2023注目戦士

ガールズ日本一の要。背番号10の“打てる捕手”

ガールズ日本一の要。背番号10の“打てる捕手”

2023.12.28

【2023注目の逸材】 ただいで・みえな 多田出 美瑛奈 ※プレー動画➡こちら 【所属】栃木スーパーガールズ/栃木・白沢学童野球クラブ 【学年】6年 【ポジション】捕手兼投手兼三塁手 【主な打順】一番、三番 【投打】右投左打 【身長体重】150㎝40㎏ 【好きなプロ野球選手】千賀滉大(メッツ)、甲斐拓也(ソフトバンク) ※2023年12月27日現在 「勉強のし過ぎ?」という問いに、はにかむような笑みで多田出美瑛奈は答えた。 「いえ、マンガを読み過ぎました」  視力が落ちて5年生からかけ始めたというメガネ。その奥の瞳は清澄でやさしくて、話す相手をどこか安心させるところもある。  宇都宮市の自宅には『ダイヤのエース』『ワンピース』『スラムダンク』など、マンガの単行本が山ほど。もともとの持ち主は3つ上の兄で、地元の白沢学童野球クラブで野球を始めたのも、そこで投手をしていた兄の影響からだという。 「1年生の4月に『野球をやってみたい』とお母さんに言ったんですけど、実際にチームに入ったのは12月です」  およそ半年は、いわば待期期間だった。女の子だし、他にも興味や何かきっかけが生まれるかもしれない、という母の親心も今なら察することができる。1年坊だった多田出はそれでも、野球熱が冷めることはなかったという。  チームの活動は週末と火・木曜。それ以外の日は、兄と自主練習に励んできた。「キャッチボールとか、素振りとか。今はお父さんも教えてくれますけど、小さいころはお兄ちゃんとめちゃくちゃケンカしました(笑)。私を座らせて(捕手役)、思い切り投げてきたりするので…」  でも、その半ば強制的な捕手の体験も後に生きることになる。3年生から二塁手で試合に出始めた多田出は、5年生では三遊間のどちらかを守り、6年生からエース投手に。 「4年生で初めてランニングホームランを打ってから、ホームランは31本打っています。左中間への当たりが多いです」  これだけの逸材が、女子の県選抜チームに入れないわけがない。女子学童界では毎年夏に日本一を決めるNPBガールズトーナメントが開催されており、各都道府県から選抜チームが出場する。 夏以降も女子選抜で活動中  栃木スーパーガールズ(県選抜)は2021年に日本一となって以降、5月のセレクションは80人規模に。多田出は5年生(22年)でそこに加わって正二塁手となり、ガールズトーナメントは主に七番で全4試合に先発。9打数6安打3打点の活躍で、銅メダルに貢献した。  そして2年目の2023年は、背番号10の正捕手として、チームを2年ぶり2回目の日本一に導いた。...

二刀流モンスターへ!神宮で惜別の一発&最速115㎞

二刀流モンスターへ!神宮で惜別の一発&最速...

2023.12.20

【2023注目の逸材】 こやま・とあ 小山翔空  ※プレー動画➡こちら 【所属】長野・野沢浅間キングス 【学年】6年 【ポジション】投手兼遊撃手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】160㎝48㎏ 【好きなプロ野球選手】源田壮亮(西武)/山本由伸(前オリックス) ※2023年12月10日現在  結果として6年生たちの最後の試合となった、ポップアスリートカップの全国ファイナル準決勝。始まる直前に、スタンドとフィールドを分かつフェンス越しではあったものの、保護者と選手たちとで肩を組んで輪になるシーンが印象的だった(下写真)。  その中央で掛け声の音頭をとったのが、背番号10の小山翔空主将だった。  夏の伝統の全国大会。「小学生の甲子園」こと全日本学童大会マクドナルド・トーナメントで、小山は4年時から3年連続でプレーした。2021年は八番・右翼のレギュラーで、1回戦は2点三塁打など勝利に貢献。続く2回戦で敗退も、計5打数3安打の打率6割をマークしている。  野沢少年野球クラブで1年生から野球を始めるきっかけとなったのが、当時のエースで2つ上の兄・碧空(次男)だった。その兄が卒団した翌22年。5年生になった三男坊の小山は、三番・遊撃で夏の全国舞台に戻ってきた。1回戦で敗退も、3番手で全国のマウンドも経験している。 2023年12月9日、初めての神宮のマウンドで3回パーフェクト投球。自己最速も115㎞に更新した  そしてこの2023年。投打二刀流の大黒柱となって、全日本学童2回戦までチームを導いた。1回戦では好投手・高橋隼太(埼玉・泉ホワイトイーグルス)から先制三塁打を放つと、先発したマウンドでは111㎞をマークするなど4回無失点、1安打8奪三振の好投で初戦突破に貢献。打撃戦となった2回戦で敗れたものの、右中間に本塁打を放っている。 「6年間で一番の思い出は、やっぱり今年の夏の全国大会と今日(ポップ杯準決勝)です。夢はプロ野球選手。経験も生かして中学ではもっと良い選手になりたいです」 今夏の全国大会は全23人がベンチ入り(下)。野沢と浅間の各横断幕が並んだ(上)  自身3回目の夏の全国大会は、チームとしては初だった。5年間所属してきた野沢は、昨秋から浅間スポーツ少年団との合同練習を開始。そして新年度から野沢浅間キングスとなって再出発したばかり。浅間のほうも2006年の初出場(3回戦進出)を含めて、全日本学童大会に4回出場の実績がある。合併当初を主将はこう振り返る。 「11月あたりから一緒に練習を始めたんですけど、最初はみんな緊張していて声もぜんぜん出なくて。そこからだんだんとまとまってきて、声も出るように…」  活動は平日の火・木曜と週末の週4日。打ち解けるのが早い子どもに比べて、大人はなかなか難しい面もあるものだが、 野沢に続いて合併チームも率いることになった戸塚大介監督(下写真)は、さして大きな苦労はしなかったと語る。 「ウチ(野沢)も浅間さんも、根本的な部分が一緒でした。基礎をしっかりやって上につながる野球をする。その延長に全国出場がある、という考え方。部員がそれぞれ減ってくる中で、合併するなら相手はここしかないと互いに認め合っていたところがあります」  主にBチームを担うことになった浅間出身の指導陣も含めて、大人も子どもも一枚岩に。それでこそ夏の全国出場が叶い、12月にまた神宮(ポップ杯全国ファイナル)へ戻ってくることもできたのだろう。  夏は神宮での3回戦を前に敗退。ポップ杯(14チームのトーナメント)は全試合が神宮で行われ、小山は個人としても初めてとなる神宮のマウンドで、さらなる進化を示した。...

疾きこと風の如く。無敵の走塁王が全国3冠からNPBジュニアへ

疾きこと風の如く。無敵の走塁王が全国3冠か...

