初出場でしぶとく勝ち抜いている八日市場中央スポーツ少年団(千葉)に対して、出場4回目の不動パイレーツ(東京第2)は2019年の最高成績に並ぶ4強入り。準決勝の第1試合は、展開と勝敗がミスマッチという興味深いものとなり、敗軍にも特筆するべきものがありました。
(写真=福地和男)
(文=大久保克哉)
■準決勝/大田第1試合
[千葉]初出場
八日市場中央スポーツ少年団
000000=0
10102 X=4
不動パイレーツ
[東京]2年ぶり4回目
【八】富永、石井-伊藤
【不】阿部-小原
本塁打/小原(不)=大会3号
1回裏、不動は先頭の岩崎がフルカウントから左前打(上)。続く村上が中越えの二塁打(下)で先制
あと1球で敗北という土壇場で、富永孝太郎主将が逆転サヨナラ2ラン――。劇的な勝利で準決勝に進んだ八日市場は前日と同様、のっけから耐える時間が続いていた。
1回に先制され、3回に中押しされて0対2。それでも「ウチの展開でしたよね」と、宇野貴雄監督は試合後に語っている。「格上のチームに対しては、少ない点差でガマンしてガマンして、というのがウチの形ですから」
辛抱した先にチャンスが訪れ、それをものにして勝ってきたのだ。選手たちも根比べには自信があったことだろう。しかし、戦うたびに成長を感じさせる不動はどこまでも巧みで、流れを手放すことがなかった。
2回表、八日市場の七番・田中功明が右前へきれいに流し打つ(上)も、捕球した右翼手・平石が即座の一塁好送球でアウトに(下)
先発した背番号2の右腕、阿部成真が1回表を無失点で立ち上がるとその裏、あっという間に先制する。一番・岩崎貴彦が左前打から二盗を決めると、二番・村上陽音が中越えの適時二塁打。
さらに2回表の守備では平石琢音がライトゴロを決め、3回裏には三番・小原快斗が大会3本目となるサク越えソロでリードを2点に広げた。
2回裏、八日市場の中堅手・石毛大雅(4年)が大飛球を好捕(上)。不動は二死から岸樹吹が左二塁打(下)で流れを渡さない
八日市場は4回表、先頭の富永が左中間へ矢のような打球を放って悠々と二塁に達したが、後続が続かず。逆に5回裏の守りで珍しくミスも出て、二死二、三塁のピンチを招いてしまう。
宇野監督はすかさずタイムを取って内野陣をマウンドに集めた。ここを切り抜ければ逆転できる、というニュアンスの話もあったことだろう。
しかし、前打席でソロアーチの不動・小原のバットが、目論みを阻んだ。「昨日(準々決勝)はちょっと力み過ぎていたので、今日はリラックスして打席に」。外角高めの球を逆方向へ軽打し、走者2人を迎え入れて4対0とダメを押したのだった。
3回裏、不動の三番・小原が左へソロ本塁打
それでも6回表、八日市場は九番・椎名航平(5年)が左前打で出る。この最終回の入りは前日とまったく同じだったが、続く打者で不動は6-4-3の併殺を決めてみせる。
そして先発の阿部が結局、69球で無四球の2安打完封というミラクル投球で勝利し、銀メダル以上を確定させた。
2点リードの不動は5回裏、平石の内野安打から好機を広げる。八日市場は一呼吸入れるも(上)、不動・小原の適時打で4対0に(下)
〇永井丈史監督「見ての通り、ウチには大きい子もいない中で、みんなが役割を果たしてくれました。阿部は冷静にバッターも見て投げられるところが素晴らしいところ。ピッチャーは永井と阿部の2枚でいろんなことをしながら、ここまで抑えてきてくれている。試合後のアイシングとかスタッフ、保護者のサポートもあっての結果です」
不動の阿部は2安打無四球の完封勝利。「今日は調子も制球力もみんな良かったです」(上)。6回無死一塁のピンチは6-4-3の併殺に(下)
―GOOD LOSER ―
若い9人で全5試合。
貫いた「普段着」野球
[千葉]
八日市場中央スポーツ少年団
【戦いの軌跡】
1回戦〇5対3大田(島根)
2回戦〇1対0船橋(東京)
3回戦〇6対3藍住南(徳島)
準々決〇2対1波佐見(長崎)
準決勝●0対4不動(東京)
就任11年目の宇野貴雄監督。実戦でパフォーマンスを引き出す手法にも、より確信が持てたことだろう
「あと一本、あと一歩というところが今日はできませんでしたけど、もう子どもたちを褒める以外は何もないです。ホントによく頑張った、素晴らしい夏になりました」
