高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童)の開幕まで、あと2日。特ダネの第6弾は、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会を含む2大大会の過去の上位進出組のうち、7チームに焦点を当てて展望します。
(写真&文=大久保克哉)
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※背景黄色=第1集団(特ダネ➍参照)、背景紫=第2集団
今夏こそ白黒はっきり
特ダネ第4弾でお伝えした、過去の日本一6チームを先頭集団とするなら、追走する第2集団はどういう顔ぶれになるだろうか――。
そういう視点に立って、全国ベスト8以上の実績がある中から、編集部の独断で7チームをピックアップさせていただいた。今大会で初戴冠しても何ら不思議はない、実力派ばかり。
中でも、「前例にない思い」で開会式の神宮球場に戻ってくるのは、福井代表の越前ニューヒーローズだ。2大会を通じて初めての全国で8強入りした昨夏のミラクルと悲劇は、既報の通り(チーム紹介→こちら)。
えちぜん越前ニューヒーローズ
[福井/2018年創立]
出場=2年連続2回目
最高成績=ベスト8/2022年※初出場
【全国スポ少交流】
出場=なし
昨夏は準々決勝を戦わずして無念の帰郷。卒団した2人(中1)の分も背負って、2年連続の全日本学童出場を決めた
「(コロナ感染で途中棄権した)去年の分も勝ち負けをハッキリつけんと。2年連続の全国で期待される部分もあるし、去年以上の成績をという思いもあります。私の仕事は、自分らの力を全部出させるように持っていくこと」と田中智行監督。
メンバーは昨年と同じく15人で、正捕手の山本颯真主将に中橋開地と米津翔夢の左右大砲と、看板役者がそろう。この1年は県外の全国区の強豪とも数多く手合わせしており、昨夏Vの中条ブルーインパルス(石川)にも打ち勝ったという。
「ありがたいことに、去年の大会前も中条さん多賀(少年野球クラブ・滋賀)さんとやらせていただいたり。でも、今年は組み合わせが…」(同監督)
1回戦で勝利した場合に待ち受ける相手が中条に。実は組み合わせが決まった7月19日の4日後に、両チームで壮行試合を予定していたが、さすがにキャンセルで合意したという。
「子どもらは2回戦を楽しみにしているようです。中条さんがいかに強いか、分かっているので。私も楽しみは楽しみですけど、まずは1回戦。しっかりと大会に入っていきたいと思います」
ベンチでは静観が基本の指揮官は、いつでも広い視野をもって物事を判断されるようだ。戦わずして夢舞台を去った昨夏を思えば、いかなる強敵も怖くあるまい。2回戦突破となれば、そのまま駆け上がるかもしれない。
複雑な境地から1年
三重代表の揥水少年野球団は、2大会をまたいだ「2年連続出場」となる。昨夏は全国スポ少交流で4強入り。
こちらも1年前は複雑な境地にあった。小針ヤンキーズ(埼玉)との準々決勝はゲリラ豪雨により、3回途中で順延に。揥水は0対6とリードされていたが、翌日は相手にコロナ感染者が出たことで不戦勝となった。
ていすい揥水野球少年団
[三重/2007年創立]
出場=7年ぶり2回目
最高成績=ベスト8/2016年※初出場
【全国スポ少交流】
出場=1回
最高成績=ベスト4/2022年
昨夏の全国1回戦でサヨナラ打を放った恩田陽向ら、当時5年生だった4人がチームの中心に
勝てば「同時優勝」となる全国スポ少交流の最終日。準決勝を前に、澤聡監督は小針ナインの失意も心に留めていた。優勝した際の胴上げを戦前にリクエストしたところ、「戦えずに帰られたチームもありますので」と、やんわり固辞。
指揮官のそういう深慮や謙虚さが選手の心も育み、しぶとくて賢い野球にもつながっているのだろう。昨夏もそうだったが、全日本学童初出場で8強入りした2016年も、小所帯で小粒ながら勝負強さが際立った。
今年は6年生が6人で、5年生が5人。二遊間は4年生だが、正捕手の藤田颯希ら4人が昨夏も全国を経験しているのが心強い。2日連続のダブルヘッダーで代表を決する三重予選4試合を、すべて1点差でものにしてきたあたりも「らしさ」だろう。
「4枚の投手を中心に、守りからつくっていくチームですね。全国出場を目標にしてきた子どもたちが、次はベスト8以上という目標を立てましたので、100%の力が出せるように持っていきたいと思います」(澤監督)
ベンチの選手たちの懸命かつ献身的な姿もまた、見られることだろう。
自ずとアレに招かれる!?