2023.12.18

【2023注目の逸材】 みやもと・かずき 宮本一希 ※プレー動画は➡こちら ※コラボ記事は 「ヤフーニュース」➡こちら 「フルカウント」➡こちら   【所属】大阪・新家スターズ 【学年】6年 【ポジション】捕手兼外野手 【主な打順】一番 【投打】右投右打 【身長体重】155㎝50㎏ 【好きなプロ野球選手】岡本和真(巨人) ※2023年12月10日現在  攻守走のすべてが整う中でも、セオリーや常道を覆す走塁が抜きん出ている。それが2023年の三冠王者、新家スターズ(大阪)だった。そしてその「申し子」とも言えたのが、宮本一希だった。  予選参加規模は日本球界最大の夢舞台、夏の全日本学童大会マクドナルド・トーナメントでの大活躍は既報のとおり(➡こちら)。不動のリードオフマンで主に捕手。複数枚いる投手に応じて外野を守るケースも。 今夏は日本一の胴上げ捕手に。許した盗塁は6試合で2つ(企図4)だけだった  この12月のポップアスリートカップ全国ファイナル(ポップ杯)は、5年生の藤田凰介(新チーム主将)が経験を積むべく準決勝から扇の要でスタメン出場。宮本は左翼を守って長打性の大飛球もことごとくキャッチしてみせた。 「自分の持ち味で好きなのは走塁です」  50m走のタイムは7秒切るか切らないかという俊足。このスピードは祖父からの隔世遺伝もあるという。 「ボクのお爺ちゃんが足が速かったと聞いています」 全日本学童準決勝。間一髪のタイミングで捕手のタッグをかわして生還  野球をしていた従兄弟に感化されて、新家スターズに入ったのが2年生の冬。野球の楽しさとトライする勇気をたっぷりと醸成する低学年チームの中で、俊足の度を強めて「4年生くらいからは学校でも学年一番」になっていった。  駈けるスピードを最大武器としつつ、相手投手が投球する「雰囲気に気付いてスタートする」という千代松剛史監督の独自の理論と指導(動画➡こちら)で、走塁マイスターへと昇華していった。...

バット以外でも仲間を鼓舞。野球版“ダイナモ”

バット以外でも仲間を鼓舞。野球版“ダイナモ”

2023.12.15

【2023注目の逸材】 とみた・りょう 富田凌生 ※プレー動画は➡こちら 【所属】岡山・岡山庭瀬シャークス 【学年】6年 【ポジション】一塁手兼捕手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】160㎝53㎏ 【好きなプロ野球選手】中村紀洋(元近鉄ほか) ※2023年12月10日現在  小・中・高…と進んでも、必ず終わりがやってくるのが学生野球。節目となる最後の打席を覚えている野球人は、どれくらいいるのだろうか。  富田凌生にとっての学童野球ラストゲームは、特別なものとなったに違いない。舞台は12月の東京・神宮球場。参加1440チームの頂点を決める、全国大会の準決勝だった。  四番の富田は1回裏の第1打席で、目の覚めるような先制2ランを放っている。レフトの特設70mラインをあっという間に超えていく豪快な一撃だった(下写真)。 「もっと飛ばしますよ。神宮でもフェンスの手前あたりまでは普通に運ぶ力はあります」と、中西隆志監督も認めるチームNo.1のアーチスト。自分では正確にカウントしていないが、通算で50本目くらいの本塁打になるという。 「打ったのは、ちょっと外気味だったような…あまり覚えていないです」  メジャーリーガーになる! という大きな夢を迷わず口にする富田にとって、残した数字や仔細はさして重要ではないのかもしれない。ラストゲームのその後のことも、特別な意識が働いたわけではないようだった。でもそれが逆に、仲間や人の心を動かすことに――。 冬の連覇をかけた大舞台  岡山庭瀬シャークスは、全日本学童大会にも4回出場している強豪として知られる。1年前にはポップアスリートカップで全国優勝を遂げている。 昨年のポップ杯優勝時は5年生6人がメンバー入り。富田は外れていた(写真は今年)  そのときの胴上げ右腕、武田真珠(当時5年)を擁する新チームの6年生たちが目指してきたのは、「てっぺんちょ(全国の頂)」。しかし、県予選敗退で今夏の全国出場はならず。この12月、14チームによるポップアスリートカップ全国ファイナルトーナメントの出場は、前年度優勝枠によるもの。つまり予選は免除されてきた。 「去年の6年生のプレゼントの大会やから、『岡山に帰って良い報告をする!』というので、みんなで一生懸命にやってきました」(中西監督)  前日の2回戦では、昨夏王者の中条ブルーインパルス(石川)に4対1と打ち勝って実力を証明してみせた。2週間後のクリスマス・イヴに卒団式を迎えることになっている6年生たちも、この1勝で胸をなでおろしたのかもしれない。  さて、富田の2ランで幕を開けた準決勝は以降、苦しいものとなった。先発の絶対的エース・武田が珍しく制球に苦しみ、押し出しや暴投も相次いで2対5と逆転されてしまう。「審判のジャッジがどうというより、きょうは自分の思ったボールがいきませんでした」(武田) 本番では選手を信頼して任せる。指揮官の冷静なタクトも庭瀬シャークスの特長だ...

90m弾も!全国区の強豪をけん引したマドンナ

90m弾も!全国区の強豪をけん引したマドンナ

2023.12.14

【2023注目の逸材】 なかむら・ひなつ 中村緋夏 ※プレー動画は➡こちら   【所属】宮城・大崎ジュニアドラゴン 【学年】6年 【ポジション】一塁手兼三塁手兼投手 【主な打順】二番、三番、四番 【投打】右投右打 【身長体重】155㎝50㎏ 【好きなプロ野球選手】山本由伸(前オリックス)、岡本和真(巨人) ※2023年12月10日現在    2023年は主要な全国大会ですべてプレーしたことになる。  7月末には県女子選抜のオール宮城ブルーリボンの主将として、NPBガールズトーナメントで3回戦まで進出。大崎ジュニアドラゴンでは背番号3の一・三塁守兼投手で、8月の全日本学童大会1回戦ではV候補の多賀少年野球クラブ(滋賀)に対して、先制二塁打を放つなど勝利に貢献した(2回戦敗退)。そしてこの12月、ポップアスリートカップ全国ファイナル(ポップ杯)では四番も張って銀メダルに輝いている。 「小学生の甲子園」とも言われる全日本学童大会は、実に4大会連続7回目の出場という強豪チームにあって、5年時の昨年も六番・一塁でスタメン出場(1回戦敗退)。最終学年の今年は堂々たる中軸選手として、全国区の強豪チームをリードしてきた。 県女子選抜チームでは主に一番・三塁の主将として全国16強入り  そんな中村緋夏については、キャリア13年の岩崎文博監督も一目置いてきたという。「彼女はとにかく、意識が高い。体づくりにしても野球のことについても熱心で努力をする。自分から声も出るし、チームを仕切るボスですよ」  フィールドの外では、表情も口ぶりも穏やか。仲間の輪に自然に溶け込んでいる、どこにでもいそうな小学6年生だ。気負いのようなものは感じられない。 「男女の違いとかはあまり意識していないというか、そんなに感じていないです。女子チームはみんな優しくて支え合える。自分のチームに帰ると、ここで野球をしてきて良かったなと感じます」  試合が始まると自ずとスイッチが入るのだろう。打席から一球ごとに発する「いくぞ!」という気合い(上写真)は、異性として注がれる眼差しを遮断するかのよう。スイングはシャープで押し込みも効いている。通算でホームランは13本、アベレージは5割近くをマークしている。 「公式戦で90mを超えるホームランもありましたけど、自分の持ち味は、とにかくきれいなヒットを打つことです」  一塁から内野陣へゴロを転がす動作だけでも、きれいな腕の使い方が目につく。女子選抜では三塁手と投手を兼任。投球の間隔やリズムを意図的に変えて、打者の打ち気をそらしたり、タイミングを狂わせるのが得意だという。 「将来はプロになって活躍して、ここのチーム(大崎ジュニア)に恩返しをしたいと思っています」 通算13本塁打。飛距離はチームでも1、2を争うという...

