1会場(1面)で全試合を行う大会というのは、学童野球にはないのかもしれない。47都道府県の王者による「小学生の甲子園」こと、全日本学童マクドナルド・トーナメントも準々決勝までは数会場で一気に消化する。それゆえに、全試合・チームを1人でカバーできないのが取材記者の悩み。だが、フィールドフォースカップの第11回大会は従来と異なり、最終日の準決勝と決勝は同一のフィールドで順に行うことに。つまり、「悩みの種」も解消されることから、記者の心に最も訴えてきた選手を表彰する『学童野球メディア賞』を極秘裏に制定し、閉会式でサプライズ表彰した。初代の受賞者は、3位に入った水戸レイズの松本辰琉外野手(新6年)。副賞はモノではなく、この誌面となる。
(選出&写真&文=編集長/大久保克哉)
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まつもと・たつる
松本辰琉
[水戸レイズ新6年]
0対5で迎えた準決勝の5回表。守る水戸レイズにとっては、長くて苦しい時間が続いていた。連続四球にタイムリーで勢いづいた豊上ジュニアーズの打線は、止まる気配を見せようとしない。
マウンドの安田颯真は、セットポジションから懸命に右腕を振るも、野手のミスや野選なども相次いでしまう。ようやく1個目のアウト目を奪ったのが打者9人目で、すでに7点を失っていた。
こういう展開はプロ野球でも、なかなか収束しないことがある。それが小学生となれば、やられ放題の側は戦意もすっかり失せてしまうものだ。しかし、この新6年生は明らかにファイティングポーズを取り続けていた。
水戸レイズの背番号9、松本辰琉だ。
「まず1個、アウトを取ろう!」「ピッチャーが頑張ってるんだから、アウトを取ってあげよう!」
ライトから再三の前向きな声が、三塁側のベンチにまで響いてくる。また打球は飛んでこなくとも、一塁または二塁へのバックアップを怠らず、そのすべてが全力だ。このイニングだけでも、いったいどれだけのダッシュを繰り返したことか。
そして打者11人目で、この試合2個目となるライトゴロ(=下写真)を松本が決めたことで、レイズナインはようやくベンチに戻ることができた。
「まだ諦めないで、この回を抑えて次の回に打ったら勝てるかなと思っていました」
序盤2回で早くも5点ビハインド。だが松本はとにかく、その思いをフィールドでの具体的な言動で示し続けていた。
「自分で言っちゃったらダメだけど、たぶん声がボクの持ち味だと思います」
根気は世代でもトップクラス。いや、大人でも根負けする人は多いだろう。「体は小さいけど、真面目でよく頑張る子」と、髙木政彦監督も手放しで評価する。非凡な身体能力もうかがえるのは、1年生までサッカーチームでプレーしてきたせいもあるのだろう。
松本は2人兄弟の長男。サッカーをやめて2年生から3年生の夏までは、父とキャッチボールをしていたという。そして全国出場実績もある水戸レイズに入ったのが3年生の9月。
「チームに入って2ヵ月くらいしたころ、自分が声を出すとみんなが盛り上がるというのが分かってから、どんどん自分から声を出すようになりました」
ダイナミックなフォームとシャープなスイングはいかにも、打力が伝統のチームの六番打者
中学年から野球を始めたとは思えないほど、キャッチボールの軸足の置き方からして基本に忠実。外野守備でのバックアップやカバーリングは「指示待ち」ではないからこそ、機に応じて動けるのだろう。
六番打者としては、準決勝では中飛と三ゴロで2打数無安打。でも、そういう目先の結果だけでは決して測れない存在感と貢献度に、核となるパーソナリティまでを見て取ることができた。
決勝戦後の閉会式。事前の告知もなかった『学童野球メディア賞』の発表で、唐突に名前を呼ばれると、全員の前に出てきて穏やかに公開インタビューに応じた。そして最後に、目標をこう語っている。
「これからの試合は、大差で全部勝てるように頑張りたいです!」
大敗を喫したレイズだが、小学生の野球チームとして方向性は間違っていない。仲間のいる列へと戻っていく背番号9が、それを物語っていた気がする。