『全国予選に向けたガチンコ勝負』。東京、茨城、埼玉、千葉の28チームによる第11回フィールドフォーストーナメントは2月16日、埼玉・半田公園野球場で準決勝と決勝を行い閉幕した。最終日まで勝ち残った3強(1チーム棄権)のうち、豊上ジュニアーズ(千葉)と水戸レイズ(茨城)は、2022年夏の全国舞台ではともに猛打で躍進。この両軍による準決勝は思わぬワンサイドとなったものの、球春到来を前にして得るものも双方にあったようだ。
※学年未表記は新6年生
(取材&文=井口大也)
(写真=大久保克哉)
3位/水戸レイズ
[茨城・水戸市]
■準決勝
◇2月16日
豊上ジュニアーズ(千葉)
23008=13
00000=0
水戸レイズ(茨城)
※大会規定により、5回コールド
【豊】中尾、加藤、神林-神林、福井
【水】工藤、安田-小田嶋
二塁打/神林(豊)、小圷(水)
雪国を除けば、学童野球にオフシーズンはないと言われる。それでも2月時点の状態や仕上がり具合は、チームによって大きく異なる。
夏の全国8強メンバーが複数いる豊上ジュニアーズは、新人戦の千葉大会を制して11月の関東大会にも出場した。大目標の日本一へ向け、新年も関西遠征など、全国区の強豪チームとも数多く手合わせをしてきている。
一方の水戸レイズは、新人戦は茨城大会2回戦で上辺見ファイターズに惜敗。1月は例年通り、冬期トレーニングに励んだという。「今は結果を求める時期ではないので」と試合前に話した高木政彦監督(=上写真)は、こう続けた。
「1月中は素振りとかティー打撃、サーキット系のランメニューとか。ウチは例年、打力のチームなんですけど、2月に入ってボールを触り出したところで、イマイチまだ上がってきてない。例年に比べてピッチャーが良いので、この大会もここまで来られた感じですね」
そんな両軍の対決は、初回から大きく動いた。
先行の豊上が三番・神林駿采の中越え二塁打(=下写真)で先制し、なおも三盗とバッテリーミスで2点目を加える。そして先発左腕の中尾栄道は3者凡退で立ち上がり、試合の主導権をがっちりとつかんだ。
水戸のエース右腕・工藤耀汰(=上写真)は、上背を活かしたダイナミックなフォームから、力のあるボールを投じていた。2回は簡単に二死を奪ったが、そこから豊上がスキのない攻撃を展開する。
二死無走者から八番・村田遊我が内野安打で出ると、続く玉井蒼祐(新5年)の1球目で二盗に成功。すると豊上ベンチは、下級生に代わって左打ちの鈴木海晴を打席へ。
打者1巡目で、しかも1ストライクからという難しい打席だったが、新6年生は見事に起用に応えた。3球ファウルの後、鋭い当たりの遊撃強襲安打で3対0に。このとき、二塁から一気に生還した村田のベースランニングは、判断もライン取りも満点をあげたくなるものだった。
2回裏、豊上は二死無走者から3点を加えた。村田が内野安打と二盗(上)で口火を切り、代打・鈴木がタイムリー(下)でまず1点
ミスや四球でさらにピンチを広げる水戸に対して、豊上は神林の2本目のタイムリーで5対0と突き放す。続く四番・中尾が左打席から放った打球も、痛烈に一、二塁間を破ったが、これを水戸の右翼手・松本辰琉が冷静に処理して長い守りを終えた。
松本は5回にも右ゴロ刺殺。水戸はボールありの練習再開から2週間とあってか、守りのミスが相次いだ。エースはそれでも切れずに右腕を振り、松本のように随所で好プレーもあった。そして3回は無失点、4回の守りは二番手の安田颯真が3人で終わらせた。
水戸は終始劣勢の中で、光る守備も。写真上は三塁手の岡本晴琉。下は前年から唯一レギュラーで、ベンチの期待も大きい遊撃手の大森絢吾
対する豊上は、守備のほうも仕上がっていた。