全国初陣待つ微笑みマイスター。挫けぬチームの旗印

全国初陣待つ微笑みマイスター。挫けぬチームの旗印

2023.12.08

【2023注目の逸材】 いしかわ・ゆいと 石川維人 ※プレー動画➡こちら 【所属】栃木・宇都宮ウエストキッズ 【学年】6年 【ポジション】遊撃手 【主な打順】二番 【投打】右投左打 【身長体重】148㎝39㎏ 【好きなプロ野球選手】柳田悠岐(ソフトバンク) ※2023年12月8日現在  論より証拠。まずは動画をご覧いただきたい。あるいは12月9日の東京・神宮球場にて、その目でお確かめをいただきたい。  こんなにも楽しそうにフィールドに立ち、美技や巧打を連発する小学6年生もそうそういまい。石川維人はしかも、二番・遊撃手の主将として、結成5年目の宇都宮ウエストキッズを初の全国舞台までけん引してきた。その微笑みは、挫けぬチームの象徴のようでもある。 「小学生の甲子園」こと全日本学童大会出場がチームの大目標だったが、県予選準決勝敗退で涙。しかし、失意のまま終わらなかった。  9月には栃木県下125チーム参加の巨大トーナメント、夏季大会で初優勝。さらに自主対戦形式のポップアスリートカップの県予選も制し、関東最終予選も勝ち抜いて全国ファイナルトーナメント(神宮開催)出場を決めてみせた。 「夏の県大会優勝で監督を胴上げする、という新しい目標をみんなで立てて、それを達成することができたのが一番大きな自信になっていると思います」  まだ大きくはないが、立ち姿も動作も美しい。本人はプレーを見たことがないというが、その攻守は現中日監督の立浪和義氏のPL学園高(大阪)時代をも思わせる。足を引き上げてタイミングをとりつつ、手元までボールを引き寄せてシャープに打ち返す。バットをひと握り余して持ちながらも、ヘッドの走りを十分に効かせた打撃が特長だ。 「打ち方はいろいろと教えてもらったことを基本に、自分でもミートできるように考えました。意識はグリップをボールに合わせるようなイメージです」  遊撃を守っては、内外野とバッテリーに声を掛けながら、美技を披露する。ポップの関東最終予選では、一時逆転されてなお続く大ピンチで、三遊間のゴロをギリギリで好捕しての三塁転送で奪ったアウトが流れを大きく変えた。  でも何より光るのは、爽やかな笑顔。青柳俊一監督はこう語っている。 「キャプテンになって最初のうちは毎日のように泣いていました。でも、辞めることもなく、そのまま頑張ってホントに良いキャプテンになってくれました」  絶えない笑顔の向こうには、人知れずの涙と苦労もあったのだ。石川本人が当時を振り返る。 「5年生で新キャプテンになってから、ホントに毎回泣いていました。みんなが思うように動かなくて、チームがまとまらなかったりして悩んで…」  これを脱することができたのは、周囲ではなく自分を先に変えたことだという。「みんなに声を掛けるというよりも『会話』『対話』という意識に変えました。これがきっかけだったかもしれないです」  声を出して満足。意味もなく笑っていればいいという自己完結ではない。仲間やベンチとそれぞれにやるべきことと信頼を確認できたときに、背番号10は自然に相好が崩れるのだろう。...

名将の薫陶受け、関東Vに導いた司令塔

名将の薫陶受け、関東Vに導いた司令塔

2023.09.27

【2023注目の逸材】 よこやま・たすく 横山 輔 ※プレー動画→こちら   【所属】千葉・磯辺シャークス 【学年】6年 【ポジション】捕手 【主な打順】一番 【投打】右投右打 【身長体重】155㎝48㎏ 【好きなプロ野球選手】松川虎生(ロッテ) ※2023年9月25日現在  いったいどういう育成や練習をすれば、小6でここまでの捕手が育つのか。初めて見て、そういう疑問を抱く指導者も少なくないだろう。  本人によると、野球を始めたのは1年生の秋。チーム練習の中で、捕手のイロハから学んできたという。率いる小池貴昭監督は2013年に全国8強入り。2人の息子を含めて後の甲子園球児も複数輩出しており、バッテリーの育成にも定評のある名将だ。現6年生たちは4年時からの3年計画で、直接の指導を受けてきている。 「野球をしていたお父さんのススメで1年生の11月に野球を始めました。野球の全部が大好きです」(横山) 「自主練習もお父さんとずっとやっていますけど、ティーとかバッティングがほとんどです」  磯辺シャークスの横山輔は、扇の要に立つ姿からして凛々しい。きりっとした目で敵味方のベンチや打者・走者から瞬時に情報を入れ、先を読んでフィールドの仲間へ指示を送って動かす。 捕手の動作はどれも基本に忠実。頭の回転も速く、多岐にわたるプレーもクールにこなす  その高くて響く声はまだ子ども特有のものだが、キャッチングとストッピングの技能は中高でも上のレベルに入りそう。驚くほどの強肩ではないが、送球動作もスムーズ。打球への反応と動き出し、一塁ベースのバックアップ、走者へのタッグ、本塁フォースプレーからの転送や偽投など、捕手に必要な動きをあまねく習得していて、どれも精度が高い。  ただし、「千葉県No.1」と評することができないのは、県内にもう一人、同様に突出した捕手がいるからだ。八日市場中央スポーツ少年団の伊藤瑠生(※選手紹介記事→こちら)。 大一番の惜敗を経て  夏の全日本学童大会出場をかけた6月の県予選決勝で両チームは激突し、横山がマスクをかぶる磯辺はスミイチの0対1で惜敗した。ぬるくはない名将の下、スキルも戦術も磨き抜いてきた磯辺ナインは号泣。背番号10の横山も涙を流しつつ、一人だけ報道陣に対応した。 「悔しいです。勝ちたい気持ちが1点の差だったと思います。もうちょっと、打つほうで力を出せたら…。切り替えて、これから他の大会は全部優勝できるようにがんばります」 名将・小池監督(右)は横山の人間性も高く評価。「主将として4年生からよくついてきてくれましたね。ボクの厳しい指導に(笑)」  何より打撃が好きだという一番・横山は、自ら打って出て打線に火をつけるのが役目。1週間前の県準決勝は、屈指の好投手からいきなり逆方向へ三塁打など3打数2安打1打点2得点の働きだった。しかし、決勝は大型右腕を前に2打数で音なし。チーム全体でも散発の2安打に終わり、三塁も踏ませてもらえなかった。...