柔和な表情で語った宇野貴雄監督だけではない。涙のなかった選手たちからも、同様の心の内が透けて見える気がした。真っ先に称えられるべきは、1回戦から準決勝まで全5試合を交代なしで、戦い抜いた9人の精鋭たちだ。
それも6年生は5人だけで、あとは4年生と5年生が2人ずつ。「負けて満足というのもアレですけど、小さい4年生5年生たちが普通に試合に出て、粘って塁に出たり、相手のチャンスの芽をつぶす守備があったり。暑さの中の連戦で心配もしましたけど、ケガ人も脱落者もなくやれたというのは、やっぱり満足ですね」(同監督)
準決勝の4回表、あっという間に左中間フェンスに達する二塁打を放った富永
勝負強さは予選の千葉大会から際立っていたが、真夏の5連戦でもパフォーマンスが目に見えて落ちることがなく、準々決勝まではのるかそるかの戦いを制してきた。4強入りを決める一発を含め、3本のサク越え本塁打を放った富永孝太郎主将でも、ここまでの躍進は予想できなかったという。
「新チームから全国大会を目指して頑張ってきましたけど、ここまで来るとは…みんなが最後まで諦めずに全力で戦った結果の銅メダルだと思います」
宇井は遊撃でも三塁でも変わらぬ堅守を誇った
ほかの6年生たちもそれぞれに機能し、地味ながら勝利に貢献した。1回戦は3対3の同点に追いつかれた後の4回に一番・宇井貴浩が勝ち越しの決勝三塁打。三塁手の石井陽向は、救援登板から正捕手の伊藤瑠生とともに逃げ切りパターンをつくり、右翼手の田中功明は無失策の安定した守備で若い外野陣をリードした。
大会中もほぼ毎日、千葉県北東部の匝瑳市から通ったが、2回戦に勝った夜は都内に宿をとった。6年生の代はコロナ禍があって夏の合宿も未経験、全員での宿泊は初めてだったという。「夜はみんなで美味しいものを食べて、部屋ではみんなでワイワイしていました。全国大会は相手の粘りもすごかったけど、試合も楽しかったです」と、伊藤はやや名残惜しそうだった。
銅メダルの要因
同一の9人のやりくりだけで、全国でも4つ勝って堂々の3位。その要因は複数あるだろう。指導者も選手も「練習は厳しい」と口をそろえる一方で、予選を含む大会にあっては主体性が選手たちの手にあった点が見逃せない。
「全国大会では試合中は私の声もなかなか通らないし、フォーメーションの指示はしますけど、あとは自分たちで考えてやるしかない」
準々決勝も準決勝(写真)も、最終回の先頭打者で安打を放った5年生の椎名航
指揮官は勝ち進む中でこう語っていたが、自立を象徴していたのが5年生の九番打者・椎名航平だった。準々決勝は1点を追う最終回に先頭で打席に入ると、いちいちベンチを振り向くこともなく、逆転サヨナラにつながる二塁打を放った。「監督からの指示は特にありませんでした。もう打つだけの場面なので、絶対に打ってやろうと思って打席に入りました」(椎名航)
そして無死二塁で打席に入った一番・宇井もまた、指示を仰ぐまでもなく己の役割に集中していた。結果は捕邪飛も、打席で実に8球を稼いだことにより、無失点中だった相手先発(波佐見・下園蒼治朗)が規定の70球を超えて降板。直後に富永のサヨナラ弾が飛び出している。
「選手が自分たちから野球に取り組む姿勢というものを、コーチたちが一生懸命に教えてくれていますし、全国という最高の舞台でそういう部分が出たこともうれしく思います」
送球も安定していた5年生の二塁手・椎名大和。新チームのエース候補か
創立21年目にして初の夢舞台は、開会式から6日間続いた。終えたばかりだが、コーチから転じて11年目の指揮官にあえて聞いてみた。
「また全国に! という思いは?」
すると「もちろん!」と即答した宇野監督はこう続けた。
「5年生以下の子たちも、全国ではこんな経験をしてこんな思いもできるんだ、というのは私たち指導者が言わなくても自分たちで分かったと思いますので。そのためにきっとまた努力をしてくれるでしょうし、私はそれをサポートしていきたいなと思います。またここに戻ってこられるように」
2023年の夏、全国に鮮烈なインパクトを残した八日市場。栄光の歴史は、まだこれから始まるのかもしれない。
(※関連記事「チーム紹介」→こちら)