組織と運営や指導陣の人としてのあり方。このあたりも模範と言えば、北名古屋ドリームス(愛知)だ。「チームファイル04」で詳報(→こちら)しているので割愛するが、約10年前に大改革を断行した岡秀信監督の理論と実践は非の打ちどころがない。
きたなごや北名古屋ドリームス
[愛知/2006年創立]
出場=2年ぶり5回目
最高成績=準優勝/2021年
初出場=2017年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=2回
最高成績=べスト8/2009年
高学年の活動も週末と祝祭日のみで、定時にきっちりと終了。北名古屋の練習は、指導陣の自己満足のためではない
東京五輪により、新潟開催となった2021年には全国舞台でも突出した打撃で銀メダルに。すぐそこにある「日本一」だが、指揮官の口からそのような単語や野望を聞いた人はチーム内でも皆無だという。
今年は2年前ほどのパンチ力はないものの、攻守のバランスがいい。選手たちで決めた目標は「決勝という大舞台まで行くこと」(境翔太主将)。1回戦のナイター(第4試合)が決まると、岡監督はすぐさま手を打って週末にナイトゲームを体験したという。
「夏は暑さに雨もあったりで体調を崩しやすいので、どれだけふだん通りにやれるかが大切だと思います。そういう前提をクリアできれば、あとは相手もいっしょの条件ですから、勝ち負けはウチの実力になってくる」(同監督)
あらゆる大会に出まくって、優勝旗のコレクションで悦に入るような組織ではない。年間最大の山場へ、じっくりと練習と調整を重ねてきた北名古屋が、いよいよピークの1週間を迎える。
勢いと貯金に地の利
「連続出場」の勢いと貯金が目立つのは、東京王者のレッドサンズだ。こちらは3年連続の出場で、投打二刀流の“未来モンスター”藤森一生は4年時に全国デビュー。率いる門田憲治監督は過去最高となる8強入りした昨年に続くさい配となる。
レッドサンズ
[東京第1/1975年創立]
出場=3年連続4回目
最高成績=ベスト8/2022年
初出場=2010年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=なし
全国大会を見越した選手起用と戦いで都知事杯も優勝。満を持して、最高峰踏破へ
既報の通り、今年は6月の全国予選決勝から1カ月の間に東京二冠を達成(→こちら)。
「大エース一枚では全国を勝ち切れない。仮に6日連続(1回戦から決勝まで)で試合ができたとしても、全部を藤森一でいくのは現実的ではないと思います」
こう語った門田監督は、都知事杯では底上げとテストを試みた。6年生12人の中に5年生も投入して競争を促しつつ、スタメンの顔ぶれも守る布陣も弾力的に。
結果、勝ち続けながら投手は北川瑞季(大会MVP)、野手では5年生の大熊一煕らが台頭と、最高の形に。正捕手の増田球太と内野手の齊藤蒼人も実戦登板があり、負担大の捕手も2人体制に目途が立っている。
「増田は全国予選(準決勝)で船橋フェニックス(開催地代表)に完投勝ちしてから、一気に成長しました。全国はまず初戦、あとは一戦一戦ですけど、去年の記録は絶対に超えたい」(同監督)
昨年の経験と層の厚さに加え、開催地という地の利もある。東京勢初のファイナリスト、いや、金メダルだって十分に想定内だろう。
4年前の4強越えへ
都大会決勝で、レッドサンズを前に連敗して無冠の不動パイレーツだが、東京第2代表のこちらにも地の利と層の厚みがある。6年生9人に5年生11人は、今のご時世では恵まれているほうだろう。安定した守備が、粘り強さを引き出しているように見受けられる。
ふどう不動パイレーツ
[東京第2/1976年創立]
出場=2年ぶり4回目
最高成績=ベスト4/2019年
初出場=2016年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=なし
低学年から1年ずつ繰り上がってきた指揮官と選手が、集大成の夏を迎える
エースの永井大貴主将と阿部成真の右腕2枚は持ち味が異なり、継投で勝ち切るパターンがある。都知事杯では、遊撃手の小原快斗がマスクをかぶるなど複数の陣容を試すこともできた上に、5年生唯一のレギュラーにしてチームの本塁打王・難波壱も貴重な経験を積んだ。
「全国でも戦える自信が持てました」と永井丈史監督。息子でもある永井主将は「全国では目標を高く、優勝です。いろんな良い選手がいると思うので、通用するようなピッチングをしたいです」と抱負を語った。
不動は2回目出場の2019年にベスト4まで進出。これはレッドサンズをも上回る東京勢最高の記録である。
2回戦で黄金カード!?