夏一番スラッガー!夢舞台でも3本のアーチ

夏一番スラッガー!夢舞台でも3本のアーチ

2023.08.31

【2023注目の逸材】 小原快斗 おばら・かいと   ※全国第3号HRほか、打撃動画→→こちら 【所属】東京・不動パイレーツ 【学年】6年 【ポジション】遊撃手、捕手、投手 【主な打順】三番 【投打】右投右打 【身長体重】154㎝42㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年8月11日現在  今夏の日本で最も輝いた、小6の右スラッガーだろう。東京第2代表で出場した全日本学童大会では、大会最多タイとなる3本のサク越え本塁打をマークするなど投手陣を強力援護。6連戦5連勝での銀メダル獲得に大きく貢献した。  いずれもレフト方向への一発は、価値のあるものだった。1回戦と2回戦は、第1打席で先制アーチ。2回戦は優勝候補にも挙げられていた常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)が相手で、好右腕の珍しい失投を逃さなかった。「打ったのはほぼ真ん中です」。終わってみれば、その1点が両軍通じて唯一の得点だった。 小刻みな2ステップから瞬間的に一本足に。その勢いと着地の地面反力も利してバットが振り出されていく 「大会中にあと1、2本は打ちたいです」  その野望を叶えたのが準決勝の3回だった。160㎝超の本格派右腕が投じた85㎞の遅球をドンピシャのタイミングでバット一閃。舞い上がった白球は70mの特設フェンスを軽く越えていった。  リードを2点に広げる中押し弾に続く第3打席は、外角球を中前にはじき返してダメ押しの2点タイムリー。一人3打点の活躍で、東京勢初となる決勝進出の立役者となった。 全日本学童準決勝で大会3号アーチ。球の緩急を苦にしないのは体幹の強さと日々の自主練の成果だろう 「一昨日(3打席凡退)と昨日(先制二塁打1本)はちょっと力み過ぎていたので、今日はリラックスして打席に入りました」 天性におぼれぬ努力家  「身長も伸びてきたし、本能型なので球の速さも関係なく打てる」  永井丈史監督からそう評される小原快斗は、確かに遊撃守備もダイナミックで、持って生まれた野性味のようなものも感じさせる。男3兄弟の末っ子で、3歳上と6歳上の兄たちも不動パイレーツの卒団生。幼いころから、その兄たちの背中を追いかけてきたとあって、小1でチームに入る以前から、ボールを投げることや打つことは当たり前にできたという。 捕手と投手は急造ながら強肩を活かし、全国舞台でも無難にこなした。「打撃を磨いて将来はプロ選手になりたいです」  強肩を買われ、6年生になって捕手や投手を急に任されても無難にこなせているのは「兄たちがやっていたのも見ていたので」。幼少期から脳裏に刻まれたイメージもあるというが、やはり、それだけではなかった。...

気付けば二刀流の旗印。「ワクワク」の全国へ

気付けば二刀流の旗印。「ワクワク」の全国へ

2023.07.28

【2023注目の逸材】 中根裕貴 なかね・ゆうき ※投球・打撃の動画→→こちら 【所属】茨城・茎崎ファイターズ 【学年】6年 【ポジション】投手、一塁手、左翼手 【主な打順】四番 【投打】左投左打 【身長体重】150㎝36㎏ 【好きなプロ野球選手】柳田悠岐(ソフトバンク) ※2023年7月25日現在  コンパクトに畳まれた左の腕が、しなりながら振られていく。速球も遅球も安定したコントロールは、被弾やバックに失策があっても乱れない。この2年あまりで左打席からサク越えを6本。軽やかな身のこなしと50m走7.2秒のスピードは、外野守備での決定的な美技にもつながっている。  2年ぶり10回目の全日本学童大会出場を決めている茎崎ファイターズの、さすがはエースで四番。粒ぞろいの6年生6人の中でも、中根裕貴は頭ひとつ抜けている感がある。 全国出場を決めた県大会決勝は、4回途中のピンチから救援して胴上げ投手に  ところが、吉田祐司監督は「今年のチームはホントに力がない」とやや渋い顔。看板選手の中根についても「もともと、そんなにすごい選手ではなかったんですよ」と、思わぬことを口にする。2019年には全国準Vの実直な指揮官の言葉にはいつも嘘がないから、実際にそうだったのだろう。 「ヘタに背伸びせず、身の丈に合ったピッチングができるのが中根の良いところですね」(同監督) 5年生を前にいばらの道へ  父は元球児で、母は元バレーボール選手。姉に続く長男として生まれた中根は、就学前の年長から野球を始めた。「楽しいだけでした」。  それが一変したのは4年生の終わり。全国に名の通るこのチームにやってきてからだった。野球のレベルも知識も、個々の能力も意識も段違いのなかで、相当に揉まれたようだ。 「覚えることとかいろいろあって、みんなに教えてもらったりしたけど、かなり大変でした」  自らも望んだ道を引き返すわけにはいかない。中根は覚悟を決めて、一人で自主練習に励むようになったという。素振り、壁当て、シャドーピッチングなど平日は毎日約1時間。「エースになりたい! 勝ちたい! という気持ちでずっとやっきてました」。 驚くような球速はないが、緩急と左右に散らす技巧で冷静にアウトを重ねる。きれいなフォームは自主練の賜物だ  本格的に投手になったのは5年秋の新チームになってから。積み重ねてきた努力が実を結び、エース格として新人戦の県大会優勝、さらに関東大会準優勝を遂げた。 「野球の魅力? みんなで協力して勝ったときの喜び」  6年生になって迎えた勝負の6月。左腕は絶対的なエースとして、また勝負強い四番打者として、全国予選の県大会優勝に大きく貢献した。...

幼児から名門で成長。ピアノも奏でる万能戦士

幼児から名門で成長。ピアノも奏でる万能戦士

2023.07.14

【2023注目の逸材】 境 翔太 さかい・しょうた  ※送球・投球・打撃・盗塁の動画→こちら 【所属】愛知・北名古屋ドリームス 【学年】6年 【ポジション】捕手、投手、遊撃手 【主な打順】二番、三番 【投打】右投右打 【身長体重】153㎝43㎏ 【好きなプロ野球選手】岡林勇希(中日) ※2023年6月25日現在  ヒトは幼児期から10歳までに、身のこなしなどの神経系が著しく発達する。トップアスリートはこの時期に、運動の基礎能力の絶対値が引き上がっていたケースが多いという。  未就学児にも門戸を開いている北名古屋ドリームスで、年長から野球をしている境翔太にも、そういう傾向を見て取ることができる。  捕手、投手、遊撃手をそつなくこなす。打席では球速やコースを問わず、鋭く振り抜くバットの芯でストライク球をとらえてみせる。 「抜群の身体能力で、何でもできる」と評するのは、2021年の全日本学童大会でチームを準優勝に導いた岡秀信監督。小学生にしてオールラウンドの逸材だからこそ、あえて役割を限定せずに可能性を広げている側面もあるようだ。 「攻撃に関しても足が速くて一番も打てるし、三番も打てるし、勝負強さもあるので四番も打てる。だからあえて、二番バッターという、ちょっと変わった使い方をしています」 北名古屋打線のキーになる二番打者。ヒザから上の重心移動でタイミングをとりつつ、速球も遅球もピシャリと打ち抜いていく  今夏の全日本学童出場を決めた大一番。愛知大会の決勝では、境の三塁打で入った先制点が、そのまま決勝点に。「試合がちょっとこう着した中で、みんなが勇気をもらった一打でしたね。境に限らず、ウチは伝統的に二番バッターを重要視しているんですよ」(同監督)。  本人も最大のセールスポイントは打撃だという。「打ちだしたら止まらないタイプで、頼れるバッターというか…。ココというときには、初球から打ちにいこうとしているから、良い結果につながっていると思います」 野球より早く夢中に  野球経験者の父と、名古屋ドームで中日対楽天のオープン戦を見たことが、チーに入ったきっかけだという。 チーム事情もあって最上級生となってから捕手に初トライ。持ち前の吸収力にコーチの専門的な指導もあって、県No.1捕手に成長している 「キッズ(2年生以下)ではみんな楽しく笑顔でやっていたので、土曜日の野球がまた楽しみだなと。それしかありませんでした」  ただし、より早く始めていたのが水曜日のピアノと、金曜日の水泳。どちらも自らの希望で始めて、今なお夢中だという。「ピアノの発表会は年中から毎年出ていて、今年は菅田将暉の『虹』を練習しています。一番の目標はプロ野球選手なので、ピアニストの夢はないです。ピアノの集中力とか、水泳の肩の動きとか、野球に生きている面もたくさんあります」。  自分の考えを自分の言葉で、これだけ冷静に話せるのは、フィールド外の経験も生きているせいかもしれない。チームの活動は週末と祝祭日のみで、木曜日はバッティングセンターで、ほかの平日も時間があるときには自宅内の大部屋で打撃練習に励んでいるという。...

