【2023注目の逸材】
柴坂奏斗
しばさか・かなと
※投打の動画→こちら
【所属】大阪・山田西リトルウルフ
【学年】4年
【ポジション】投手、遊撃手
【主な打順】一番、三番、四番
【投打】右投左打
【身長体重】146㎝34㎏
【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス)
※2023年4月30日現在
まず、目につくのは6年生のような高身長と均整なフォーム。週2日は野球教室で投打のメカニクスも学んでいるという
数え年でようやく10歳。そんな少年少女をつかまえて「天才」だの「大器」だのと触れ回るのは、いかにも気が早いのかもしれない。身のこなしの巧みさなど、神経系や身体能力の絶対値もまだまだ上がる最中だ。
分かってはいても、見過ごせない4年生が大阪にいる。柴坂奏斗。全国に名立たるマンモス軍、山田西リトルウルフでプレーする二刀流の“金の卵”は、キャリア14年の指揮官をもうならせる。
「奏斗はホンマに純粋で、野球が大好きなんやというのもよう分かる。将来はいったい…。今までにないくらいの楽しみな感じがありますね」
4・5年生チームを受け持つ中濱賢明監督は、この春に進級した4年生たちを直に指導してまだ3カ月あまり。それでも柴坂には内心、期待や希望がどんどんふくらんでくるという。
4年生になったばかりでMAX93km/h。マウンドでは一人相撲もたっぷり経験してきた上で、徐々にゲームメークもできるエースへと成長中
すでに146㎝と、恵まれた体格を持て余していない。駆け足は学校でも学年トップだ。フィールドでは打っても投げても守っても際立つ。だからといって王様気取りもなく、一心不乱にプレーする様がただただ微笑ましい。会心の一打の後には拳を突き上げる。白い八重歯ものぞくスマイルは、見守る大人たちの清涼剤だ。加えて中濱監督が驚かされるのは、スポンジが水を吸うような理解力と対応能力だという。
「以前は力んで四球連発が多かったそうです。私が見ても目一杯で、あとはボールに聞いてくれ! みたいな感じなので70~80%で投げても大丈夫な状況や場面もあることを教えました。バットは大人用のレガシー(複合型バット)を目一杯に長く持っていて、長打もあるけど差し込まれがちやったので『ひと握り余して握っても何もカッコ悪いことない。日本一のチームもそれでホームランを打っとるんよ』と」
柴坂はその後、確実にゲームをつくるエース格へと成長しつつある。かつてはイニングに平均20球を要していたのが、最近は半数近くに。打撃では逆方向への長打も高い確率で生まれているという。
落ち着いて柔らかい物腰が、試合中はご覧の勝ち気や笑顔に
4兄弟姉妹の末っ子
父は身長186㎝の元球児で、母は169㎝の元バレーボール選手。中3の長姉は大阪選抜でプレーするほどの野球の腕前で、中2の兄も軟式野球部で今まさに伸び盛り。この2人に父はスパルタ的な指導を施したせいか、小5の姉は野球にはノータッチだという。
そんな4兄弟姉妹の末っ子、次男坊の奏斗は2年生の夏、迷わずに山田西の門を叩いた。兄も姉もプレーしていたこのチームに幼少時から帯同し、みんなに可愛がられてきたからだ。父・祥吾さんは受け身のサポートに徹しているという。
「上の子たちにやり過ぎたという反省もありまして。奏斗とは2歳くらいからボール遊びをしてきて、今は93㎞をほうってます。要因? 体幹がすごく強いのはあると思います」
一般用のレガシーで右方向へ強烈な打球を放つ。最近は中濱監督の助言から少し余した握りとなり、左中間への長打も明らかに増えているという
頭の回転も早い。どういう質問にも間髪を入れずに答えを返してくる。
「好きな選手は? 大谷翔平です」
「どんなところが? ホームランを打つところと球が速いところ」
「将来はああいう選手に? はい、メジャーリーガーになりたいです」
だがそこはまだ4年生。慣れない取材に緊張もやはりあったようだ。
「野球の何が楽しい? バッティングでホームランを打ったときと、ショートの守備でファインプレーをしたときと、ピッチャーで三振を取ったときと、ノーヒットノーランをしたときと…」
「エッ、もうノーヒットノーランも経験済? いえ、それはまだです」
そういう快挙を達成したら、さぞ喜びも大きいだろうなという意味だった。実際、それも時間の問題かもしれない。
チーム練習のない平日のうち、水曜と木曜は野球教室に通う。ほかの曜日も素振りを欠かさず、父、姉、兄のいずれかを相手にピッチングもしているという。
マウンドに立たないときには遊撃を守り、当たり前のように内外野に声を掛ける
「野球選手として自分の良いところ? 球が速いところとスローボールも投げることと、バッティングの飛距離です」
監督が助ける主将
オリックスのT-岡田も巣立った山田西は、昭和の時代から続く大所帯だ。現4年生だけで27人もいる。この学年のこの時期特有のキャラクターや言動も熟知する指揮官は、あえて2月から主将を持ち回りにしてきた。
「すぐにごちゃごちゃして言うこともよう聞かん。その中でキャプテンの仕事はこんなんで大変なんやで、というのを本人たちに体験してもらうのが一番」
そういう段階も経て、このGWに中濱監督が正式に主将を指名。背番号10を託された柴坂は「うれしかったです」と素直に語る。そしてその理由をまた迷わずに口にした。
「このチームを全国大会で優勝させたいからです」
中濱監督が初めて率いた大会、3月末からの多賀グリーンカップは4位。北海道選抜との2回戦は緊迫した好ゲームとなり、柴坂はロング救援で2対0の勝利に寄与
早速、思うように動かない集団に「はよ、せえよ!」と主将が声を荒げると、指揮官は全員を集めてこのように説いたという。
「せっかく好きな野球をしに来とるのに、みんなでダラダラしとったら、一人ひとりが打てる時間も短こうなる。ノックだって受けられる本数を損しとるのと違うか?」
こうした徳育も地道に重ねる指揮官の下である。“金の卵”もやがて、無事に孵ることになるだろう。
「キャプテンらしくない! と叱る指導者もいてますけど、キャプテンを救うのは監督やと僕は思うてます」
そんな指揮官を選手たちは「オッちゃん」と慕う。もちろん柴坂も。
「野球もオッちゃんも大好きです!」
(大久保克哉)