2回から救援した新5年生・加藤豪篤は、ストライク先行の打たせて取る投球で、3イニング無失点でバトンをつないだ。4回には四番打者の鋭い打球を、遊撃手の後山晴(新5年)が確実にさばいてアウトに。明らかに捕れないようなファウルの打球でも、その都度、ベンチから声が挙がるなど、ワンプレーへの高い意識が感じられた。またどんなにリードを広げようとも、相手にもらったチャンスであろうとも、抜かりなく得点を重ねていくあたり、夏の大目標への本気度がうかがえた。
豊上は新5年生も存在感を発揮。写真上は好リリーフの加藤、下は堅守の遊撃手・後山
5回表、豊上は敵失に足技や小技を絡めての8得点で勝負あり。終始の盤石な試合運びで決勝進出を決めた。
「悔しいです!」と水戸のエース・工藤は試合後、涙を堪えきれず。打ち取った打球がアウトにならないことも多かったが、懸命に腕を振り続けて3回は無失点に。また打席では、誰より大きな気合いの声を発していた。「守備を鍛えてマクド(全国大会出場)を目増します」と、最後は前を向いた。
〇豊上ジュニアーズ・髙野範哉監督「最近はこぢんまりとしたスイングをしてしまっているので『振り切るまで走り出すな!』『2ストライクまでに勝負』と伝えていました。スタメンの3人と二番手投手の加藤も新5年生なので、楽しみです」
●水戸レイズ・高木政彦監督「ワンサイドだね。(先発の工藤は)打ち取った当たりも多くて可哀そうだったが、頑張って投げていた。左のあの子(豊上先発・中尾)は打てないよねぇ。遊撃手の大森は1年前からレギュラーなので、チームを鼓舞して引っ張っていってもらいたい」
―Pick Up Hero❶―
投打に“怪物級”片りん見え隠れ
なかお・はるみち
中尾栄道
[豊上新6年/投手・一塁手]
「左サイドから120㎞投げる小学生なんて、見たことないでしょ!? あの子にはその可能性もある。楽しみにしてるんですけどね」(髙野範哉監督)
昨秋から指揮官に期待されているのは、中尾栄道だ。ケガなどもあって関東新人戦では未登板だった“怪物級”が、いよいよ目覚めるか。今大会の注目の一人だった。
先発した準決勝では球威が際立った。球速は不明ながら、100㎞は確実に超えていたはず。また、一番の課題とされていた制球も安定していた。3者凡退で立ち上がると、2回から下級生にマウンドを譲った。
おそらくは、同日の続く決勝での登板を見越してのベンチワーク。わずか1イニングの登板で評価を下すのはナンセンスだが、本人にも光が見えたことだろう。
バットを持っても「片りん」を見せた。第2打席と第4打席でライトへ痛烈な打球。いずれも適切に処理されてヒットにはならずも、上級生(現6年生)の代から抜けていたスイング力は、使用バットのルール変更でも不変のようだ。
期待値も高いゆえ、歯に衣着せぬ指揮官の声も評価も手厳しい。まだまだ、ぜんぜん、こんなものではない――。中尾自身もきっと、そういう思いで牙を研いでいることだろう。
(大久保克哉)
―Pick Up Hero❷―
最終回に代打で意地のエンタイトル
こあくつ・あさと
小圷朝翔
[水戸5年/投手・一塁手]
点差が大きく開いて迎えた5回裏。コールド負け回避には、少なくとも4点が必要だった。守る相手は、自慢の強肩捕手がこの回からマウンドに上がり、投球練習で迫力のあるボールを投げていた。
けれども、先頭打者の代打で登場した背番号2は諦めていなかった。
「コールドにならないように、自分が打って点を返すという気持ちでした」
左打席の小圷朝翔がジャストミートした白球は、美しい放物線を描き、ワンバウンドで右翼70mの特設フェンスを越えていった。ややインコース寄りの決して甘くないスピードボールだったが、見事に反応してスイング一閃。意地を見せた。
「守備はチームで下から一番か二番目くらい」と語るが、キャッチボールではきれいな投げ方が目を引いていた。打撃には自信があり、普段からバッティングセンターで速球を打ち込んでいるという。その成果が、ここ一番で実った。
これを契機にスタメン争いも激化し、チーム力はどんどん上がってくるのだろう。