全国予選で千葉二冠の秀逸バッテリー

全国予選で千葉二冠の秀逸バッテリー

2023.07.10

【2023注目の逸材】 富永孝太郎 とみなが・こうたろう ※投球・打撃の動画→こちら 【所属】千葉・八日市場中央スポーツ少年団 【学年】6年 【ポジション】投手、遊撃手 【主な打順】二番 【投打】右投右打 【身長体重】162㎝62㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年7月9日現在   【2023注目の逸材】 伊藤瑠生 いとう・るい ※捕球送球・打撃の動画→こちら 【所属】千葉・八日市場中央スポーツ少年団 【学年】6年 【ポジション】捕手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】153㎝44㎏ 【好きなプロ野球選手】山本由伸(オリックス) ※2023年7月9日現在  ...

夏の全国でベール脱ぐ?両投両打の異端球児

夏の全国でベール脱ぐ?両投両打の異端球児

2023.07.03

【2023注目の逸材】 原 悠翔 はら・ゆうと  ※投球・打撃の動画→こちら  【所属】東京・船橋フェニックス 【学年】6年 【ポジション】投手、中堅手、三塁手、遊撃手 【主な打順】三番 【投打】両投両打 【身長体重】160㎝52㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年6月17日現在  四刀流か、五刀流か。いや、器用さとマルチなプレーもここまでくると「阿修羅(あしゅら)」と表現したほうがいいのかもしれない。腕が6本ある戦いの神、阿修羅像のイメージを地でいく小学6年生が東京にいる。  今夏の全日本学童大会に初出場を決めている船橋フェニックスの背番号1、原悠翔だ。同大会の東京予選3位決定戦(※リポート→こちら)では、最速118㎞/hをマークしたエース右腕。三番打者として左打席から4打数3安打5打点、2盗塁、第4打席では中越えのサク越え3ランを放っている。この投打だけでも十分に全国クラスにあるが、実は左投げと右打ちもできるという。要するに「両投両打」の金の卵なのだ。 「右打ちはまだ練習試合でやり始めたくらいですけど、投手の左投げは公式戦でもいけると思います。自分でも(両投両打の)四刀流いけるんじゃね? というか、これからも挑戦してみたい気持ちが強いです」 左ヒザを抱き込むようにしながらのヒールアップから投じる速球は最速120km/h超(自宅で計測)。全国予選の都大会3位決定戦では118km/hをマーク  この6月半ば、一家でボールパーク柏の葉(千葉県)へ練習に訪れていた際に、左投げの投球も見せてもらった(動作参照)。即興のフォームや素人投げでないのは明らかで、同施設のスピードガンはコンスタントに100km/h以上を表示。  左投げを始めたのは4年生で、右ヒジを痛めたことによる2カ月のノースロー期間がきっかけだという。「もともと左でも投げられる感じがあったんです。1年生のときのソフトボール投げで、右が25m、左で15m。意外と投げられるなというのがそのころから…」  父との特訓後。屋内練習場の人工芝に座って原が話し始めると、それまではネット越しに見学していた妹や弟たちが入ってきて戯れだした。ドッグランに開放されて、はしゃぎまくる利口な犬のように、われ先にと逆立ち歩きで行ったり来たりしながらカラカラと笑っている。この曲芸団のような一家は何なんだ? 両投げの長男(原)も激レアだが、妹たちの奔放な身のこなしとバランス感覚といったら…。 「原クンもあんな逆立ち歩きできるの? はい、余裕でできますけど、弟たちのほうがレベルが上ですね」  言葉を失いかける取材者に、補足で説明してくれたのが笑顔のやさしい母だった。「ウチの子たちは幼児体育を採り入れている保育園に通っているんです。園児たちは全員、逆立ちはできると思います」。 セットポジションやクイック投法でも腕の振りが変わらず、コントロールが安定している  原が野球を始めたのは年長のときの、父とのプロ野球観戦がきっかけ。「日本ハムの大谷翔平(現エンゼルス)のホームランを見て、やりたくなりました。(すでに当時)跳び箱を15段とか跳んでいた僕に、お父さんはサッカーをやらせたかったらしいんですけど、5分観戦して(約束の)ジュースをもらって帰りました(笑)」  自宅内外での平日練習から熱心にサポートしてくれる父は元サッカー少年で、高校は野球部でプレーしたという。 「何でもできる」  地区大会クラスのチームなら、現状の左投げでもエースになれるだろう。球威、球速、制球、いずれも上回る右投げの投球は、完成度の高さと幅の広さに目を見張るものがある。...

全国王者にリベンジを期すバッテリー

全国王者にリベンジを期すバッテリー

2023.06.09

【2023注目の逸材】 山本愛葉 やまもと・まなは ※投球・打撃の動画→こちら 【所属】石川・館野学童野球クラブ 【学年】6年 【ポジション】投手、一塁手 【主な打順】二番、七番 【投打】左投左打 【身長体重】147㎝34㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年6月6日現在     【2023注目の逸材】 中村颯真 なかむら・そうま ※送球・打撃の動画→こちら 【所属】石川・館野学童野球クラブ 【学年】6年 【ポジション】捕手 【主な打順】四番 【投打】右投左打 【身長体重】150㎝56㎏ 【好きなプロ野球選手】村上宗隆(ヤクルト) ※2023年6月6日現在...