2019年夏。準決勝で不動パイレーツを7対3で下し、初めて決勝に駒を進めたのが、茨城代表の茎崎ファイターズだった。1998年の全国スポ少交流初出場を皮切りに全国大会の常連となり、2008年と11年は全日本学童4強。21世紀に入って、これほど安定した好成績を収めている関東のチームはほかにない。
くきざき茎崎ファイターズ
[茨城/1979年創立]
出場=2年ぶり10回目
最高成績=準優勝/2019年
初出場=2016年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=2回
最高成績=べスト8/2015年
親子でそれぞれの夢舞台へ。吉田監督(写真)の次男で卒団生でもある慶剛は、専大松戸(千葉)の四番・捕手で春に続く甲子園出場を決めている
輝かしいその歴史の大半を築いてきたのは、キャリア24年の吉田祐司監督。「今年のチームは力がない」と繰り返しながらも、果てしなく1点を積み重ねるスモールベースボールで、2年ぶり10回目の全日本学童出場を決めてみせた。最上級生の数や個々の能力では劣ろうとも、やりようによっては勝利できるのだ。全国予選を通じて、野球という競技のひとつの醍醐味を具現した指揮官はこう結んでいる。
「全国に出るからには、最後の頂に子どもたちを導いてあげたいと思います」
今大会のV候補筆頭と目される新家スターズ(大阪)は、全国デビューした2017年は初戦敗退(2回戦)。壁となったのが茎崎で、特別延長の末に3対2で勝利。両軍のそれ以来となるリマッチが、今大会の2回戦で実現する可能性がある。
恩師に最高の花道を
2回戦で待ち受ける茎崎より早く、1回戦で新家と相対するチームも侮れない。石川代表の館野学童野球クラブだ。全日本学童はこれが初出場も、2016年の全国スポ少交流で初出場準優勝の実績がある。その銀メダルを就任1年目で首にかけた山本義明監督が、当時このようなコメントを残している。
「育成指導は指導陣で意見を出し合って、任せるところは任せる。公式戦ではいちいちミスを怒らない」
たちの館野学童野球クラブ
[石川/1984年創立]
出場=初
【全国スポ少交流】
出場=1回
最高成績=準優勝/2016年
威嚇や罵声の類いとは無縁の山本監督(中央)。2016年の全国スポ少交流では1回戦から決勝の7回まで無失点も、特別延長で敗北。優勝した多賀・辻監督(左)と試合後は談笑
全国舞台に戻るまでに7年の歳月を要したが、選手の成長を促しながらパフォーマンスを引き出す術は、さらに磨かれているようだ。「守備力は7年前より上ですね」と山本監督。進境著しいのはマドンナ左腕の山本愛葉で、要所で三振も奪えるようになってきている。決勝も先発してゲームをつくり、1対0の勝利に大きく貢献した。
「みんなよく頑張った! 決勝でこんな試合はなかなかできないよ…」
ナインを称える指揮官の目からは涙がこぼれていた。夏の夢舞台にまた立てる喜びもある。それ以上に、惜別の念から我慢ができなかったという。
20年のコーチ歴もある山本監督は、実は2023年度をもって後進に道を譲ることをスタッフに告げていた。「チームが存続・繁栄していくには、世代交代も必要ですから」(同監督)。指導陣や一部の保護者は指揮官交代を知っていたが、選手たちは知らぬまま石川予選を戦った。そして全国出場を決めると、指揮官の口から「オレ(監督)は今季限りだよ」と唐突に告げられた。
「悲しかった!」とその瞬間を振り返った山本らは、平日は20時近くまで合同の自主練習に励んでいるという。全国制覇という目標に、輪をかけた思いがある。
「お世話になってきた山本監督に、みんなで全国でも勝利をプレゼントしたいと思います」(山本)
強敵打破へ燃え盛る炎というより、恩人に捧ぐ美しい無数のキャンドルの火。それが夏の東京に大輪の花火を打ち上げることになるのかもしれない。