きなのはバッティングです。センター返しを意識しています」
不動の二番打者は打席に入る前から、ベンチのサインも指示もお見通しの様子
二番打者として送るべき場面では確実に送り、出るべき場面ではストライクを初球からいく。一塁に出れば二盗は朝めし前という感じで、相手のスキを逃さず進むので得点率も異常に高い。そしてベンチに戻れば誰に指示されるでもなく、打ち終わりやネスクトの打者にアドバイスをしたり、鼓舞したり。
野球が楽しくて楽しくて、好きで好きでたまらない。1試合を見ただけでも、そんな思いの丈が伝わってくる。7つ上の兄と5つ上の姉をもつ3兄妹の末っ子で、父・弘さんは背番号29のコーチ。もの心ついたときから、兄とのキャッチボールや練習の手伝いが遊びであり、石井家は「野球」でより深く結びついている。
しかし、姉はチームに属していないように、すべては本人次第。野球も練習も親からの強制では決してない、と母・園江さんは語る。「心結(みゆう)も、幼いころからボールを投げて遊んではいましたけど、そんなに野球に興味がある感じでもなくて、チームに入るとは思っていませんでしたね」。
すべて自分の意志で
一気にハマったのは小1の12月だ。友人に誘われて兄が所属したカバラホークスの体験会へ。帰宅するなり「楽しかった!」と漏らした次女の“申し子”的な野球生活が、その日から始まった。
チーム練習は週末と祝日で、低学年は半日のみ。石井は平日でも「ボールやバットに触らない日はないですね」と母が語るように、ネットを張った自宅の駐車場で羽根打ち、近所の空き地でピッチングなど自主練習に励む。兄が高校球児となってからは生活サイクルが異なるため、父と朝練習をしているという。
「朝は寒いので体を温めてから、キャッチボール、ゴロ捕り、羽根打ちが基本の流れ。親から見ても野球への思いが純粋な子ですし、チームでも自主練でも主体的にやるタイプですね」(父・弘さん)
踏み出すまでのタメを効かせたスイングで、白球を素直に弾き返す。写真はジュニアスマイルカップでの中越え二塁打(2月12日、日の出緑地グラウンド)
投打で際立つのは、クセのない手本のようなフォーム。それらも、野球LOVEを努力に変えて獲得してきたものであることは言うまでもない。
低学年チームは、3月のジュニアスマイルカップ(足立区大会)で優勝。昨秋の荒川竹の子育成大会は3回戦敗退も、その教訓から底上げができたという。
「東京23区大会と、ジュニアマック(都大会)に出て優勝することが今の目標です。夢は女子プロ野球選手になることです」
目標の2大会はいずれもチャンピオンシップで、出場するだけでも栄誉なこと。カバラホークスは過去に、23区大会制覇も全日本学童出場も果たしている名門だ。指導歴24年のベテラン、斎藤孝仁総監督も「こんなに野球好きな女子は初めて」と、石井には目を丸くする。
勝負は時の運でもある。この先には思わぬ苦難もあるかもしれない。だが、申し子ならぬ“申し娘”である限り、野球の神様と家族はどこまでも彼女を温かく見守ってくれることだろう。
(大久保克哉)