伝統にプラスαを象徴、超名門の攻守の要

伝統にプラスαを象徴、超名門の攻守の要

2023.05.29

【2023注目の逸材】 本多希光 ほんだ・のぞみ ※捕球・送球・打撃の動画→こちら   【所属】福島・常磐軟式野球スポーツ少年団 【学年】6年 【ポジション】捕手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】146㎝41㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(レッドソックス) ※2023年5月28日現在 「小学生の甲子園」とも言われる夏の全日本学童大会で、史上最多の出場記録(22回)を更新中の常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)。堅固な守りと巧みな走塁が代名詞でもあるが、創立から40年という節目にある2023年度は趣がいくぶんか異なる。  6年生10人を中心に、個々の打力が相当に高いレベルにあるのだ。OBコーチが投じる、少なくとも110km/hはあろうかというスピードボールも難なく打ち返してみせる。また山なりのスローボールは、手元まで引き寄せてからのフルスイングで外野へ鋭く弾き返していく。 速球に負けないスイング力に、遅球で崩されない体幹と術も。余して持ったバットで状況に応じた打撃を披露する 「冬の間は、階段ダッシュやソフトボール打ちや素振りなど、基礎的なトレーニングをしてきました。今年は守備とか走塁も標準より高いと思うんですけど、バッティングが一番自信があります。1人が打ち始めると、どんどん乗ってくる感じです」  チームをこう評する本多希光主将は、攻守の要だ。正捕手として4人の投手陣を自分でリードし、強打者が並ぶ打線では四番を張る。 「自分はチャンスで打席が回ってくることが多くて、そこで結果を残せているのが一番の持ち味です」 左右の強打者が並ぶ打線にあって四番に鎮座。自他ともに認める勝負強さが最大のセールスポイントだ  天井正之監督もその勝負強さを高く評価している。「必ずしも良い当たりでなくても、得点につながるようなポイントゲッターの役目を果たしてくれているし、そこをこれからも期待しています」  本多は5年時からレギュラーで、昨夏の全日本学童1回戦(対北北海道・旭稜野球少年団)は六番・中堅で先発出場した。試合は4対9で敗れたものの、第2打席にチーム初タイムリーとなる中越え二塁打を放っている(下写真)。 「外野がヘタッピになってきて、どこもできねえからキャッチャーにしたんです」と指揮官は冗談めかして言うが、そこは堅守のキーになるポジション。理路整然とした話しぶりからもうかがええるように、経験豊富な本多の勝負度胸や頭の回転力もすっかり見抜いた上で、扇の要に据えたのだろう。 「キャッチャーは配球とかカバーリングとか、やることも多くて大変ですけど楽しいです。ピッチャーとのコミュニケーションを大切にして、ピッチャーが気持ち良く投げられるようなキャッチング、ストッピングを意識しています」(本多)  配球面もほぼ任されている。「ピッチャーはみんな持ち味が違うので、それぞれにリードしています」  週6日はチーム練習がある中で、唯一のフリーとなる水曜日も自主練に励む。捕手のステップワークや素振りや柔軟体操など、己を磨いているという。...

“五刀流”サウスポー、全国デビューなるか!?

“五刀流”サウスポー、全国デビューなるか!?

2023.05.26

【2023注目の逸材】 郡司 啓 ぐんじ・ひろむ ※投球&打撃の動画→こちら   【所属】栃木・簗瀬スポーツ 【学年】6年 【ポジション】投手兼遊撃手 【主な打順】一番、二番 【投打】左投左打 【身長体重】151㎝39㎏ 【好きなプロ野球選手】佐々木朗希(ロッテ) ※2023年5月23日現在  投・守・打・走。どれも目を奪われてしまう一番の理由は、身のこなしがスムーズで軽やかなことだろう。もっと端的に言えば、動作が美しいのだ。  それが左投左打、生粋のサウスポーだから余計に目立つのかもしれない。「守」は、遊撃手と中堅手も抜群にこなすので“五刀流”とも言えるが、郡司啓はそこまでお調子者ではないようだ。 「夢は投打の二刀流でプロ野球選手になることです」  投げては「参考にしている」と言うロッテ・佐々木朗希のように片足を高く引き上げても、きれいに直立。そして、頭上に掲げたグラブで程よくブレーキをかけながら踏み出していく。左腕は最後に振られるまでは肩の後ろで折り畳まれており、打者には「球の出所が見えにくい」フォームとなっている。 平日の火曜は学習塾で、水・木(室内)・金曜はチーム練習。ストレッチは日々やっており、肘肩のケガは一度もないという  ミート力が際立つ左打席では、前足の裏を投手に見せながらのテイクバックから振り抜きまでの動作がシンプルでムダがない。外野手の頭上や間へ鋭いライナーを飛ばしてからの、ダイヤモンドを疾走する様がまた人々の目をクギ付けにする。さらに次の打席ではセーフティバントを決めるなど、対戦相手には厄介なことこの上ない。  父は元ラガーマンで、母は元ソフトボールの選手。生まれ持った身体能力を何に生かそうか、小1までは決まらずに遊んでいたという。 5年時の50m走タイムは7秒9。3月の地元の交流大会のイベント、対抗リレーではアンカーを務めてトップでゴール 「サッカーか野球か、かなり迷いましたけど、お父さんから『自分で決めろ!』と言われていて、2年生の途中から野球のチームに入りました」  最後の決め手となったのは、小2の5月。春の宇都宮市大会の決勝を父親と観戦し、地元・簗瀬(やなせ)スポーツの優勝を目の当たりにしたことだったという。それから4年後のこの5月、チームは春の市王者に返り咲いて全日本学童栃木大会への出場も決めている(市内上位6チーム参加)。 5年時の最速は93㎞/h。2023年は未計測だが、105km/hには達しているはず。「全国大会で110は出したいです」 「何か運命的なものを感じたというか、感慨深いものがありましたね」と語る父・理さんはチームの代表も務める。背番号1の長男はMVP級の働きだった。  2回戦から決勝までの全5試合に一番・投手で先発。決勝では左中間への先頭打者本塁打を含む1試合2発など、大会で計5本塁打を放っている。「最近はバッティングが良くなってきて、二塁打があればサイクル安打という試合もありました」(郡司)。...

昨夏に続く全国登板へ。現代っ子版“YOSSY”

昨夏に続く全国登板へ。現代っ子版“YOSSY”

2023.05.19

【2023注目の逸材】 杉山璃空 すぎやま・りく ※投球&打撃の動画→こちら 【所属】千葉・大和田タイガース 【学年】6年 【ポジション】投手兼遊撃手 【主な打順】一番、三番 【投打】右投右打 【身長体重】153㎝39㎏➡158㎝43㎏ 【好きなプロ野球選手】山本由伸(オリックス→ドジャース)、源田壮亮(西武) ※2023年12月24日更新  関東でも2枠。全国スポーツ少年団軟式野球交流大会が「夢のまた夢」と言われるゆえんは、競争倍率の高さにある。都道府県大会に続き、最終予選のブロック大会が待っているのだ(一部ブロック除く)。千葉県の大和田タイガースは昨年、県大会から関東大会までを勝ち続けて最終2枠に初めて入ってみせた。  8月に奈良県で開催された全国大会は1回戦で散ったが、当時5年生の杉山璃空は三番・遊撃でスタメン出場していた。1回裏に犠打を決めて2点先取に貢献。2対2とされた2回表に救援のマウンドへ。相手打線の勢いを止められず、一発も浴びるなど2対10とされて降板した。そして2対14で迎えた4回裏に試合時間が既定の90分を超え、二死から内野ゴロに終わった杉山が最後の打者となった。 筋肉の緊張ではなく、関節でバランスをとりつつ、左右対称の「割り」動作から右腕が力強く振られていく  途中から三塁の守備に入った従弟の杉山燎(当時5年)とともに、夢舞台のハイレベルを肌感で得たことは、当人たちにもチームにとっても大きな財産となったようだ。 「今年は全国制覇したいです!」  その至難さを人より知る2人が、堂々と口をそろえるのは6年生10人の現チームに手応えを感じているからだろう。杉山コンビが攻守の肝だが、ほか8人の能力も総じて平均より高く、個性的で役割を個々に心得ている。とりわけ心強いのは、多士済々の4枚の投手陣だ。 「自分の一番良いところ? コントロールです」  こう語る杉山は、右本格派のエース。たとえ3ボールになっても、ファウルで粘られようとも、涼し気な顔でストライクを投じてみせる。今年の全国予選となる県大会1回戦では、圧巻の奪三振ショーを披露した。先頭から5者連続で空振り三振に。スローボールを初めて投じたのは2回で、二死から遊撃内野安打を許したものの、ペースも制球もまるで乱れず。結局、3回まで投げて打者10人に対して1安打8三振、四死球と失点が0という完璧に近い投球で、味方打線の得点も導いた。 最速108㎞/h。けん制もクイックモーションも巧み。毎週木曜は地元・千葉ロッテのマリーンズアカデミーで動作も学んでいる 「先発のときは、良いリズムで守って攻撃につなげられるように心掛けています」  つまり、奪三振は結果に過ぎず、ワンマンショーを演じる気はないのだという。父親でもある杉山正明監督は「4年生から5年生の春あたりまでは、態度が悪い時期もありました」と振り返るが、多くの少年は生意気や勘違いも経験しながら社会性を身につけていくのだ。 「打つほうはランナーがいなければ、低いライナーを。ランナーがいたら、サインとか状況に応じたバッティングを心掛けています」(杉山) 打線では昨夏の全国では三番、今年は主に一番を任される。スラッガーとしても将来性十分  先発投手として流れを呼び込み、一番打者として打線に勢いや勇気を与えるのが役目。先頭打者ホームランも過去に複数本放っているという。...

新人戦で東北準V。頼れる四番は激レア捕手

新人戦で東北準V。頼れる四番は激レア捕手

2023.05.17

【2023注目の逸材】 菊地洸佑 きくち・こうすけ ※打撃と送球・バックアップの動画→こちら 【所属】福島・南相馬野球スポーツ少年団 【学年】6年 【ポジション】捕手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】157㎝50㎏ 【好きなプロ野球選手】岡本和真(巨人) ※2023年5月10日現在  中学生でもここまで確実に、また根気よく、バックアップができる捕手はそう多くはないだろう。学童野球では全国レベルでも、間違いなくレアケースだ。  走者なし、または走者一塁。相手の打球が内野に転がるや、菊地洸佑はマスクを飛ばしながら一塁方向へスタートを切る。160㎝に迫る大柄のパワー自慢とはいえ、レガースもプロテクターもヘルメットもミットも着けたまま、1試合をやり切るだけでも骨が折れるはず。さすがに試合終盤にはスピードが鈍ってくるものの、序盤は打者走者を追い越しそうな場面すらある。 「カバーリングとバックアップは毎年、徹底しているんですよ」  こう語る佐藤英雅監督は、昨秋の新人戦で5年生(現6年生)6人のチームを福島大会優勝、さらに東北大会準優勝まで導いた。「菊地もよくやっていると思いますけど、まだ満足はしていません」。 当然のバックアップを当たり前にやり続ける捕手。「ピンチで自分からタイムを取ってマウンドに行くとか、そいういのを実行できていないのが課題です」(菊地)  学童の軟式野球は学校の校庭や河川敷など、フェンスに囲まれた球場以外での試合も多々。そして公式戦になると、ベンチ裏から外野のファウルエリアにかけて、ボールデットとなる境界線が引かれたりする。  そういう環境下で、守備時のオフ・ザ・ボールの動きの必要性や意図を小学生が理解し、マスターするのは容易ではない。だが、上のカテゴリーでは必須だ。また、フェンスのある球場で行われる都道府県大会や全国大会では、バックアップで防げたはずの失点も珍しくない。 「自分がバックアップに入れば、内野手が思い切って投げられる。(ライトゴロを狙った)悪送球を自分が捕って、走者を二塁に行かせなかったこともあります」  こう語る菊地は、外野手から捕手に転じてまだ1年強。しかも、野球を始めたのが4年生の春だというから驚きだ。おまけに、投打以外はすべてが左利き、と聞かされて開いた口がふさがらなくなる。 4年生の春から野球を始めて、5年生で四番・捕手となって秋の東北大会準優勝。学童野球では規格外の特大アーチや場外弾も放つ 「3年生までは特に何もせず、学校から帰ったら友達と普通に遊んでました」  そんな菊地が野球をしている父親に感化され、チームに入ってきた当時を指揮官はよく覚えている。「野球を知らないし、何もできなかったですね、最初は。左利きなのに右投げ右打ちで、あまりにもぎこちないので、彼の父親にも『本当にいいの?』と何度も確認しました」(佐藤監督)  本人によると、右投右打は特にこだわりがあったわけではなく、自然な成り行きだという。レアな4年生。その後の成長ぶりは目を見張るものがあった、とも指揮官は語る。 「吸収が早くて、野球に染まるのも早かったですね。性格が真面目で、他の子が遊んでしまうようなときでも黙々とやるタイプ。5年生でキャッチャーをやらせたときも、時間がかかるかなと思ったけど、すぐに試合でも守れるように…」...

3年連続の全国で集大成へ。信頼度No.1の二刀流

3年連続の全国で集大成へ。信頼度No.1の二刀流

2023.05.12

【2023注目の逸材】 筒井遙大 つつい・ようだい ※投打の動画→こちら 【所属】滋賀・多賀少年野球クラブ 【学年】6年 【ポジション】主に投手、遊撃手 【主な打順】一番、二番 【投打】右投左打 【身長体重】154㎝48㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年5月10日現在  多くの注目を集めた、昨夏の全日本学童大会の2回戦(対大阪・長曽根ストロングス)。多賀少年野球クラブは1対4で迎えた最終6回裏に、一死からソロアーチが飛び出して2点差に迫る。なお、二死一塁。ここで左打席へ向かおうとした筒井遙大は、ベンチ前で辻正人監督から呼び止められた。 「ええか、ひと振りでフェンスオーバーを狙ってこい!」  チームは過去に連覇も達成している全国屈指の名門。打線はこの試合でもサク越え弾を2発放っていた。筒井は5年生(当時)ながら、その四番である。指揮官の檄はハッタリでも気休めでもなかった。同点2ランをリアルに描いていたのだ、きっと。 昨夏の全日本学童2回戦の6回裏。一発なら同点となる打席を前に指揮官から「フェンスオーバーを狙え!」(上)。だが、結果は二飛(下)でゲームセット  3球ファウルもあってフルカウントからの8球目。投球にタイミングは合っていた。が、フルスイングで放った白球は二塁手の頭上高くへ。試合はそのまま決着した。 「6年生に申し訳ないな」  直後は涙も出た最終打者だが、引きずらずにこう切り替えたという。 「終わったことは終わったことやし、来年またここで頑張ろう」  誓いを果たすのはこれからになるが、まずはその夢舞台に今夏も立てることが決まった。先の大型連休中に滋賀県大会を制し、6大会連続16回目の全日本学童出場を決めたのだ。 「接戦もありましたけど、チームのみんなで協力し合って粘り強く勝つことができました」  誰か一人に頼り切らないのがチームの伝統で、投手陣は筒井ら5枚の継投で4試合を乗り切った。ケガ人もあったりで打線では二番に入った筒井は、準々決勝の同点で迎えた最終回に決勝ソロを放っている。 5年生から70mのフェンスオーバーも頻繁に。逆方向へも長打、巧打がある。夏の全国では2年連続で二塁打を放っている 「全国ではとにかく0点で抑えたい!」  優勝や日本一という言葉ではなく、自分の役割を自覚した上で、抱負を具体的に語る。実は全日本学童大会の1回戦で2年続けて先発しているのが、この右腕。一昨年の4年時は一死も奪えずに降板したが、昨年はゲームをつくり、冒頭の2回戦でも先発するなど2試合で計5回2/3を投げた。打者28人に対して被安打5、4奪三振、3四死球で自責点は5。...

見るほど聞くほど、首ったけ“二刀流”

見るほど聞くほど、首ったけ“二刀流”

2023.05.05

【2023注目の逸材】 柴坂奏斗 しばさか・かなと ※投打の動画→こちら 【所属】大阪・山田西リトルウルフ 【学年】4年 【ポジション】投手、遊撃手 【主な打順】一番、三番、四番 【投打】右投左打 【身長体重】146㎝34㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年4月30日現在 まず、目につくのは6年生のような高身長と均整なフォーム。週2日は野球教室で投打のメカニクスも学んでいるという  数え年でようやく10歳。そんな少年少女をつかまえて「天才」だの「大器」だのと触れ回るのは、いかにも気が早いのかもしれない。身のこなしの巧みさなど、神経系や身体能力の絶対値もまだまだ上がる最中だ。  分かってはいても、見過ごせない4年生が大阪にいる。柴坂奏斗。全国に名立たるマンモス軍、山田西リトルウルフでプレーする二刀流の“金の卵”は、キャリア14年の指揮官をもうならせる。 「奏斗はホンマに純粋で、野球が大好きなんやというのもよう分かる。将来はいったい…。今までにないくらいの楽しみな感じがありますね」  4・5年生チームを受け持つ中濱賢明監督は、この春に進級した4年生たちを直に指導してまだ3カ月あまり。それでも柴坂には内心、期待や希望がどんどんふくらんでくるという。 4年生になったばかりでMAX93km/h。マウンドでは一人相撲もたっぷり経験してきた上で、徐々にゲームメークもできるエースへと成長中  すでに146㎝と、恵まれた体格を持て余していない。駆け足は学校でも学年トップだ。フィールドでは打っても投げても守っても際立つ。だからといって王様気取りもなく、一心不乱にプレーする様がただただ微笑ましい。会心の一打の後には拳を突き上げる。白い八重歯ものぞくスマイルは、見守る大人たちの清涼剤だ。加えて中濱監督が驚かされるのは、スポンジが水を吸うような理解力と対応能力だという。 「以前は力んで四球連発が多かったそうです。私が見ても目一杯で、あとはボールに聞いてくれ! みたいな感じなので70~80%で投げても大丈夫な状況や場面もあることを教えました。バットは大人用のレガシー(複合型バット)を目一杯に長く持っていて、長打もあるけど差し込まれがちやったので『ひと握り余して握っても何もカッコ悪いことない。日本一のチームもそれでホームランを打っとるんよ』と」  柴坂はその後、確実にゲームをつくるエース格へと成長しつつある。かつてはイニングに平均20球を要していたのが、最近は半数近くに。打撃では逆方向への長打も高い確率で生まれているという。 落ち着いて柔らかい物腰が、試合中はご覧の勝ち気や笑顔に 4兄弟姉妹の末っ子  父は身長186㎝の元球児で、母は169㎝の元バレーボール選手。中3の長姉は大阪選抜でプレーするほどの野球の腕前で、中2の兄も軟式野球部で今まさに伸び盛り。この2人に父はスパルタ的な指導を施したせいか、小5の姉は野球にはノータッチだという。  そんな4兄弟姉妹の末っ子、次男坊の奏斗は2年生の夏、迷わずに山田西の門を叩いた。兄も姉もプレーしていたこのチームに幼少時から帯同し、みんなに可愛がられてきたからだ。父・祥吾さんは受け身のサポートに徹しているという。 「上の子たちにやり過ぎたという反省もありまして。奏斗とは2歳くらいからボール遊びをしてきて、今は93㎞をほうってます。要因? 体幹がすごく強いのはあると思います」...

圧巻コントール!威風堂々、昨年末の胴上げ右腕

圧巻コントール!威風堂々、昨年末の胴上げ右腕

2023.04.24

【2023注目の逸材】 武田真珠 たけだ・ましろ   ※投球動画→こちら 【所属】岡山・岡山庭瀬シャークス 【学年】6年 【ポジション】投手、三塁手 【主な打順】一番、三番、四番 【投打】右投右打 【身長体重】157㎝44㎏ 【好きなプロ野球選手】吉田正尚(レッドソックス) ※2023年4月24日現在 持ち味のコントロールは全国優勝をかけた昨年末の大一番でも乱れず。「長谷川康生さん(2016年全日本学童出場時のエースで現・三菱自動車倉敷)以上になりたいです!」  2022年の学童野球のとりを飾ったのは、当時5年生の右腕だった。岡山庭瀬シャークスの武田真珠だ。  ライブ配信や動画でチェックした人も多いことだろう。昨年12月18日、東京・神宮球場でのポップアスリートカップの全国ファイナル決勝。庭瀬が大阪・長曽根ストロングスを7対6で下し、初優勝を飾った。  全日本学童で史上最多7度の優勝を誇る長曽根は、1回表に5得点。しかし、庭瀬はその裏、押し出し四球をはさむ6連打などで6対5と一気に逆転する。この6連打の5本目、ボテボテの投ゴロながら快足を飛ばして内野安打としてみせたのが、八番・三塁の武田だった。 「50m走は7.5秒くらい。サードも楽しいですけど、打つのが一番好き。広角に打てるのが自分の良いところです」 バットは短く持ち、足を大きく上げるフォームから広角に鋭いライナーを放つ  スタメンのほか8人は6年生の中で、正三塁手だった武田は身のこなしと正確なスローイング、シャープなバットスイングと足の速さで1回戦から目立っていた。そして決勝では大逆転直後の2回表から、より魅力的な顔をのぞかせたのである。 「次(新チーム)のエースになってもらわんといけん選手」と、中西隆志監督から救援のマウンドに送られた。すると、一番から始まった猛打の相手打線から2奪三振の3者凡退で斬ってみせた。そしてそのまま最後まで投げ切って胴上げ投手に。6回まで打者18人に対して、被安打2に四死球0の1失点。5回に失った1点は失策絡みで自責点は0だ。  何より図抜けていたのが、コントロールだった。内外の投げ分けに加えて、アウトコースの出し入れも自在。たとえボール球が先行しても、必ず並行カウントまで持ち込む。けん制も巧みで、つけ入るスキを相手にほぼ与えなかった。 三塁守備では、猫科の動物が獲物を追うときのような俊敏な動作と正確な送球が光る 「普段はシャイな子なのに、相手が強くなるほど燃えてくるタイプ」とは、庭瀬の都築慎一朗事務局長の武田評。オール6年生の全国区の強敵との大一番でも、真価を発揮したメンタルは、今後もチームと自身を助けてくれることだろう。  むろん、タフなハートは相応の努力の上に成り立っている。チームの活動は週末のみで、平日5日間は2歳上の兄と自主トレに2時間あまり励む。坂道ダッシュに始まり、キャッチボール、守備の動作確認とティー打撃までがルーティン。時期や状態によって、投球練習もしているという。 再び、神宮のマウンドへ...